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喫茶店での指導

教えると教わる

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アルバイト(男性)  2017-11-16

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教えると教わる

喫茶店のアルバイトも4年目になり、レギュラースタッフのする仕事も任されるようになってきた。そんな中、新人のアルバイト生A君が入ってきた。彼は内気な性格でいつもぼーっとしているように見えたため、果たして接客が務まるのか不安であった。
就職が決まり、アルバイト生活も残り半年を切っていた私は、先輩社員から「I君ももうすぐ卒業だねー。だから新人のA君にはI君そのものになってほしいよ」と言われた。私はすかさず、「どういうことですか?」と聞いた。すると「I君の接客ぶりにはスタッフ皆関心してるし、お客様も喜んでおられるの。だからその接客をそのままA君に教えてあげてほしい」という。
接客に苦手意識があった私にとってその言葉は、そんなことはないと否定する気持ちと成長できたという嬉しさが入り交じり、今までにない感情にさせた。先輩社員にそう言われたことで、私はA君へ接客を教えることに対して、とてもやる気に満ち溢れた。しかし、それも束の間、私は教えることの難しさを痛感することになった。

私は彼にメモを取らせ、一から丁寧に教えようとした。彼は緊張しているのか、小声で返事をするだけで、ちゃんと聞いているのかわからない。メモは取っているようだが、教えたことを練習させても、なぜかメモを見ようとせず、全くできない。何か気だるさを感じているかのようにも見えた。私は怒る素振りは見せないように、優しく教えようとした。彼は、私が何を言っても毎度のように「わかりました」としか言わない。しかし、同じことをさせても彼は毎回できておらず、口では言うものの全くわかっていないようだった。
私は自分の教え方が悪く、優しくするのが逆に甘く見られてしまっているのではないかと思い、先輩社員に相談した。すると先輩から「たぶん厳しくしても優しくしても変わらないと思うよ。I君の教え方で教えていいんだよ」とあまり納得できない答えが返ってきた。
今まで新人の育成は社員の方々がメインでやっており、アルバイト生は補助的な指導しかしていなかった。しかし、今回初めてA君への指導を一から私がやることになり、戸惑いを感じた。ましてや、自分通りの接客とは何だろうと思い、私は先輩社員が新人育成を私に押し付けたんじゃないかとさえ思った。

そんなとき、私は大学の授業の一環でOJT研修の在り方について学んだことを思い出した。短い講義ではあったが、今でも鮮明に覚えているのが、「言った」「伝えた」「説明した」=「教えた」という勘違いが多いということだ。そのときの自分はまさにこの状態になってしまっているのではないかと感じた。また、指導の在り方の第一ステップとして、本人にやってみよう、頑張ってみようと前向きな気持ちにさせるというのがあった。私はちゃんと教えているのに何でできないんだろうと新人をせめていたが、自分の教え方が果たして正しい教え方だったのかということをおおいに反省した。

私は教え方を改めて、まず接客することの楽しさ、お客様から感謝されることの喜びなど、仕事をしていて、自分自身がどういうときにやりがいを感じられるかを伝えることにした。
例えば、お客様に料理を提供した際、笑顔でありがとうと言われるときに自分も嬉しい気持ちになること。
また、丁寧な接客をしてお客様から褒められたり、お客様にお店を好きになっていただいたりしたときに、達成感や喜びを実感できることなどを伝えた。
そうした上で、オーダーの取り方やお辞儀の作法などを、 言葉だけでなく、 動作を交えながら説明するよう心掛けた。
はじめは彼も、積極的に自分からやってみようという感じではなかったのだが、徐々に内気な性格も明るくなっていき、同じミスを何度もするようなこともなくなっていった。

3カ月が経った頃には様子がすっかり変わり、自ら進んで新しい仕事を教えてもらおうとする姿勢が見られるようになった。
例えば、売上の計算や勤務時間表の作成などの事務作業は、覚えることも多いので、新人に教えるにはまだ早いと思って「これは自分がやるからいいよ」と言ったところ、新人のほうから「すべての仕事を早く覚えたいので私がやります。教えてください」と言われたこともあった。
先輩社員からは「A君にもI君らしさがでてきたねー」とも言われた。
しかし、私には自分らしさというよりも、彼らしさが出てきたように思う。彼の前向きに頑張ろうとする姿勢や彼なりの接客で、お客様に喜んでいただいているのだろうと思った。
最初の頃に比べるとA君はすごく成長したと思うが、自分の教え方が上手かったのかというとそうは思わない。
教えるというのはただ"教える"という行為によって成り立つのではなく、教える側の伝えたい姿勢と教わる側の学ぶ姿勢がマッチングして成り立つのだろう。そこに上手や下手などはあまり関係ないのではないかと感じた。


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