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株式会社ライフスパイス 市原 千尋 2003-10-16
スキルアップという言葉は不思議である。
昔、正社員30人程度の小さなSOHOネットワーク管理会社で、いろんな職種の採用を担当したことがある。
なぜこの会社を?という質問に対して、
「スキルアップのためです」
と、しれっと答える人が割といた。直接その言葉を使っていなくても、ちょっと違う角度から突っついてみると、けっこうな割合で就職希望者たちは「スキルアップのため」を念頭に置いていることがわかった。
「スキルアップのためです」
実にさっぱりしていて、クールで、明朗である。時代はITバブルのさなか、就職雑誌やビジネス本でも「スキルアップ」が大流行していた。僕はいつも素直にこう聞いた。
「スキルをアップって、何をアップさせるんです?」
「え?その、いろいろと、仕事をやる中で学んでいけたらと思いまして」
「ここ、研修とかやんないですよ」
ほんとにそんな時間はなかったので即座に実戦投入である。事務職で応募してきた人たちに、面接席上で営業のアポがけのシミュレーションをやってもらおうとしたら、その場で荷物を片づけはじめる人もけっこういた。
「スキルアップしたいなら、営業とかもやっといて損はないのでは?」
応募した職種以外に興味はないというから、それなら小さくて不安定なITベンチャーを受けるのはやめて、余力のある大きい会社をねらった方がいいですよ、と言ってあげると、たいていが余計なお世話ですと言わんばかりに怒ってしまう。
しかし専門性というのは難しい。専門分野のスペシャリストとして利益を生み出せるようになるには長い時間がかかる。
昔は見習いとか丁稚奉公は給料なんてもらえなかった。まだ未熟で利益を生み出せないばかりでなく、仕事の習得という過程において個人が得るメリットの方が多いのだから仕方がない。「スキルアップ」とさわやかに言ってのける人の多くは、それに堪えられそうには思えなかったし、本気で考えている人はすでにその道でレールに乗っているはずだ。
僕自身、スペシャリストのレールに乗れなかったから、日々のパン代のためにSOHO制作スタッフとしてその会社に応募し、SOHOのはずがいつのまにか誘われて正社員になった。そして制作担当だったはずが経済新聞を読む管理職になり、そうこうしているうちに営業やクレーム処理もやらざるを得なくなり、弁護士といろんな契約書作成をした。経営サイドに入れてもらってからは、監査法人と株式上場の段取りを詰め、弁理士とは特許関係、税理士と経理内容のチェック、そしてなぜだか政治家や財界OBやらが次々と出てきて、ただワケのわからぬまま人と会う毎日。これぞニッポンという社会の一片を、20倍速の速さでビデオ再生して垣間見ているような感じだった。
ITバブルがはじけて、会社の清算を目のあたりにすることになったが、その後は自分の原点だった制作畑のSOHOとして独り立ちした。技術会社をつくってまだ3年だが、なんとか堅実に進んでいるのも、前の会社で失敗も含めて一通りの経験をさせてもらったからだろう。
人を雇う立場になって痛感するのは、会社員というシステムのすごさだ。丁稚奉公のような期間でさえ給料がもらえる。いわば人の金とチャンスで、契約書のやりとりや資金繰りを含めた経営計画といった独立開業に必要な流れと、人間関係の難しさといった基本的なものに触れられたのだから、こんなにありがたいことはない。
今僕が従事している小さな世界では、実業務の中でしか利益を生みだす技術は得られない。利益を生み出すに足らぬ人材を長く抱えておく余力がない。いくら技術が優れていても、それだけではかえって足を引っ張ることもある。少々腕が悪くても、柔軟な人材の方がいい。
このことについて言えば、規模の大小にかかわらず、そして営業や制作、人をまとめたりすることに関しても、自分の動きで利益を出すことと柔軟であることを意識して地道にやっていく姿勢がベースとなって、はじめてスキルアップという副産物を得るのではないかとも思う。
どこかで学んだ横文字や数字をならべても、結局あらゆる業務は人と人とのなりわいなのだから。
そんなわけで、今、僕が個人的に重視しているOJTは、酒席でいろいろな経営者の人たちと会うこと。お酒人脈トレーニングである。
最近は酒席を敬遠する若い人たちが多いと嘆いているお偉さん方が多いだけに、チャンスも多い。もっとも僕自身、酒癖に少々問題を抱えていることも自覚しているので、そちらの方のスキルアップは研修があれば受けたいぐらいだが。
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