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元DTPデザイナー(男性) 2004-08-05
去年まで地元印刷会社に勤めていたが、そこで担う業務の中に学校新聞があった。
教師や生徒、保護者と接し学校という狭い社会の中にも多くの考えや意見を聞ける面白い仕事だった。
OJTとは言えないが、この仕事を通してお客さんから教わったことを書いてみようと思う。
毎年冬休み前は新聞編集が集中する。
ある年、某小学校PTA役員のお母さんから「目を引くレイアウトにしてほしい」と新聞制作の仕事を頼まれた。
新聞とは縦書き段組、囲みリード、分かりやすい見出しにする、などのセオリーがある。しかしその注文以来、新聞制作の考え方が大きく変わってしまった。
その新聞は記事のほとんどが文化祭関連だった。
その年は学校周辺住民も参加し大盛況だったらしく、PTAの新聞編集担当のお母さん方も、とても意欲的で溢れる熱気が伝わってきた。
レイアウトは写真中心だが、打ち合わせのたびに指摘や修正が容赦なく入る。
「もっと活発な雰囲気に」「この演奏会はとても盛り上がったからその雰囲気を伝えたいの。写真の回りに♪や☆を散らせて」などなど思いのままの自由な意見が飛び交う。
もう新聞ではなく大売出しチラシのようだ。
とどめに4面にわたる大幅な修正要求は「全面に生徒の写真と文章をリアルに風船に貼って」というもの。もうぼうぜんだ。原稿の写真は風船どころか空飛ぶゴマ粒のように小さい。
風船に顔写真と文章を貼って撮影するか、パソコンで合成するか。しばらく考え「難しいなぁ」と言ったが「そこをなんとかお願いします」と手を合わせる同い年のバツ一美人。瞳を潤ませ頼まれたら引くに引けない。
「はい、やってみます」バツ一美人は女優の白石美帆に似ているから仕方がない。
4面の制作は苦労した。ゲーム制作経験はないが幸いにも会社に3Dソフトがあり、すぐ制作着手した。
でも思うように進まない。専門的に言えば風船オブジェクトに画像化した顔と文章をマッピングしレンダリングするのだが、文字を風船のような曲面に貼ると読めない部分が出てくる。画面を見つつ「何だこれ?」と嘆く日々が続いた。
たまの休日にスーパーで買い物中、お母さん方と顔を合わすことがあった。
「こんにちは。進み具合どう?」
「はは、なんとかやってます」と笑ってごまかす。3D風船の制作が停滞しているとは言えない。別れ際「よろしくお願いね。今回はみんな力入れてるから」と言われた。
徹夜を明けて校了日を迎えた。文字が踊り、写真は爆発し、生徒と落書きの風船が舞う3D新聞。
他の学校の新聞制作も並行して行っていたが3D新聞ばかり手掛けていた感がある。
校了すればあとは営業の仕事であり、お母さん方とのかかわりは解ける。解放された気分だ。
納期打ち合わせの席で雑談する中「今回はやり甲斐があったね」と1人のお母さんが言った。
年が明け、春には卒業生をたたえる新聞制作が集中する。しかしその年は例年より依頼校が多い。
「例の新聞、学校新聞コンテスト(地元大手新聞社主催)入選よ」と、総務に届いた礼状を見せ営業担当が言った。
学校によっては新聞を近隣校に郵送するらしい。それで知れわたり新聞制作の依頼が増えたようだ。
営業担当いわく「意外に受けがいい」そうだ。
その後も多くの学校新聞に携わった。その数年間でコンテストに幾度か入選し優秀賞や最優秀賞も受賞した。
それはPTAのお母さん方、教師生徒の伝える熱い意気込みによるもので自分はお手伝いしただけ。それにコンテストは学校側が応募し会社や自分自身には関係ない。入賞すると、お礼状や菓子折りを頂き仕事の励みになるが......。
あの3D新聞にかかわっていろいろなことを学べた。
既存の概念にとらわれず自由な発想で伝えること。それに苦労やリスクが伴っても「やり甲斐」として感じられれば決して無駄にならないこと。
他の仕事も同じように、常識にとらわれず新しい発想で挑戦することが大切だと思った。コンテスト主催の新聞社もそういう視点から3D新聞を評価したのかも。
あらためてお母さん方の熱意と発想力に脱帽する。
現在、地元業界低迷から印刷会社を離れ東京にいる。今は東京の広告関連会社で大型ポスター出力と画像入力を担っている。
納品物は人によって魅力的であり、他の人には生ゴミだったりする。東京は価値観の多様化が著しく仕事への情熱を冷ますような気がする。
それでもあの頃のように「やり甲斐」を感じられるようになりたいと努めている。いや、正確に言えば模索している。
数年前に某TVCMでヤリガイを背負ったサラリーマンを映したものがあった。その時は駄じゃれと思っていたが、自分を省みるとやり甲斐を背負えることは幸せの1つと思える。
業界が低迷する中、上京したのは「やり甲斐」を見出せそうな仕事がまだありそうだからだ。
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