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元旅館業アルバイト 2017-07-24
学生時代、夏休みに地元の温泉旅館で仲居のアルバイトをしたことがありました。そのときの話です。
私たちアルバイトの主な仕事は配膳の補助や食器の片付け。その持ち場には、70歳のAさんという仲居さんがいて、名目上はその人が私たちのOJTトレーナーでした。なんと3倍以上も年上の先輩です!
とはいえ、見た目は若々しく、足取りも軽やかで、とても70には見えませんでした。
Aさんは、5年前からこの旅館に住み込みで働くようになったそうです。
人から聞いた話では、まだ若いときにご主人を亡くし、その後苦労してお子さんを育てあげたものの、いまだご主人の借金が残っているとか。明るく元気な様子からは、そんな事情は想像できないことでした。
Aさんは実によく働く人でした。
しかし、私はAさんの指導には不満でした。最低限のことしか教えてくれないし、何でも自分でやってしまおうとするからです。
ただ、夏場はお客さんも多いため、朝から晩まで仕事量は半端なく、じっくりOJTをする余裕がないことは確かです。とは言っても、もう少し丁寧に教えてほしい。
「年齢も年齢なんだし、無理しないでもっと任せてくれたらいいのに......」そう思うこともしばしば。
Aさんの動きは年齢のわりにスピーディで仕上がりもきれいです。特に皿洗いは魔法のようにテキパキこなし、誰もかないません。
Aさんは、自分の担当分を終えたら、私たちが間に合っていない分もどんどん引き受けてこなします。
あるとき、休憩時間にAさんに聞いてみました。
「Aさんって、なんでそんなに仕事が速いんですか? コツを教えてくださいよ」
するとAさん、こう答えました。
「教えないわよ! 私がしていることは、しょせん誰でもできる仕事でしょ。若い子と同じようにしていたら、私のような年寄りには仕事が回ってこなくなるじゃない。
だからね、皿洗い一つでも天職と思って取り組んでるの。どうやったら若い子の3倍できるか常に考えてるわけよ。なんでそれを教えないといけないのよ? 知りたいなら、よく見て自分で考えてやんなさいよ」
そう言って、人さし指で頭をとんとんと叩きました。
「さ、皿洗いが天職ですかー!?」
「そうそう。こう見えても若いときはデザイナーだったのよ。お金にはならなかったけど、子どもかかえて自宅で仕事できたからね。そのときはデザインが天職と思ってやってたのよ。
子どもが大きくなったら、知りあいのつてで工務店の事務員になれてね、そのときは事務が天職。その会社が倒産して清掃員になったときは掃除が天職。そして今は皿洗いが私の天職よ!」
そう言って、「いろいろやってきたわね、あはははは」と豪快に笑いました。
「えぇー......。ご苦労されたんですね」
「苦労? まぁ、確かに借金があるから働いてるわけだけど、70すぎて働けていることがすごく恵まれていることだと思うんだよね。私は今ね、皿洗いを極めたいと思ってるの。単純なようでいて奥が深いのよー。あなたたち若い子にはまだまだ負けないわよー」
結局、皿洗いの極意はちっとも教えてくれなかったAさんですが、私はもっともっと大切なことを、Aさんから教わった気がしました。
70過ぎて借金を抱えて住み込みで働いているなんて、何となく気の毒で同情さえしていた私は、そんな自分が恥ずかしくなりました。
自分の置かれた境遇を受け入れ、その時々に巡り合った仕事を天職と思って取り組むAさんを、私は心から尊敬したのです。
その後、私は就職し、今はIT系の会社で働いています。時々グチを言いたくなるようなこともありますが、その度にこのときのAさんの話を思い出して、自分に喝をいれています。
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