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機材販売 2003-07-17
もちろん障害もいくつかあった。特に課長補佐のSさんにとっては私たちのやっていることは面白くなかったようだ。自分は課の中で一番の実力者だ、と自負しているところもあり、実際、課長からも相当目をかけられていた。その地位が、営業からの流れ者に脅かされる気がしたのだろう。彼は課長の手前、表立ってははっきり反対しないが、プロジェクトの活動には最後まで非協力的だった。
それでも私たちの活動は、だんだんとみんなを巻き込み本格的になってきた。それまでのどよどよした空気が徐々に晴れ渡ってきたように感じた。
なんでうまく進んだのか?
それは決して私のせいではなかったと思う。
課長の熱意もあったが、実はメンバー自身が変わりたいと望んでいたからだと思う。私は職場の中に埋もれていたスイッチボタンを押したに過ぎない。よそ者だったから押せた、そんな感じがしている。
特に大きな威力を発揮したのは、問題児のMさんの活躍だった。
これは私も意外だったのだが、Mさんは実にがんばった。これまでは投げやりな雰囲気で仕事をこなし、5時の終業ベルと同時に帰路につくような人であった。
その彼女が、実現に向けて粘り強く奔走したのだ。180度印象が変わってしまった。
ある日、いよいよ営業部隊に対して、改善プロジェクトの説明会を行うことになったときのこと。(ここまで来るには3カ月かかった)
説明会の出席者には古巣の上司、営業1課長もいた。もし私がプレゼンしたらまたけんかになりそうだ。少なくとも、彼は最後まで私に話させることはないだろうと思えた。そこで私は、説明の役割をMさんに託した。
Mさんは最初とまどっていたが、事情を説明するとついには「やります」と応じてくれた。
説明会を控えた数日前、もうそろそろ帰ろうかなと思っていたらMさんがやってきて「来週のプレゼンの原稿を考えてみたんですけど、見てもらえますか?」と言う。時計はもう夜の8時を回っていた。
そこから作戦会議が始まった。営業の反対しそうなことはわかっている。彼らをいかに説得するか、私たちは作戦を練った。
残業を終えて帰ろうとしていた他のメンバーも、そんな私たちの様子に気づいてやってきて、ああでもないこうでもない、と議論が始まった。
最終的にみんなが帰路についたのは12時だった。
結局プレゼンはまずまずだった。おおむねプランは受け入れられ、私たちはひとまず凱旋できた。
「あのMが営業相手にプレゼン!?」このニュースは、女将をはじめとする課内メンバー全員に衝撃だったようだ。
「仕事がとろい」「話していることが支離滅裂」「やる気がない」などと、いつもみんなから白い目で見られ、全く期待されていなかったMさんが、そんなことをやり遂げるとは誰も想像できないのだろう。
これを機に、女将の姿勢も変わってきた。
「へぇ、わりとやるねぇ。私も手伝ってやってもいいわよ」
女将の協力を得たことは大きかった。これで全員が気兼ねなくプロジェクトに入れる(例の課長補佐1人を除いては......)。ここまでくれば、もう成功したようなものだった。
私はこの改善プロジェクトをとおして、人間の潜在能力というものを見せつけられた気がした。実質的にみんなを動かしたのは、Mさんの変身ぶりだったと思う。
私の不謹慎な理由からプロジェクトの指名を受けたMさんの内側で、いったい何が起こったのだろうか。
1つはスポットライトをあびた、ということが大きかったのではないかと思う。
Mさんにとって、このプロジェクトは1つの舞台だったのではないか。
しかも、課内の全員が遠巻きに注目していることを彼女はわかっていた。きっと、他のみんなも入りたがっているのだ、ということもわかっていたのだろう。
その上、よそ者の私は彼女に対して偏見を持っていなかった。むしろ課内の実務に疎い私は、Mさんに頼らざるを得ない部分が多かったのである。
そんなことが、彼女を奮起させたのではないか。
それにしても偏見というのは怖いものだ。業務課の場合、へたに結束が強いものだから、しらけた雰囲気や偏見までも強固になってしまっていたように思う。
どの職場にも問題児扱いされている人はいると思う。でも本当にそうなのか?思い込みということはないか?別の角度からスポットライトをあててみたら、ひょっとしたら大化けするのではないか?
もちろん、みんながみんなMさんのように変身できるとは思わない、でも変身はありうるんだということを伝えておきたいと思う。
改革というのは、1人ひとりの内面から始まるものかもしれない。
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