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現場での学び

慣れない現場で育てていただいた、尊敬するお得意さま

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イベント企画会社勤務(30代男性)  2016-04-27

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慣れない現場で育てていただいた、尊敬するお得意さま

私の仕事は「イベント企画」です。響きはちょっとカッコいいですが、体力的にも精神的にもキツい仕事で、残念ながら早期離職者の多い職場です。やっていることは、企業の商品発表会や業界の合同展示会の仕込みで、完全な裏方仕事です。具体的には、準備から本番までのスケジュール管理、展示のプラン作り、スタッフの手配と管理、展示用の立て込み(舞台の大道具のようなもの)作り、設営什器(テーブルやイス、デジタルサイネージなど)の手配、来場客に配布する印刷物の企画・制作、イベント開催中のスタッフのケータリング手配......と、内容は多岐に渡ります。
準備から本番まで、ノー・トラブルなことはまずありません。計画は常に変更が生じ、そのたびに我々には臨機応変で迅速な対応が求められますが、スタッフ間もしくは発注者と我々との間では度々、連絡ミスや認識のズレが発生し、その度に現場は混乱。トラブル対応ももちろん現場責任者である私の仕事です。

「看板の色みがサンプルと違う、変更して」
(いやいや、3度ほど現物をお見せしましたよね?)
「来場者のリサーチデータを刷新したので資料を変更してほしい」
(それ、3日前に言うこと?)など......
長丁場の現場ほどトラブルは頻発し、期間中、胃薬のお世話になります。とはいえこの仕事をしている人すべてがそんな状況というわけではなく、私の気の小ささゆえでしょう。
(この仕事向いてないかも)(職替えしようかな)と悲嘆に暮れたことは数限りなくありました。そのたびに私を励まし、絶望の淵から救い上げてくれたのは、発注者である代理店の中村さんです。彼は未経験だった私の指導者的存在でした。

そもそも私がこの仕事に就いたのは、大学卒業後、メーカー、家電量販店勤務を経た末の転職でした。入社したのは社員8名前後(常に増減するので平均してそのぐらい)の事務所で、出社初日から私は先輩と共に現場入り。見るもの聞くこと初めてづくしで、業界用語の飛び交う中、質問すらできずオタオタと先輩の後をついていくのが精一杯。1日が終わる真夜中過ぎには頭もからだもへとへとで、気を失うように眠ったものです。
そして、2つ目の現場から担当者としてデビュー。先輩に「わからないことがあったら電話しろ」と笑って送り出されました。鬼畜......と思いました。忘れもしない7年前の早春、準備期間約1カ月、関東一の大会場で3日間に渡って行われる、ある業界の年に1度のビッグイベントでした。私の緊張はいわずもがなで、今思い出しても具合が悪くなります。不安でいっぱいでしたが、代理店の中村さんは「S社、また新人さん?ま、指示するから頑張って。くれぐれも途中退場だけはしないでよ~」と笑っていました。現場でのエピソードは山ほどありますが「教育」ということなら、その現場で初めて出会い、私の現場人精神の礎を築いてくださった、代理店の中村さんについてお話しましょう。

私が中村さんからどんなことを学んだか。それは、多面的な視点で考える、ということでしょう。先述の通り当時の私は余裕ゼロで、焦れば焦るほど空回り。そんなとき中村さんを見ると、常にウイットに富んだ発言で周囲の緊張を和らげていました。中村さんはどんな問題に直面しても常に、クライアントにとって、消費者にとって、業界全体にとって、など、さまざまな視点から捉え、調整し、最善を尽くす人です。例えば私が立て込みのプランを作ってきたとき、「フジちゃん(私)よく考えたね。これは正解だな。だけど消費者に対する訴求力は弱いなぁ。なぜなら......」と、私の見落としを指摘してくれました。準備を滞りなく進めることばかり考えていた私は、クライアントの要望通りにするだけで、他の考え方や視点を検討することが出来ていませんでした。
「言われた通りにやることがすべてじゃない。クライアントの利益が最優先だけど、だからこそ僕らは消費者の視点も持って、方向性のブレを軌道修正していかなきゃいけないんだ。言われた通りにやっても結果が出なければダメ」とは、新人の私にとって目からウロコでした。
思えば前職の営業でも販売でも、先輩の指示は絶対で、マニュアル通りの対応に没頭する「思考停止」の毎日に焦燥感を覚えて転職したのでした。
周囲から一目置かれている人は皆、物事を俯瞰し多面的な見方をされているように思います。そうした人がいる現場は、たくさんの議論が交わされますが、徹夜明けの空気さえも清々しいです。逆に、近視眼的な人とのやり取りは大変疲弊します。そんなときは「中村さんならどうするかな?」と考え対処しています。そして自分自身も常に俯瞰して物事に取り組むようにしています。中村さんとはその後、何十回も現場を共にさせていただき、仕事のノウハウだけでなく、生きる姿勢を教わりました。私にとって足を向けて寝られない存在です。

事務所の社長は言います。「フジちゃん、僕らすごく恵まれてるよね。仕事もらって、稼がせてもらって、教わることもたくさんある。成長できるいい職場だよね~」......って、それアンタの言うことか!と思いますが(笑)、社長(♂)はチャーミングなので、クライアントから慕われています。この人もある意味スゴい人。世の中まだまだナゾだらけで、私が学ぶべきことは山ほどあるようです。


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