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メーカー(女性) 2020-10-12
「あの人に仕事を任せるのはちょっと気が進まないな」
初めてOJTリーダーに任命され、右往左往しながらも指導開始から2か月が過ぎた頃、私が担当する新人Aさんの印象を先輩達に尋ねると、上記のような言葉が返ってきました。
それも1人だけではなく、複数の社員に聞いても少なからず似た心証を持っているという答えでした。
Aさんは中途採用での入社でしたが、これまでの勤続経験が短く、前職と当社の業種が大きく異なっていたこともあり、ほとんど新卒と同じようなプログラムでOJTを実施していました。
そのため、2か月時点では基礎的な指導の終盤といったところで、分担している業務もほとんどが単純作業です。致命的な大きなミスも起こりにくい分、彼の能力を見定めるにはいささか役不足な内容だと思っていたので、先輩達が既にあまり良い評価をしていないことに驚きました。
OJTリーダーとしては由々しき事態です。確かにAさんは積極的なタイプではありませんが、表立って反抗的な態度を取ることはなく、仕事も多少のミスはあるものの新人としては許容範囲だろう、これからスキルアップしていけば大丈夫、とのんびり構えていました。しかし、一緒に指導してくれる社員の信頼を得ていないとなると、スキルアップ云々以前の問題です。また、私には先輩達が感じている不信感がよくわかっていませんでした。
「ミスの回数が多いですか? それとも製品のデザインとか、今より難易度の高い仕事に挑戦してもらって、ちゃんと最後までやり遂げると皆にわかってもらえたら信頼してもらえるんでしょうか」
「うーん、そういうことじゃないんだよね」
仕事の質の問題かと先輩に尋ねてもどうやら違うようです。
もっと日頃の些細なことの積み重ねだ、と言われ、しばらくAさんの様子を伺い、また他の先輩にも話を聞いてみることにしました。
結果として、Aさんが信頼されにくい原因は、「ちゃんと『ありがとうございます』と『ごめんなさい』を相手に伝えていない」、「態度についての指摘を無視する」ことにあったのではないか、と私は考えています。
例えば、Aさんが体調不良で休んだ日に、彼が毎朝行う定期業務を先輩社員が代行したのですが、翌日出社したときにしばらく経ってもそれについてお礼を言うそぶりを見せません。
見かねた他の先輩が「Bさんにありがとうございますって言っておいで」とアドバイスをしても、その場では素直に頷くものの、結局Bさんのところには行かないまま退勤してしまう、だとか。
また、給湯室に置いてある社員の私物を共用の食器だと勘違いして使ったとき、「それCさんのだよ。勝手に使われたらいい気持ちしないから一言謝っておくといいよ」と指摘されても、Cさんには何も言わずに食器棚へ戻すとか。小さな会社ですので、Cさんには当然ばれています。
どちらも指摘されたときには「わかりました」と答えるのですが、肝心の感謝や謝罪を直接当人に伝えることはしていません。
新入社員は得てして新しい環境で緊張しているものですし、先輩がどういう人かもわからないのでお礼や謝罪の声かけに腰が引けるのもわかります。単純に気が利かない性格ということもあり得るでしょう。
ですが、注意されてなお実行しないのは考えものです。
指導に従わなくていいと自分で判断し、しかもそれを隠してなあなあにしようとしているからです。指導した側からすれば、多少の失望とともに、仕事でも同じように注意を蔑ろにされるのでは、と警戒します。
上記の例は業務に直接関係はありませんが、そういった小さなことの積み重ねで、だんだんとAさんは「一緒に仕事をするには不安のある人」と評価されてしまったのだと思います。
私がAさんのそういった面に鈍感だったのは、OJTリーダーとして目をかけているが故の甘さと、まずは業務にミスがなければいいだろう、と態度についてまで注意の意識が回っていなかったからです。
問題点に気付いたからには、彼にその点を改善するよう指導しなければなりません。しかし、どう言えばAさんに伝わるのかがわかりません。
OJTの進捗確認などで二人で話す機会は多々ありましたが、「それぞれは些細なことだしな......」「業務上のミスじゃないし......」「前回の注意で反省したかも。くどいと思われるかな......」と考えこんでしまって上手く言葉にできませんでした。
Aさんはその他にもミーティングの集合や日誌の提出が少し遅れることがあり、それ自体は新人によくある時間配分の見極めの難しさの表れだと思いますが、こちらは業務にもわかりやすく影響するので改めて指導の時間を取ることにしました。
時間を守ってほしいのは、一緒に働く人の時間を無駄にしないため。つまり、私はAさんに私達のことを尊重してほしいと思っている。それが出来ないと、貴方を信頼して一緒に働いたり、仕事を任せるのは難しい。
その流れで言いあぐねていた感謝と謝罪の件も触れましたが、やはり言いたいことが簡潔にまとまりきらず、Aさんは「わかりました」と頷いてくれたものの気持ちが伝わったか自信はありませんでした。
私の伝えたかったことは「一緒に働く人を尊重してほしい」だったのですが、漠然としすぎており、恐らく「時間を守ってほしい」の方が主旨だと理解されてしまったのではないかと思います。実際、時間に関しては努力している姿が見えました。
その後のAさんの態度は、私から見るとやや改善したように思われましたが、油断するとまた小さな出来事で落胆させたりの繰り返しで、仕事を任せられる信頼感を彼が獲得するには先が長いなあ、もっと上手に指導できればなあ、と反省していたところで、新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受け、当社も最低限の人員を残して在宅勤務をするシフト制に切り替わりました。
同時に私は家庭の事情でOJTリーダーを他の人に交代してもらうこととなり、Aさんとの接点がほぼなくなってしまいました。
慣れない環境に社員も試行錯誤する中、もともと新人で分担できる仕事も少なかったAさんに在宅でお願いできる業務はほとんどありません。
そうしている内にAさん自身も居心地が悪く感じてしまったのでしょう。しばらくして退職希望の連絡があり、残念ながらお別れすることになりました。
そして退職当日、私は在宅勤務のためAさんの様子がわからなかったのですが、先輩から後で連絡をもらいとてもがっかりしました。
Aさんは退職手続を終えると、社長に挨拶をしてそのまま帰宅してしまい、別室にいた自分の部署の所属長や先輩には一言も声をかけなかったそうです。また、人事担当者に直接渡すべき書類も自分の机に置いたままにしていたとのことでした。
退職すること自体は仕方ないことですし、先輩全員に挨拶しろとも思いませんが、あまりにけじめがない態度が悲しかったです。
Aさんにも色々思うところはあったのかもしれません。新型コロナで先行きが見えない中での退職で、精神的に辛い部分もあったり、余裕がなかったのかもしれません。当社のことが嫌いになっていたのかも。
でも結局は、一緒に働く(働いていた)人を蔑ろにしない、ということがAさんにとって重要ではなかったのだと思います。
初めてのOJTリーダーの経験は苦い結果となり、時々思い返しては、いったいどう言えばAさんに伝えられたのか、私がもっと経験豊富なOJTリーダーだったら適切に指導できたのかと反省したり悩んだりしています。
次の機会が来るまでに、何とか自分なりの答えを見付けたいです。
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