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元コンピューターソフト会社員(男性) 2016-04-04
海外のソフトウェア会社の日本法人で、営業推進の仕事をしていた時のことです。当時私は33歳、5名の部員を率いる立場でした。そのチームへ中途入社でやってきた金田君は当時26歳。営業推進の業務は未経験でしたが、新しいことに挑戦したいという意欲の高さをかわれて採用になったようでした。
金田君以外のスタッフは皆経験者で、少人数の部署で全員が戦力、教育プログラムというものはなく「わからないことは聞いてね」という風潮。各人の仕事量はボリューミーでしたが、かなりの自由裁量が許されている職場でした。そんな環境ですから、私が彼の教育担当となり、当面は私のアシスタントとして業務を覚えてもらうことになりました。
3日ほどで私は気付きました。金田君は社会適応力、事務処理能力は高く、資料作成などは上出来です。けれども彼は、自社の製品に興味がなかったのです。
海外仕様のソフトウェアを国内で販売するにあたり、日本の市場・消費者に向けてどのようにして魅力を伝えていくか、戦略を練り、販促・宣伝の仕方をプロデュースするのが任務で、彼はそのチームの一員です。まずはソフトの特長、使い方をマスターするのは当然のことなのですが、彼はなぜかあまり積極的に取り組まないのです。
「金田君、このソフトのいちばん魅力的な機能って何だと思う?」と聞けば、
「......僕、実はよくわからないんです。動画編集する趣味も習慣もないですし、なにがいいのか......。でも他社製品には無くてこの製品には有る機能なら調べてありますよ。それが魅力なんじゃないですか?」という感じです。
自動車免許を持っていなくてもクルマの宣伝に携わっている人もいるし、化粧しない男性が化粧品の販促チームにいたりもします。自社製品を愛せ!とまではいいませんが、今回リリースするのは、満を持して日本市場に出す、シェアNo.1を目指そうという期待の込もった製品です。周囲の盛り上がりに反して消極的な彼の姿勢が理解できなかった私は、仕事をする気があるのだろうかと、内心モヤモヤしていました。でもそのときふと気付いたのです。
金田君が興味を持てないのは、この製品に魅力がないからなのか?
製品のメインターゲットである動画編集の初心者を振り向かすには、まず金田君を攻略すべきでは??
次の日から私は、新製品発表会用のデモンストレーションムービーづくりを兼ねて、動画編集の工程を、金田君に間近で体験させるために、自分で撮影した子どもの動画を素材に、「撮りっぱなしの動画を人に見せる作品をつくる」作業に着手。そして、完成した作品を鑑賞する楽しさをアピールしました。すると金田君は、想像以上に私の作業に関心を示し、私の横に座り込んで、私の作業を観察しだしたのです。そのうち、
「そこのシーンはもっと長い方がいいんじゃないですか?」
「そのテロップいいですね!」と、意見や感想を言ってくれるようになり、深夜まで二人で作業に没頭する日が続きました。
1週間が過ぎた頃、金田君はすっかり動画編集にハマった様子で、私のマンツーマンレクチャーの甲斐もあり、新ソフトの操作も習熟。
「先輩を見ていると、趣味を仕事に活かせるっていいなぁと思います」と言うので、「もともと趣味だったわけじゃないよ。やってみたら面白かった。そうしたら前より仕事が面白くなった」と返すと、何だか納得した様子でした。
人は教えられて学ぶよりも、自発的に興味を持って追求していく方が、習得のレベルもスピードもあがります。「いかにして興味を持たせられるか」金田君に対して行なったことは、同時に、消費者に対するコミュニケーションにも通じると私は気付きました。金田君の教育(?)を通じて、自分の仕事にも有効な気付きを得られたというわけです。そのメソッドは特別なことではなく、ただ私自身が心底仕事を面白がってする姿を見せたこと、そして(よい意味で)相手(金田君)を巻き込むことに成功したのはラッキーでした。もっともそれは彼の素直さによるものも大きかったかもしれません。
その後、金田君とは、私が独立起業のため退社するまでのあいだ、同じチームで働きました。もともと実務スキルは高かった彼ですから、専門知識を得て仕事を覚えると尚さらチーム内からも、社外の方々からも信頼される、有能なマーケ担当者になりました。そして、彼が幹事で送別会を開いてくれ、私は退社。今では私はフリーのプロモーターとして、彼のチームから発注を受け一緒に仕事をさせてもらっています。
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