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元編集者(女性) 2008-04-09
以前勤めていた出版社で体験した忘れられないエピソードがあります。
私は、その出版社で編集部に所属していました。入社してしばらくたち仕事の流れもようやく理解してきたころ、編集長から「そろそろ自分で企画を立ててごらん」と言われるようになりました。その企画というのは、内容から仕様、デザイン、販売、売り上げまですべてのプロデュースをするという意味を指していました。企画を立てる難しさについては周りの先輩からよく聞かされていたので、その言葉を聞いたとき身が引き締まる思いでした。
努力のかいがあって、なんとか自分の立てた企画が通ることになりました。著者は以前から付き合いがあった作家。そのためお互い意見を惜しみなく言い合えることができました。そんな調子で編集過程は、わりとスムーズに進行することができたのですが、入稿直前に思いもよらないハプニングが起きてしまったのです。
それは、装丁に若干文字情報を追加しなければならないといったもので、追加することによって今まで何度も調整してきたデザインが崩れてしまう危険性がありました。通常であればデザイナーに修正をしてもらい、著者にも確認してもらうといった流れになりますが、時間がなく焦っていた私は、自分の判断でデザイン調整をし、入稿してしまったのです。
その数日後、色校が上がり作家に確認してもらい、そこでようやく修正をしたことを告げました。すると、その修正の仕方は作家にとっては好ましいものではなかったようで、作家から「なぜ事前に相談してくれなかったのか」ととがめられ気まずい雰囲気になってしまいました。
オフィスに戻ってしぶしぶ編集長にその一連の流れを報告しました。すると、想像以上に厳しく怒られたのです。焦っているときこそ確実に仕事をこなさなければならないのだと。ただちに印刷会社に交渉して、色校戻しの期日をぎりぎりまで伸ばしてもらうこと。すぐにデザイナーに修正してもらい、著者に確認をとること。その指示のもと、今度は一つ一つ慎重に作業を行いました。無理だと思っていた印刷会社との交渉もなんとか成功し、修正もすみやかに終え、無事に再入稿をすることができました。その結果、作家にとっても満足のいく仕上がりとなり信頼も取り戻すことができました。
後日、改めて編集長に結果を報告したところ、激励のメールをもらいました。その一部をご紹介します。
"今回のこのことはずっと大切にして、しっかり覚えておくんだよ。編集の仕事は忙しくて理不尽で地味だけど多くの人に大きな影響を与えているし、本は残るから、時代を超えて大切なことや温かい気持ちを伝えることもできる。大きなことにつながっているんだよ。大切なのは人と人の心。自分が本を作っていくときに込めた大切な心を、その作品を読んだり見たりした人にそっと感じてもらえるような、そんな作品作りを心がけてごらん。"
一見ささいな出来事にすぎないかもしれませんが、多くのことを学ぶ機会になりました。当たり前のようにわかっていることでも、環境や状況によっては誤った判断をしてしまうことがあり、作家との信頼関係もちょっとしたことで崩れてしまう危険性があることを実感しました。編集長からのメールはとても大きな励みになり、新しい仕事についた今でもたまに読み返し自分を奮い立たせることがあります。ただ怒られるのではなく、どうして怒られるのかという意味やその大事さに気付けたとき、人はもっと成長することができるのかもしれません。
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