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保育士(女性) 2017-12-18
昔、保育士として働いていたときのこと。今でも忘れられない事件がありました。
園児たちとその父兄とで、県境にある自然公園にピクニックに行ったときのことです。そこは、親子で野外リクリエーションを楽しむことができる公園でした。当日の引率は、15人の園児に対し、先輩の保育士Xさんと私の2人でしたが、保護者も一緒なので、さほど心配していませんでした。
さて、多くの園児は母親か父親が一緒に来ていたのですが、A君の両親は都合がつかず、かわりに中学1年生になるお姉さんのB子さんが同行しました。
自然公園についてお昼ごはんを食べ、しばらくは自由時間です。皆楽しく過ごしていました。しかし、そろそろ帰ろうというときに、A君のお姉さんが半べそをかいて「A君がいなくなった」と言ってきたのです。
「いったいどうしたの?」と聞いても、もじもじしてなかなか要領を得ません。どうやら姉弟でケンカをしてしまったらしく、B子さんがA君を懲らしめようと、帰るそぶりをして隠れたそうのです。そうして目を離したすきに、A君がいなくなってしまったということです。
A君のいる班は私の担当だったのに、私はA君がいなくなったことにまったく気づきませんでした。まわりを見回しても、確かにA君の姿は見当たりません。
青ざめた私は、先輩のXさんにすぐ報告しました。てっきり叱られると思ったのですが、Xさんは私を責めることはせず、オロオロしている私に「まず落ち着いて!深呼吸!」といい、「分担して探しましょう。あなたは○○方面を探して。そして園に連絡して応援を頼んで。私も保護者の方に説明して協力してもらうから」とテキパキと段取りしました。
Xさんは、保護者に園児たちを連れて帰宅してもらうことにしましたが、一部の保護者は残って捜索に協力してくれることになりました。
そこでXさんは、自然公園のマップを示し、捜索範囲を分担しました。
広い自然公園の中も周辺も、皆でくまなく探したのですが、A君はどこにもいません。
捜索の間、Xさんはこまめに園と連絡を取りあい、ついに警察に届けることにしました。
A君は、その日、茶色いジャンパーにジーンズを着ていました。帰宅組の保護者の方々も、帰ってから周辺を探してくれたようなのですが、誰も見かけた人はいません。
そうこうしている内に園からの応援が到着し、保護者の方たちには帰っていただくことにしました。さらに捜索を続け、ついにあたりが暗くなってしまいましたが、A君はいっこうに見つかりませんし、警察からも連絡がありません。
もしや他県側の森の中にでも入ってしまったのだろうか、もうそうに違いない。そう観念した矢先、警察から、A君がふもとの公園で無事保護されたと連絡を受けました。私も先輩も、一気に緊張がほぐれ、安堵と疲れとでその場にへたりこんでしまいました。
ここまで捜索が難航したのは、なんとA君が着ていたジャンパーがリバーシブルだったからでした。表が茶色で、裏が水色だったのですが、どういうわけかA君は、道中でジャンパーを裏返しにしたようなのです。
お姉さんのB子さんが怒って帰ったものだと思って、自分も後を追って帰ろうとしたけど、途中で迷子になってしまい、公園の遊具の中に入って眠っていたそうです。
私は先輩に「本当にすみませんでした。ありがとうございました」と告げました。
すると、これまで冷静に見えていた先輩の手がわなわなと震えているのに気づきました。「とにかくよかった、本当によかったね」と言う先輩は涙ぐんでいて、腰が抜けてしまい、私が支えないと立てないほどでした。
私は、先輩は私と違って冷静な人なんだと思っていました。でも、先輩も私と同じように焦って緊張して青ざめていたのだということを思い知りました。そんな心の状態なのに、私のことを落ち着かせ、自分も冷静になろうと務め、適確に判断して行動した先輩を、私は心から尊敬しました。
たまたま無事保護されたからよかったものの、もし万一のことがあったらと思うと、今でもぞっとします。
私たちの仕事は大事な命を預かっていることなので、ちょっとした油断やミスが一大事につながることがあるのだということをキモに命じるとともに、万一コトが起こったときの態度や行動を学んだ一件でした。
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