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メーカー(男性) 2014-12-22
数年前、某メーカーで、販売代理店への事業支援を行っていました。当時私のいた営業支援係では、代理店さん(8割は主婦の人が個人でやっています)への研修会やイベントを開催していました。
私が係長に就任したその春に、別の部署から課長が異動してきました。係には私のほか3人の係員がいて、その内の1人は3年目の係員、2人は入ったばかりの新人でした。私は新米係長でもあり、新人のOJTリーダーでもあり、新任の課長にも業務を説明しないといけない立場で、てんてこまいでした。3年目の係員に助けられながら、なんとか業務をこなしていましたが、それまでよりも残業がかなり増えていました。
当時の私にとって、1番厄介な問題は新任課長でした。
四半期に1度、全国の代理店さんを集めた研修会を開きます。新商品の研修や営業情報の交換がメインでしたが、優秀な成績をおさめた代理店さんの表彰式や親睦のためのゲームも行い、入賞者や当選者にはちょっとした記念品も配ります。
代理店は全国に1000ほどあり、4半期に1度というのは結構大変です。課員は自分を含めて4人だけ(しかも2人は新人)なので、いかに効率的に、段取りよく行うかを考えないといけません。
しかし、新任課長はとても張り切っており、この景品やイベントなどに事細かく口出ししてきたのです。
「うちのかみさんにも意見を聞いたんだけど」と言って、いろいろアイデアを出してきます。景品やゲームの内容、BGM、会場のディスプレイなど、課長の指示は、私にはどれもさまつなことに思えていました。
中でも一番閉口したのは、切り絵でした。席に置く名札のところに、1人ひとりへのメッセージカードと、それに季節感のある切り絵を添えようというのです。例えば、12月開催の場合は雪の結晶、春開催は桜の花。しかもメッセージカードは手書きでないと意味がないと言います。
確かに代理店さんは喜ぶかもしれません、しかし1000人分を用意するとなると一苦労です。研修会の準備だけでも手いっぱいのところ、新人のOJTもしなければならず、その上にこの面倒な作業が加わるわけです。
「いいアイデアだとは思いますが、しかし課長、人手が足りませんし、外部に出すような予算も......」
「たった1000だろう。4人で手分けすれば1人250枚じゃないか。やる前からあきらめるなよ」と一歩も引きません。
思いついたことは、絶対しないと気が済まない人でした。私は係員にしぶしぶこのことを告げると、案の定反発が来ました。「えー、それどころじゃないですよ。だいたいそこまでする意味ってあるんですか?」
「いや、俺もそう思うよ。でも課長がそういうんだからさぁ。......俺もやるから」そう言って、まったく納得していない部下をなんとかなだめます。
しかし切り絵なんて生まれてこのかたしたことがありません。残業時間にYoutubeで調べながら無言で色紙を切りました。間に合わない分は家にもち帰って制作です。それでも切り絵のほうは新人にほとんどを分担してもらえましたが、手書きメッセージは自分でないと書けないことが多く、毎日遅くまでかかって書きました。『いったい何やっているんだろう......』情けなさと徒労感と自己嫌悪、そんな気持ちにまみれていました。他の係員もそうだったのではないかと思います。
しかしいざ研修会を開催してみると、切り絵とメッセージは代理店さんには評判がよく「わぁ、きれい」と歓声が上がりました。すると課長はますます気をよくして、「次は折り紙でバラの花を作るか」などと言い出す始末です。
研修会の大きな目的は、やはり販促のための情報交換です。商品や営業情報の資料がおざなりになっては本末転倒だと思うのです。実際一部の代理店さんからは「こんなことよりパンフを充実させてほしいんですけど」などと皮肉を言われたこともありました。
しかしその後も課長のアイデアはさらにエスカレートしました。それを止められなかったのは自分の力不足かとは思います。部下もだんだんやる気をなくしてしまっているような気がして、私は胃の痛む毎日でした。
本当は、新人に切り絵工作の大半を押し付けてしまっていることも心苦しく、貴重なOJT期間の多くをこんな作業をやらせておいていいのだろうかと思ったりしましたが、せめて新人にやってもらわないと、他の仕事が回りません。
でも課長はたいてい3年で替わるので、言われたことをとにかく黙々とこなすしかない、と思っていました。切り絵やメッセージカードは、まったくムダなことでもなく、多少のモチベーションアップにはつながっているのだから、と自分にも係員にも言い聞かせながら。
実際、2年後、課長は思いのほか早く異動になり助かりましたが、あの時、私はどうすればよかったのか、我慢するしかなかったのだろうかと、今でももやもやとした気持ちが残っています。
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