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積極的に教わる姿勢

2004年度のバレンタイン・シーズン

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アルバイト(女性)  2006-10-23

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2004年度のバレンタイン・シーズン

2004年度のバレンタイン・シーズン、それは私にとって忘れられない時期になりました。アルバイト先で、今までになく「教わる、教える」を交換する貴重な体験をしたのです。

20歳の小童であったわたくしは、高級チョコレートショップでアルバイトをしていました。住宅地に立地する穴場的なそのお店では、数人の職人さんとマネージャー、そして私を含む4人の女性アルバイトスタッフが和気あいあいと働いていました。
マネージャーのYさんはまだ20代の女性でした。ご自身も職人としてかなりの経歴をもっていますが、年が近いので、半ば友達同士のように働いていました。そのような関係ゆえ、指示が曖昧なことがあっても私からつっこむことはありませんでしたし、Yさんも私を怒ったりすることはありませんでした。

年明け早々、お店はバレンタイン計画の準備に入りました。このお店は、毎年大手デパートに期間限定出店しています。アルバイト勢はみんな本店のお手伝いだろうと思っていたら、私は、新宿の巨大デパートIのチーフに任命されてしまいました。このデパートの地下1階チョコレート催事場は毎年戦場と化すのに!
「働き始めて5カ月の私に、果たしてそんな大役が務まるのだろうか......」と、小心者の私は早くも不安を感じていました。

私はマネージャーのYさんから事前に形式的な「研修」を受けました。「研修」といっても大体の流れの説明を受けただけで、
「細かい仕事は初日に来るGさん(フランス人女性、母体の社員さん)に色々聞いて」とのことでした。

そのGさんというのは、週の半分くらいお店に顔を出して、一般業務をしたり、職人さんのチーフやマネージャーと話し合っている人です。そのため、私も面識だけはしっかりとありました。
しかし、Gさんは、私の日本語を完璧に理解しているのか怪しいことがあります。でも、英語で説明しなおそうとすると
「大じょぶ、大じょぶデス」とそれを好まない様子でしたし、本社の方なので、私があえてGさんに対して意見したことはありませんでした。

そんな訳で、当初から、マネージャーのYさんとフランス本社のGさんという両ボスに対し、それぞれ別の理由で「遠慮」があった私ですが、果たしてそんな受身姿勢では、戦場のチーフは務まらなかった!ということが、初日にしてわかりました。

2月1日の朝。他の出店者の代表さんに混じって朝礼に出たりして、初日が始まりました。まだフロア全体の客足も薄く、問題もなく、午後様子を見に来たGさんも
「A子さん、大じょぶソウデスネ」と言って、帰っていきました。

夕方、本店のYさんから携帯に電話が入りました。
「調子はどう?」
「まだ混んでないし、順調です」と私。
「よかった。じゃぁ、在庫、教えてくれる?」
「?・?・?ざ、在庫!?」 
私は凍りました。
在庫管理のやり方どころか、在庫管理が私の役目ということすら、私は全く知らされていなかったのです。
商品や備品は全て、地下フロアの別の場所に保管されています。朝礼の時に、その膨大な在庫を見たので、まさかこれらが補充されていくとは、私は思いつきませんでした。よくよく考えれば、なま物のチョコレートを2週間分もストックしてあるわけがないのですが。実際、繁忙期になるにつれ、倉庫と売り場の往復が続きました。
ブランドチェーンではないこのお店の場合、商品や備品は本店の職人さんの誰かが、自らの手で運んできてくれます。彼らにはチョコレートを作るという本業があるわけで、こちら支店側(=私)は、「できるだけ効率良く運搬できるよう、在庫を把握し、かつ売れ行きと照らし合わせ、本店に毎日報告」しなければいけなかったのです。

そんな重大な「任務」をしていなかった私を、珍しくYさんはきつい口調で
「なんでやってないのー!!?」と問いただし、私は少しショックを受けました。
心の中で、「そんな、事前研修のときに教えてよ〜」と、理不尽に怒られた気分でした。そう思いつつも、とにかく急いで在庫を確認し、折り返し電話をしました。そしてその時に思い切って、
「在庫確認などについては一切聞いていなかったのですが、他に私が何かやり忘れていることないか、心配です」と言いました。そこでYさんの誤解が解けました。「当日ヘルプに行ったGさんが教えてくれているだろう」と思っていたそうです。しかし、実際はGさんはそのような話は一切しませんでした。Yさんも日頃からGさんのことは好きだけどちょっと心配な面がある、と思っていたそうで、これからは
「A子にも直接指示を出すね」ということで落ち着きました。

帰路の電車で、その日の出来事を整理してみました。そこで、わかったのです。「教わる」には「情報を相手に教えて、引き出すこと」も大切なのだな、と。
Yさんに対しても、Gさんに対しても、ずっと受身で指示を受けてきた私ですが、もし事前研修のときに
「商品の補充について、もう少し詳しく教えてください」と聞いたり、当日
「Gさんから特に業務の説明は受けなかったのですが、問題はないのでしょうか?」と早めにYさんに確認を取ったりすれば、「そんなの、聞いてないよ!」という食い違いも防げたはずです。
 
初日っから「理不尽な理由で怒られた」などとショックを受けたり、自分の甘さとポジションの重大さを思い知ったお陰で、それからは、積極的に「教え、教わる」ことができるようになったと思います。Yさんは本店で多忙なので、トップダウンで指示を仰ぎっぱなしでは足を引っ張ってしまうと感じ、ノートを作りました。在庫や気づいたことをまとめ、あらかじめ「何を聞き、何を提案したいのか」を考えておきました。厚かましくも「教わると同時にこちらから何か教えることが出来れば」ぐらいのスタンスで臨んでいきました。
Gさんに対しては、「これはわかっているだろう」ということでもきちんと確認するようにしました。今後すれ違いがないような状態を作っておくことで、Gさんが私に「教えやすい」ことを心がけました。
 
それは、一緒に働いてくれたスタッフに対しても同じで、
「チーフとして私は教えなければいけないけれど、それと同時に教わる姿勢で協力していこう」と、意気込みました。まずは自分が場を外した間の様子や、彼女達が接客してくれたお客さんのことを聞いたり、ノートに気づいたことを書いてもらったりして、彼女達が私に「聞きやすい、さらには意見をしやすい」環境づくりを心がけました。おかげで、連絡不行き届きによるミスが一切なく、体力的にキツイ2週間を一致団結して乗り切ることが出来ました。

私は支店のチーフとして、「本店のマネージャーから教わる立場、かつ支店のスタッフに教える立場」であった訳ですが、その「教える立場」「教わる立場」という基本的なポジションがあっても、同時にその逆の立場としての作用が介在することで相乗効果がもたらされることは多いのではないかと、気づくことが出来ました。売り上げも、3月の給与明細も素晴らしかったです。そして、当時のスタッフからはいまだに「チーフ」と呼んでもらっています。


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