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相手の存在を受け入れること

郷に入れば......

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予備校講師(女性)  2004-02-24

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「こんな変人ばかりの職場で、やってられない!!」これが、今の職場に入ってひと月くらい経った頃の私の本音でした。ここは、高校中退、不登校、といった子供達に大検を受けさせ、大学受験までの指導をする、という予備校です。

これまで公立中学校や私立高校、専門学校の教員を13年経験していました。学校に来ることが苦痛と感じる生徒の数は、年ごとに増えています。そうした、心を病んだ子供達の指導に手が回らないことに、ジレンマを感じ始めていた頃でした。 夫の転勤でやって来た新しい土地で見つけたこの職場に、心躍る気持ちで飛び込んだのです。それがなんと......。
カウンセラーの資格など持ち、宗教家のような心の広さを持った同僚に出会えると思っていたのは、大きな勘違いでした。
キャラメルのおまけばっかり集めては一喜一憂している極右思想の30歳。まるで生徒とお友達感覚、かわいい女の子には明らかに態度が違う38歳。猟奇的アダルトコミックスを生徒と貸し借りして喜ぶ50歳。いつも眠そうにやって来て、生徒の質問にも「昔からそう決まってるから......」ですませる27歳女性。
職員にも驚かされましたが、職場の環境もまた初めて体験することばかりでした。
卒業式もなければ、行事もリクレーションもなく、みみずのように毎日が過ぎて行きます。予備校というイメージにはほど遠い。おまけに職員室もない。授業の後の一杯のコーヒーが楽しみな私には、耐えられない環境でした。
食事も講義室でしかとれず、常に生徒の目があるのです。タバコを吸う先生はどこで?と見ていると、生徒と一緒に外の自転車置き場で吸ってらっしゃる......。
空き時間に、生徒の指導法や教育理念を熱く語る、等ということは皆無です。職員同士が一緒に食事に行ったり飲みに行ったりすることは、考えられません。たまに、生徒の病気や体質に触れても、冗談のように返したり、把握していなかったりで、これが一番驚かされたことでした。

ただ、生徒は大人しく、授業がやりにくいということはありませんでした。
私は自分がいかにさまざまな体験をしたか、どんなワルや問題児とつき合ってきたか、そんなことをアピールしたように思います。そして、担当の生徒全員が「どういう理由で学校をやめたか」、病気が理由ならその病気についての概要などを調べあげ、リストを作りました。こうすることで、この仕事のスペシャリストとなれると信じたからです。
言葉使いには十分気をつけ、生徒の意見を決して否定しないよう心がけました。
ところが、そうした努力に反して、出席する生徒は1人減り、2人減り、とうとう3人程しか出席しなくなりました。これは初めての経験でした。「学校」では考えられないことです。

そんなある日、校長室に呼ばれました。
校長は苦言を呈するふうでもなく、「慣れましたか?」とひと言。「手を抜いているつもりはないのですが、生徒の心がつかめません」という私に「聞いてみたらいいじゃないですか」と校長。一瞬耳を疑いました。
「私は何をすればいいのですか?」などと、一人前の社会人が口にしていい言葉とは思っていなかったからです。相手の求めるものを察知し、差し出すことがプロとしての仕事だと思っていたし、方法はすべて自分一人で見つけるもの、それがこの仕事だと思っていたのです。
ただ、それは「聞いてみる」という意味ではないと私は理解しました。
とりあえず、一緒にいる時間を増やしてみました。昼休みも講義室から出ずに黒板の前で食事を取ったり、それまで空き時間に外に出てコーヒーを飲んでいたのを、家から持って来て生徒といっしょに飲んでみたり、会話をしない場合も、生徒の話に「耳を傾ける」ことをしました。  

彼等の心はもっともっと根本的なものを求めていたのです。それは「居場所」というものでした。
学校で、家庭で、彼等は自分の存在を否定されてきたのです。わずかな個性の違い、病気、それらが「居場所」を奪っていたのです。どこでもいいからひとつでも「自分がここにいてもいいんだ」という確信を持てる場所があれば、勉強くらいは1人でやっていけるのです。それが、ここ。
変な教員たちは、彼等のすべてを「認めてくれる」人達だったのです。「この先生は自分のことをわかってくれる」と思っているか「こんな変人でも社会人になれるんだから、オレだって」という安心感を与えているのか、それはわかりません。
 

「認める」ことと「許す」ことは違います。教員たちの言葉にも耳を傾けてみて、それがわかりました。
まず、生徒の言動に対して「ハハ。お前らしいな!」とか「おもしろい!!」という言葉を必ず使います。たったこれだけで「言ってもよかったんだ」という安心感を持つのです。あとは評価です。「ただな...そりゃダメだ!」とそこで否定しても、生徒が反発したり、帰ってしまうなどということはありません。
生徒を理解しようとするあまり、過去を探ろうとしたり、きっぱりダメと言わなかったり、そういう私の関わり方は、うっとおしく感じたに違いありません。
それからは私も、少し変わってきたように思います。
生徒は私達に会いにやって来て、ついでに勉強して帰って行く。それでいいのだと気付きました。いつでもやって来ていいのだから、卒業式もないのだと......。

あれから4年。クビにならずに続いているということは、私も変人の仲間入りができたのかな、と思っています。


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