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新人時代の失敗談

ああ空回り

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ナビゲート[の]  2003-04-17

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ああ空回り

新人のころ、張り切りすぎて空回りした経験の1つです。
ある日の朝、先輩(というにはおこがましいほどの大先輩でした)が小走りに私のところにやってきて「これ校正してくれる?」と言いました。
「は、コーセー......ですか?」
「そう校正。誤植を直すことね」
「はぁ、ゴショク......ですか。文を直せということでしょうか。」
「そうそう、明日印刷所に渡すからね、最後にざっと読んで修正してほしいんだ。僕はすぐ出かけなくちゃいけないんだけど、夕方帰ってくるからそれまでにできるかな」
「あ、はい。わかりました」
「じゃ、これがゲラね」
そうして私はA4で 80枚ほどのいわゆる「ゲラ(刷り)※」なるものを手渡されました。
そのとき心の中で、「今確か"ゲラ"って言ったよね。漢字かな〜 下裸?......違うよなー。なら英文か?GET UPとか......。まさか"ゲラ"なわけないよね」などと余計なことを考えていました。

一応文学部卒業なので文章は苦手ではありませんでした。「これならできそうだぞ」と張り切った私は、夕方になるまで猛烈に集中して、80枚の原稿を真っ赤っかに修正しました。それは文字の直しにとどまらず、文章の構成を変え、言い回しを変え、余白に書き切れない部分はご丁寧にも"別紙参照"として延々と書き直したのです。
「うーん、80ページを夕方までにかー。やっぱ社会人は厳しいなー」などと思いながら昼食もそこそこに集中し、自分にとって"完ぺきな仕上がり"を追及したつもりでいました。そして先輩が帰ってくる5分前には完成させました。私は、それはそれは言いようのない達成感に包まれていました。

「できました!」
先輩が席に着くなり、私はその"ゲラ"なるものを自信たっぷりに差し出しました。きっと小鼻がふくらんでいたのではないか、と思います。が、その後の先輩の反応は、私の期待したものとは少々異なるものでした。「え?......あ、ああ。ありがとう。......ごくろうさん」
なんだか元気ないな、とちらっと不審には思いましたが、そんな思いはそのときの充実感にかき消されました。

そして数日後、私が直した(はずの)冊子ができあがってきました。
どこをどう直したか、は覚えてはいませんでしたが、自分のやったことが反映されていないことにはすぐに気づきました。
「完ぺきと思ったけど、あれじゃダメだったんだな......」と残念な気持ちに包まれましたが、そのときはもう他のことで忙しかったので、それ以上は気にかけないようにしました。

私のしたことは余計なことだったのだ、ということを悟るまでにさほど時間はかかりませんでした。初校、再校、三校、責了......。校正にはこのように段階があることを、後日別の先輩から知らされました。
明日印刷に出すという段階で、原稿を一から直されても、当の先輩もさぞ困ったことでしょう。私はとんだ勘違い野郎ではありましたが、先輩にも落ち度はあったかもしれません。ひょっとしたら私からゲラを受け取ったとき、「校正ってのはね......」と教えてくれればよかったかもしれません。でもあのとき「......あ、ああ。ありがとう。ごくろうさん」としか言えず、きっとその夜遅くまで1人でやり直さざるを得なかった先輩の気持ちもまた、よく理解できました。

いくらがんばったつもりでも、状況をわきまえないとムダになることもあるんだな、ということを知った1件でした。


余談

これは最初、「気まぐれ歳時記」「新人のころの思い出〜電話編〜」の続編として書き進めていたものですが、OJTネタでもあるので、ここに掲載しました。

※ゲラ刷り(galley proof)
校正刷り(文字などの校正をするために出力した紙)のこと。
もともとゲラは活字を入れて版を組むための浅い木箱のことだったが、その後校正刷り自体もゲラと呼ばれるようになった。


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