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会社員(男性) 2015-03-25
私のいた某社の情報システム課には、毎年1~2名の新人が配属されてきた。
その年に配属されてきたのは女性のA子さん。明るく外向的で、「華がある」という言葉がピッタリの人だった。
当時課長だった私は、入社5年目の男性SさんをA子さんのOJTリーダーに任命した。彼はこれまでもOJTリーダーの経験は何度かあり、真面目で面倒見がよく、後輩からも慕われている人物だった。私は「今回もよろしく」という程度で、何も心配していなかった。本人も二つ返事で引き受けてくれた。
OJTはうまくいっていた。少なくともそう見えた。
新人のA子さんはやや奔放なところがあり、生真面目なSさんが困惑している場面はときどき見受けられたが、問題といえるほどのことはない。
A子さんは職場のメンバーともなじんでいるようだし、仕事も滞りなく進んでいた。
そんなある日、Sさんに「どう?OJTは順調?」と声をかけると、「ええ......、まぁ」と今ひとつ煮え切らない。いつものSさんらしくない。そこで会議室に呼んで話をきいてみると
「A子さんの考えていることが、よくわからないんです」という。
「どういうこと?」
「いろいろと質問してくるので、私としては、できるだけ時間を割いて対応しているのですが」
「ああ、よくやってくれているようだね」
「ちゃんと説明しているし、A子さんも理解していると思うんですが、まったく違うやり方をしていたりするんですよ」
「おいおい、それは、A子さんが理解していないということ?説明の仕方が悪いんじゃないか?」
「はぁ、そうなんでしょうか......。説明したやり方と違うことを指摘すると、逆に驚いた表情で『昨日先輩がそう言ったばかりじゃないですか』とムキになるんです。でもそんなはずはないんですが」
「A子さんが勘違いしているか、Sさんの説明の仕方に問題があったんだろうね。仕事上であまりミスをしているようにも見えないが」
「はい。最終的に大きなミスにつながることはないんですが......、わかっていないはずはないんですが......」
「まだ3カ月だから、理解のレベルが不安定なんだろう。長い目で見ようよ。そんな細かいことを気にするなんてSさんらしくないな。引き続きよろしく頼むよ」
「......はぁ」
そんなコトがあったので、私もいつもよりは気をつけて2人を観察していた。
A子さんが明るい表情でいるのに対し、真面目なSさんはどんどん元気がなくなっていくようだった。
確かにA子さんのSさんに対する態度はどことなくつっけんどんで、他のメンバーに対する態度と違うように感じる。しかし表立って反発したりする様子もないので大丈夫だろうと思っていたが、Sさんは憔悴している感じだった。
半年たったころ、新人との三者面談の前に、Sさんと2人で話す機会をもうけた。
すると、Sさん、
「新人のことで参ってしまっている自分が情けないんですが、わけがわからないんです」という。
重い口を開いたSさんの話はこうだ。
Sさんが指導すると、なんだかんだと反論し決して納得しないが、他のメンバーが言うと、あっさり素直に納得する。
どうやら自分は嫌われているようだ、と思っていると、長々と反省しきりのメールがきたりする。
わかってくれたか、と気を取り直して翌日仕事を指示すると、不機嫌な様子で別のことをする。
それを注意すると、今度はSの過去の発言について、矛盾を取り上げて攻撃するような長々したメールが来る。
そして翌朝は、何事もなかったようにケロっとした明るい顔であいさつしてくる。......
「まるで別人なんです。どう対応していいのか」
Sさんは、これまでに見たことのないようなげっそりした表情をした。
彼は真面目なだけに、A子さんの態度や言葉にいちいち対応しようとして心をすり減らしているようだった。
餌食にされている......そんな言葉が頭をよぎった。
課長としてどう対応すべきか、そもそもこれを問題としてとらえるべきか?日ごろ、A子さんには問題行動は見受けられない。仕事もまぁまぁこなしている。注意すべき点が見当たらないのだ。相手がSさんでなければ、私もその話を信じなかったかもしれない。
「気のせいじゃないか」と軽くいなすべきか、「相手は新人じゃないか、先輩がそんなことでどうするんだ!」と叱咤すべきかとも考えたが、他ならぬSさんのことである。恐らく外側からは見えないが、よほどのコトが起こっているに違いない、そう考えるべきだろうと思い、OJTの関係を解消することを決意した。
OJTの区切りとしてはちょうど半期を終えたところなので、都合がよかった。
下期からはA子さんの役割を変更し、あとは自分がOJTを引き受けることを決め、そのことをA子さんにも告げた。
Sさんには、いちいち対応しないこと。メールが来ても無視することを伝えた。
結局A子さんはその後しばらくして転職したので、私の対応が正しかったのか、もしあのままいたらどうなっていたか、それはわからない。
しかし、OJT関係というのは必ずしも上が強いわけではない、下からのモラハラもありうる、そして外から見えないだけにたちが悪い、そう感じた一件だった。
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