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派遣社員(女性) 2004-07-14
「今日から新しい職場だ!」
不安と緊張、まだ見ぬ世界への期待が入り混じり、それでも元気に出社したある日。
「最初の仕事は社員の顔と名前を覚える事!今日から3カ月間、社員あてに来る郵便はあなたが配るように!それと、電話の取り次ぎもよろしく、以上」
そう言い残したまま、上司は去ってしまった。
「仕事ってそれだけ?それならパートさん雇った方がいいのに。まともな仕事欲しいよー!」上司に一礼を交わしながら心の中で叫んでいた。
与えられた机に座って周りを眺めると......ワンフロアに一杯机が並べられ、そこにはなんと200名程の社員が朝の準備に大忙しだった。
「凄い!何この人・人・人」
あぜんとしたのは言うまでもない、実は派遣社員として配属された会社は某大手電器会社。日本はもとより世界にも支店を構える大企業なのだ。
そうこうしているうちに机の電話が鳴る。
「はい、○○会社でございます。......は?営業の川西ですか?少々お待ちください」
「だ、だれ?川西って?この200人の中からどうやって探せばいいの?」
受話器片手にオロオロと不安そうな私に隣の男性社員が座席配列表なるものをくれた。
「川西さんは一番端の島の左角だよ」
その座席表には内線番号がついており、とりあえずそこに電話を回した。
果てしなく遠いその島で、私の電話を取る人がいる。
「あの人が川西さんか......」
受話器を置くと隣の社員の人にお礼をいった。
「ありがとうございます」
「いいえ。まずは名前と顔を覚えないと、次の仕事が出来ないからね」
そういって、メガネの奥の優しそうな目が笑っていた。
「そうか......さっき上司が私に言ったことはこういうことだったのか......。まずは名前と顔を一致させること!」
私はまずその仕事に懸命になった。午前の郵便が届く時間、慌てて郵便BOXに行く。
「な、何これ?」 自分の受け持つ部署の郵便BOXには、A4の封書から葉書まで、多種多様の郵便物が500通余り......。ダンボールに全てを入れ、自分の机の上にドサッと置いた。
さっき社員の人からもらった座席表を見ながら、島ごとに仕分けしていく。その間にも電話がバンバン鳴り、右往左往しながら取り次いでゆく。
「いつになったら終わるのかな?これで1日終わったりして......」
仕分けが終わると、そのダンボールを持って、座席表片手に各島に回る。
「○○さん!郵便です」と本人の顔を確認しながら渡す。そうすると顔と名前が私の中で一致し、記憶に残りやすかった。
しかし、この部署は3分の2が営業で、朝から外出か、出張のため、机にいない人の方が多い。その場合は、机の上にポンと置くのだが、これでは、この席の人は○○さん!だけしか分からない。その○○さんはどんな人なのか、入社2カ月たっても分からない人もいた。
郵便を仕分けして全部配るのに2時間もかかってしまった。午後の郵便物の方がこれまた多く、2時間30分もかかった。
まさにこれと電話応対で1日の時間はあっという間に過ぎて行く。
これが今日から1日2回、3カ月続くのだ。学生の頃は、遊びながら友達の顔や名前を順々に覚えていったけれど、ここでは強制的に名前と顔を覚えなくてはいけなくなる。
苦痛だ......。まさに「暗記ゲーム」をしているようだった。学生時代から暗記は苦手。しかし、名前と顔を覚えないと、電話の取り次ぎも困難になり、相手にも迷惑をかけるので、必死になって覚えた。
初日の夜、その座席表を1枚コピーして自宅に持ち帰り、そこに書かれている名前を見ながらその人の顔を思い出し、特徴を書き込んでいった。
たとえば......
「営業の佐々木さん、メガネ・前髪だけ白髪染め」
「技術の青木さん、体育会系、色黒、マッチョ」
などなど......。
日が経つにつれ、そのマル秘の座席表にはいろいろな特徴が書かれ真っ黒になった。
今思えばあの紙切れが私にとっての重要書類だったに違いない。
その会社に行き始めて3カ月経ったある日、上司に呼ばれた。 「君はほとんど顔と名前を覚えたようだな、郵便を配るのも早くなったじゃないか」
「あっはい、まずはこの仕事を完璧にしないと、後の仕事が出来ませんから」
「意欲的だね。君が来てくれて助かったよ。今までの(派遣の)子たちは、名前と顔を覚える前にすぐに辞めてしまったからね」
確かに......この作業を3カ月続けられる人はそういないはず......。
上司にしてみれば、この3カ月間はいわば「試用期間」だったようだ。私の前任者や前前任者は、この3カ月を乗り切れなかったらしい。名前と顔を覚えるという当たり前の事なのだが......。
「郷に入っては郷に従え」
会社により、仕事もさまざま。いきなり重要な仕事を任される所もあるのかもしれない。それでも、仕事なのだから自分が出来る事は積極的に行いたいものだ。また、それが重要な仕事ではなくても、それがいつの日か役に立つということを信じて業務していきたい。
次の日から私は晴れて週報やマニュアル作成などの本格的な仕事を教えてもらうことになるのです。......もちろん郵便物配布も含めて......ですが。
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