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母からのOJT

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ナビゲート[の]  2002-07-24

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母からのOJT

25、6歳の頃のことだから、もう一昔前の話になってしまった。
当時私は教材の企画開発に携わっていた。ちょうど経営戦略に関する教材を一から作り上げて、自分なりに自信がついた頃でもあった。経営についてちょっとは「わかったつもり」にもなっていた。

夏季休暇で久々に実家に帰ったとき、その仕事で得た戦略の知識を母に話した。私の実家は田舎の小さな鮮魚店で、小売と地方発送を行っている。さびれかけた商店街の一角で生き残るには戦略的な視点も必要だろう、ひとつ"教えて"あげよう、くらいの気持ちで。
母は、意気揚々と話す私の言葉の1つひとつにうなずきながら、じっと耳を傾けていた。
そういう話はやはり関心があるらしい。娘が頑張っているのもうれしかったのだろう。
一通り話を聞き終えた後、母はぼそぼそと口を開いた。
「おめの言うドメインとかニッチとか、そういう難しい言葉は知らねとも、つまりはこういうことだか?」と。
「例えばうちのお客さん達はこういう人たちでね、その人たちにうちができるのはこういうことで、うちが目指してるのはこれこれこういうことなんだ」。母は、とうとうと話し始めた。
「最近は大型店の△△が国道にできて、この辺の商店街の店がみんな焦って国道に出て行ったけど、誰もわかってね。△△に行って誰が何をどれだけ買ってるか、見たことあっか? あそこに来るのは市外の人で、しかも物を買ってるのは2割もいねっせ(いないよ)。そもそも客層が違う、本当の競争相手は△△でなね(△△なんかじゃない)......」などなど、母の話は尽きない。

詳細は省くが、母は私の浅はかな知識をすでに経験の中から体得しており、その1つひとつに対して明確な答えを持っていた。正直言って、母がそこまで考えているとは思ってもいなかった。
「まあだ子供だと思ってたけど、すいぶん難しいことしてんだな、やっぱ大学出たもんは違うな」などと誇らしく言う母に、私は逆に恥ずかしくなった。

それから母は、少し考えた後で言葉をつないだ。
「......だともね。その本には何かひとつ足んねような気がすんだとも」と。
「戦略はいんだとも、そもそも何のために事業をするんだ? それがその本には書かれてねんでねえか?」
......え? ○○大学の教授の理論に意見するのか、お母ちゃん、と私は思って聞いてみた。
「じゃあさ、お母さんは何のためにやってんの?」
すると母は間髪を置かずに壁を指さして言った。「これだ」と。
そこには、全国各地のお客さまから送られてきたお礼のハガキやら手紙やらが所狭しと飾られていた。小さな子供が書いた絵もあれば、年配の方からの書画や俳句もあった。みな「おいしかった、ありがとう」の気持ちである。母はこれらを背にしょって日々働いていたのだった。
「おら、このために商売をやってんだ、これが生き甲斐でもあんだ。こういうのが来なくなったら商売やってる意味がない」
「その戦略の教科書には、そういうことは書いてねんだか?」そう言って母は笑った。

このときの母の言葉は、わかったつもりになっていた私の脆弱な自信を打ち砕くとともに、その後の私の働き方を方向づけた気がする。当時、職場でもいろんな人から指導を受けていたが、経験からにじみ出る言葉は何よりも効いた。
あれから十数年、いろんな会社の中長期計画やCSのパンフ作りなどにも携わってきた。でも、母のように凄みを持って語る人にはまだ会ったことがない。

今年母は68になる。世代交代が進みネットでの注文が増えた。お礼のメールも届いているようだが、さすがに老眼でメールの文字を追うことは厳しいようだ。母の目や耳に直接届く"お客さまの声"は少なくなり、母の生き甲斐は減った。
それでも「最高においしい状態で食べてほしいんだ。そのことに集中せねば」そう言って、顔の見えない誰かのために、今日も寝食を惜しんで働いている。

娘も経営の端くれにいるが、いまだ母の足下には遠く及ばない。


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