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物流業(男性) 2015-05-13
私は物流会社の営業所で支店長をしています。
スタッフの7割が学生、フリーター、主婦などのパート・アルバイトで、正直入れ替わりが激しく、日頃からいろいろなスタッフと接しています。そのなかで印象に残っているスタッフについて書かせていただきます。
彼は、昨年の秋にアルバイトで採用しました。仮にN君と呼びます。
とにかく無口な印象で、物流未経験のフリーターでしたが、体格は割とがっしりしており、自動車の運転免許を持っているとのことで採用を決めました。うちでは集配(集荷・配達)ドライバーの人手が足りていなかったので、運転できる人を一人でも多く確保したかったのです。
業務は大きく集荷・配達、受付・事務、仕分け(積込み等含む)の3つに役割が分かれています。N君にはまず仕分けをやってもらいました。覚えはなかなか早いのですが、口数が少ないのがやや気になりました(変な話ですが)。
誰を相手にしても、訊かれたことにだけ答えるという話し方です。面接の時は緊張しているせいかと思いましたが、そういうわけでもなさそうです。
また、年齢的には学生アルバイトたちとあまり変わらないので、彼らともう少し打ち解けてもよさそうなのですが、N君は、あいさつや仕事で最低限必要なこと以外、ほとんど口をききません。学生は全部で6人いるのですが、彼らは皆、地元の体育大学の先輩後輩です。確かに、内輪で仲が良さそうなので、学外の人が輪に入りづらい雰囲気は多少あります。でも、仕事上のコミュニケーションをとるにしても、もう少し打ち解けたほうがやりやすいだろうと思い、学生たちにも彼と仲良くやるよう伝えてはいました。
しかし、状況はあまり変わらないまま、繁忙期の12月になりました。前月末にドライバーの欠員が出たので、N君には集配ドライバーになってもらいました。黙々と荷物を車へ積み込み集配に出かける彼を見て、頼もしさを感じる反面、なんとなく不安も感じていました。
そんな矢先、配達中に事故が起きました。N君から営業所へ電話があり、「すみません、車のタイヤが道の側溝にはまってしまいました」。焦ってカーブを曲がり損ねたようです。幸い被害者はなく、本人にも特にケガはありませんでした。学生3人を乗せて車で現場へ駆けつけると、N君の車は大きく左側に傾いており、青い顔をしたN君が、なんとか荷物を運び出そうとしていました。
私が「おい、大丈夫か? 本当にケガはないか?」と訊くと、N君は「はい。でも荷物がいくつか、梱包が破れてしまって...」。ひとまず、力自慢の学生たちと一緒にN君の車(軽トラック)を持ち上げ、側溝にはまった状態から救出しました。そして、荷物を運び出し、私たちの車に移しました。ひと通り後始末が終わると、N君は私たちに頭を下げて感謝しきりでした。その後、私とN君とで、梱包が破れた荷物の配達先へ謝罪に回りました。
その一件以来、N君の態度が変わりました。
自分から学生たちに声をかけるようになり、表情もいくぶん明るくなった気がします。最近それとなく本人に聞いたところでは、実はN君のほうにも学生たちと打ち解けたい気持ちはあったのですが、(彼にとっては)きっかけがなく、どうしていいか分からなかったようなのです。
それで、ますます仕事の中に「孤立」していったところ、たまたま配達中の事故がN君と学生たちを結びつけるきっかけになったようです。それが分かったとき、私は、そういうところでつまづく人がいるとは正直考えもしなかった自分を反省しました。同年代の若者同士なら、放っておけばそのうち仲良くなるものと思い込んでいました。
彼のような人を「コミュニケーション力に難あり」として切り捨てるのは簡単ですし、「そんなこと、自分で何とかさせろよ」という意見も当然あると思います。でも、N君は仕事ができないわけではありませんでした。こちらが少しだけ背中を押してあげれば、事故などなくても、もっと早く職場になじめたかもしれません。コミュニケーション力不足を理由に、こういう人材を切り捨ててしまうのは単純にもったいないと感じます。そして、あのとき私にN君の背中を後押ししてやれる余裕がもう少しあったらなと思います。
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