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旧出版社、博多明太子「椒房庵(しょぼうあん) 水竹 浩 2002-06-10
私と彼の職務は、ディーラーヘルプで、特に地域別・商品別の販売企画・立案・実践です。
彼は性格は良いのですが、社会人としての最低限のことができませんでした。
「朝寝坊をしない」
「時間は守る」
から始まって
「仕事には優先順位があるのだ」
「締め切りのない仕事はないのだ」
と本当に1から10まで、ほぼつきっきりで指導しました。
具体的に言うと、朝礼前に今日のスケジュールを確認し、それに伴う準備と資料の状況確認、明日以降のスケジュールとそれに伴う準備の指導。営業ですので、実績の経緯とその見方・とらえ方の指導。実績の後のフォローと今後の新しい売上のための企画の話し合い、実践。1日の仕事が終わって一息ついてから今日の経過を聞いて、それについて問題点を指摘したり、結果が出なかったことに対する現状分析を一緒に考えたりしました。
ここまで一緒に考えて、最初のうちは彼の担当の販売店に同行して、打ち合わせや施策の徹底の実際を見せてやりました。もういいだろうと思い1人で販売店回りをさせると、クレームが続出。
「約束の時間に来ない」
「お願い事項がほったらかしで何の返事もない」
「販売員や客の前で商品説明をさせてもいい加減でかえって悪影響」
これ以上何を教えれば良いのか、はっきりいって悩みました。別に悪意があってさぼっているのではなく、誠心誠意がんばっているのですが、根本的に違う結果になるのです。資料づくりやローカルチラシの作成・印刷で徹夜に近い状態でもがんばったりする気持ちはあるのです。
じっくり考えると、彼の仕事ぶりで一番不足していたのは、部分部分を細切れにして教えたりやらせたりするとその部分をちゃんと覚えたりこなしたりはできるのですが、ではそれがどのように仕事全体につながっていくのか、何のために今その仕事(のパーツ)をつぶしているのか、ということを理解できなかったことです。
たとえば、商品の特徴を説明するのが仕事ではなく、売上を上げるための業務のパーツが商品研究・説明であるということがわかっていないのです。
いつまでたっても同じような状況でしたので、これは「理解できない」ではなく「理解しようとしない」のだろうと思い、本人と話し合いました。
結局「自分のやりたい仕事ではないから自分もやる気がわいてこないのです」という理由で会社を辞めたいと言い出しました。本人のやりたい事は「編集」。ただし編集で何をしたいのかとか自分はこんなことができますというアピールは全くありません。ただ漠然と「編集の仕事がかっこいい。東京で働きたい」という思いのようでした。
その当時の私の上司は、
「あいつはどこに行っても結局はだめだから、ここでなんとか鍛え上げた方が彼のためだ」
という意見でした。
しかし私は
「このままでは彼はきっと後悔するだろう。さらにその後悔の原因を周りの人に押しつけるだろう。同じ後悔するなら自分の意志で自分の好きな事にチャレンジした方が後で納得がいくのではないか...」
と考え、彼の退職を認め応援する側に回りました。それが理由で私と私の上司も関係がおかしくなったのですが、これは私の信念ですのでしかたないと考えています。
結局会社を辞めた後も、2社ほど同じような理由で入社・退社を繰り返していましたが、あるとき自分で独立してある事業を興し、今では社員が10名ほどの有限会社を切り盛りするようになりました。
彼は人間としては良い奴ですので、会社を辞めた後も連絡があったり飲みにいったりしていました。あるとき「何が変わったのか」を聞いてみました。すると彼は、
・自分は社会の一員である
・会社は(社会に貢献しながらの)利益追求が第一義
ということがわかったとのことでした。考えてみれば学生を卒業して右も左もわからない中で会社に入って一番大事な基本的な部分を理解していなかったのでしょうか? 人事が研修しなかったのでしょうか? それくらいは常識と思っていたのでしょうか? 彼の場合はこの一番大事なことを会社ではなく社会が教えてくれたような気がします。
「あのときいろいろ言われたことが今になってよくわかります。自分も自分の社員には同じことを言っています」と酒を交わしながら生意気言っていますが、本質のルーズさは変わっていないようなので、時々は状況を聞いたり相談に乗ってやろうと考えています。
会社としては研修失敗かもしれませんが、本人にとっても、もっと言えば辞めてもらった会社にとっても良い結果になったのかもしれません。
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