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出版編集 乃木坂 薫 2003-08-19
OJTという言葉ができたとき、喜んだのは人事・教育担当者ではなかろうか。 目に見えるコストとしてOJTは出てこないからだ。会社案内に、横文字で「OJT」と表記されていればイメージもよい。 無知な学生からは先進性のある会社と思われること請け合いだ。
私は計画性のないOJTは反対だという立場をとる。しかし、本稿ではそれを乗り越えるのは「あなた」だと、逆説的ではあるがOJT必要論を乗り越えたい。
■計画がないOJTは要らない!
数年ではあるがIT業界にSEとして過ごしたときの経験を書きたい。
新卒でプロの世界を知らないのに現場投入......これが某社のOJTだった。 気が向いたときに、先輩社員が仕事を教えるというもの。今でも多くのIT系の会社の現状はそんなものかもしれない。 キャリアの有無とは別に、請負元の会社の名刺をもらい、さも経験豊富そうなふりをした孫請け協力会社社員・人材派遣会社社員も多いのだ。 とりあえず名刺で顧客をだます。これが常套手段である。教育に余計なコストをかけないのが社風といえよう。
当然こうしたOJTは計画がなかった。システムを何も知らない新人に顧客の重要なUNIXマシンを触らせる。 新卒当時、「それはいいのか?」という疑問が私は大きかった。
結局のところ、膨大な量の書籍を個人で購入し、自分ですべてを学ぶだけだった。 初任給の大半はコンピュータ書籍の購入に充てていたと思う。 結果として、コンピュータの知識は勉強しない古参の社員を抜くことができた。 自分のためになるけど、結局のところ個人負担になるのがOJTだと、そのときに思った。
■大手のコンピュータ会社は2年間の研修期間がある?
客先の現場で、他社のSEと仕事をする機会があった。
某社の2年目SEと同じ仕事をしていたときのこと。彼は派遣SEだったが、手厚く新人を教育している会社に所属している。聞けば、昨年1年間はセミナー受講だけで、ほとんど仕事をしてないそうだ。 計画的にカリキュラムが組まれ、2年目以降も技術講習などもあるとのこと。 自社の社員を無理に仕事場に出すことなくトレーニングを重視する方針だ。 OJTも綿密に計画されていたようだ。各種業種を一通り経験し、世の中のしくみを知ることが優先されていた。
朝の8時から深夜12時まで毎日働いていた私からすれば同じ職種でこうも違うのかと痛烈に羨望した。 しかし、その大手IT会社のSEは苦労してないからダメなSEになるかというとそうでもなく、 30代半ばで年収1,000万円を超える人並み以上に成功したSEになる例がほとんどだ。
振り返ってみると、多くの大学の同期がコンピュータ会社に就職したが、 いまだに仕事を続け成功している人間は手厚く研修期間がある会社に所属している人間だけである。 ほかは体を壊したり、他の職種に転職している。
■しかし、今となっては反省
顧客を大事にしない無責任さと社員を育てない社風が嫌になり私はその会社を辞めたが、 本当にコンピュータが好きだったらもっと別の展開があったかもしれない、と最近思うようになった。 当時は体を壊すくらい熱心に働いたが、それだけではない。 本当に好きならば、寝ても覚めてもコンピュータと格闘していただろう。 しかし、そこまで私は踏み切れなかった。 OJTなどという空虚なものを頼って、会社が人を育てくれないことを不満に持つのは、今更ながら間違いだったのではないかと思うに至った。 筆者の現職はコンピュータ系の書籍出版社の編集であるが、やはり成功している技術者との出会いが大きい。
成功している技術者の共通事項として、寝ても覚めてもパソコンに触っているのが好きというものがある。 これは第一条件だと断言できる。 コンピュータを使うことに至上の喜びを感じる人が成功している。 コンピュータを道具にシステムの秘密を明らかにして自分の感覚を広げている人、と言い換えてもよいだろう。 オブジェクト指向言語のRubyを作り上げたまつもとゆきひろさんはその代表者といえる。
あるエンジニアは、自宅に帰っても睡眠時間を削りながら自分のための勉強を続け、 その勉強成果を利用して昼間の作業時間を大幅に減らす効率化に成功している。 寝なくて大変ですねと問えば、コンピュータが好きだから何の苦労もないのですとあっけらかんとした答え。 私にはできない。そこまで踏み込むほどコンピュータが好きではないことに気が付いたからだ。
■かじりついてでもその仕事をやりたいですか?
不況で、就きたい職業から就ける職業といった選択を取る人たちも多いと思う。 実際に筆者の周辺のIT系の会社では、95年当時はコンピュータが好きで好きでたまらないから御社に就職したい という人が応募してきたが、今は普通の1つの会社として認識し、 コンピュータが特に好きでもないのに応募してくる人間が多いという (いわゆるデモシカSE希望者)。 これは中小企業だけでなく、大企業でも同じではなかろうか。
昔はコンピュータ技術者という言葉が似合う人が多かったが、 今はコンピュータ業界のサラリーマンというほうが似合う人が増えている。 コンピュータが好きでそこをフロンティアとして入社した人が多かった昔に比べ、 今は普通の就職先としてコンピュータ会社を選ぶ人がほとんど。 だから成功しない人が多い。過酷な企業間競争で、がんばらねばという気持ちと、 相反するやりたくない気持ちに挟まれるからだ。 うつ病患者が増えているのも、その表れだろう。 書籍としても、骨太に技術の核心に迫る本は売れない。 むしろ目先の問題が解決するだけの本が売れている。 こうした現状がデモシカSEの存在を反映しているといえる。
■OJTに期待するよりも、自分を見つめ直す
まず、先に適性を見極めてからにしたほうがいいと思う。 適性とは、その仕事を取り上げられたら生きていけないくらいに愛しているということだ。 そういう人はOJTなどに頼らなくても、自分から才能を開花させていくだろう。 本当は適性を見分けるためのOJTが必要なのかも知れない (OJTは経済的に余裕のある会社ならば許されるのだろう)。
仕事に向いている、向いていないというのは厳密に存在する。 向いてないのに、その仕事をするのは下手な苦労と精神的な疲弊をするだけだ。 それに気が付かなければ、ずっと苦労し続けるだけになる。 やけに「勝ち組」とか「負け組」とか切ない言葉がはやる昨今、 心のエネルギーを補充し、いい方向に自分を奮い立たせるものが必要なのだ。 それが「好き」に集約される。
では、どうすべきか。
就職してしまった人は、今担当している仕事に打ち込むしかない。 目の前のことを愛するのだ。そこで自分の才能を発揮できれば、なにか別の方向に進めるようになる。 こればかりは実際に奮闘するしかない。
これから就職する人は、働く意味をもう一度考えるべきだ。 給料をもらうだけならば、パートやアルバイトでよいと割り切らなければいけない時代になってしまったからだ。 産業構造的にもその兆候が出ている。 仕事で成功したいならば、自分が本当に好きなこと、打ち込めることを探すべき。 働くことが自分自身にエネルギーを与えるものでないと成功につながらないのだ。
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