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法人営業(男性) 2015-11-09
時に街中や電車で先輩に同行する新人営業を目にすることがあります。
端から見ていると先輩のひとりよがりでクドいアドバイスに感じますが、それでもウンウンとうなずきながら話に聞き入る新人を見ると、どこかうらやましいような複雑な気持ちになります。
私は法人営業として5年間キャリアを磨いてきました。
上司や先輩からは、まだまだひよっこ扱いをされることがありますが、少なからず営業としての自負心と自信を持って取り組んでいます。
そんな私の所属する営業所に、今年、新入社員が配属されることになり、私はその新人の指導係を仰せつかることになりました。
日常業務で日々忙しさを感じていましたが、営業所内の序列としてそろそろ指導役が回ってくるタイミング。多少面倒に思いながらもそこはすんなりと受け入れることができました。
しかし、そこに付け加えられていたもう一つのミッションが私は非常に不満でした。
それは「私の担当する顧客、K社を新人に引き継ぐこと」でした。
顧客K社は私の売り上げの4割にあたりますので、かなりの大口です。
しかもK社は、私が営業3年目で新規開拓をして受注した、思い入れのある取引先なのです。
当時、新規取引先の開拓に行き詰まっていたころ、何度も何度も通い詰め、ようやく小さな仕事をいただくことができました。本当に小さな案件でしたが、私は丁寧にその仕事に取り組みました。それを意気に感じてくれたのか、その後、徐々に発注を増やしていただいた経緯があります。
そのきっかけを与えてくれたK社担当の三浦さんとは、今では時にプライベートで飲みに行くこともあるほどの良好な関係が自慢でした。
そこで私は営業所長に反対を試みました。
「所長、K社は私が担当でないと務まらないですよ。担当者も私を信頼してくれているし......」
しかし、所長は「K社の売上は安定しているし、仕事はルーチンが多いから新人が一通りのやり方を学ぶにはちょうどいい。もし困ったことがあったら君がサポートしてあげればいいじゃないか。むしろ今K社にかけるパワーを減らすことで、君には別の新規顧客開発や、他の顧客への提案にもっと取り組んでほしいと思っているんだよ」
確かに担当顧客にはポテンシャルの大きそうなところがありましたが、その拡大ができていませんした。
ただ私は、営業の大きな役割は「担当者との信頼関係を築くこと」だと思っています。
これって一言で言うのは簡単ですが、一つひとつの仕事を着実にこなし、時に無理を聞いたり、あるいは一緒に問題解決を積み重ねていく中で作られていくものです。
つまり、ある程度の時間をかけて積み重ねてきたもの......すなわち営業の財産であると思っています。
それをたった数カ月の新人に引き継ぐなんて......。
また自分の経験からも「営業なら自分の顧客は自分で見つけてこい」というのが正直な気持ちでした。
しかし結局所長の考えは覆らず、ある段階で新人にK社の担当を引き継ぐことで決定。
なんとも面白くない、もやもやした気持ちで新人の配属を待つことになりました。
さて配属日当日。新人が所長に連れられてきました。
「新入社員の諸星です!どうぞよろしくお願いいたします!」
......第一印象ははきはきとしたさわやかな新入社員。かなりのイケメン。しかも学生時代に半年間の海外留学と自分探しの旅で鍛えられたと自認する物怖じしない態度。
営業所の先輩たちも「今年の新人は当たりだなぁ」とか「営業所の次期エースだな」ともてはやす始末。私自身のひがみからか女性社員の瞳も幾分輝いている様子。
「お、おぅ、一緒に頑張っていこうな......」こちらがどこか気圧されるようにOJTがスタートしました。
K社に初めて同行したときも、そのさわやかさと堂々とした態度が好感を与えたのか、三浦さんも「へぇ〜そうなんだ、何だか残念だけど、でも御社の方針ならしょうがないよね。ところで諸星くん、学生時代はなにやってたの?へぇ〜。」
とあまりにあっさりした対応で少し拍子抜けしたほどでした。ただ同時に諸星に嫉妬している自分がいました。
しかしこの諸星、見た目はさわやかで行動力もあり、要領の良いタイプでしたが、かなり記憶力に乏しい様子。ときどき私の出した指示に対して連絡や報告を忘れることがありました。
幾度となくメモを取るように注意しましたが、徐々に「大丈夫っす!」とか「完璧っす!」というチャラい返事、あげくの果てには「なんか先輩って心配性ですね」「もっと僕を信頼してほしいよなぁ」という生意気な反応を返すようになりました。またK社の仕事を引き継いでいる途中でも「昔から、僕こういう仕事って結構さばいちゃうタイプなんですよ」とのたまう始末。
(......この仕事が軌道に乗るまで俺がどれだけ時間をかけてきたと思ってるんだ)
諸星に対してムカムカした気持ちが芽生えてきました。
一方で、私自身はいまだ信頼関係を築けていないK社以外からの受注は一向に増える兆しがありません。所長からはそのことをネチネチ突っ込まれることがしばしば。
後輩に自分の顧客を奪われ、所長にも自分自身をないがしろにされたような気持ち。そして新たな仕事で成果の出せない自分へのいら立ち。
いつしか諸星へ必要以上に指導することをしなくなっていました。
そんなある日、トラブルが発生してしまいました。
諸星がK社の納品物を期日である夕方までに届けることを忘れてしまったのです。
三浦さんからの怒りの電話で自分が引き起こした事態に気づいたとき、私のもとへ真っ青な顔で諸星が相談に来ました。いつものチャラい様子はみじんもありません。
しかし、よくよく話を聞けば、三浦さんの怒りはもっともながらも、すぐに手配し明日の朝一番で届ければ最悪の事態は免れる様子
まずは三浦さんのもとへ駆けつけ謝罪し、これまでの経緯と今後の対応を説明すればなんとか理解してくれるはずです。私ならできるし、そうするでしょう。
しかし、会社への反発、諸星の言動への不満など、これまで気に入らなかったことが積み重なっていた私は冷たくこう言い放ちました。
「だからメモを取れと言ったんだよ」
「この仕事は簡単だって言ってたよな?」
「俺は一緒に行かねーぞ。だいだい今はお前が担当なんだから自分で解決しろよ」
「こういうトラブルを解決することで信頼関係がうまれるんだよ」などなど。
今から思えば、さまざまな不満を諸星にぶつけていたのでした。
結局、この件は所長が諸星に同行してK社に謝罪に行くことになりました。三浦さんも新人が起こしたミスということで大目に見てくれ、また翌朝納品できたことで無事解決に至りました。
このトラブルをきっかけに会社からは「新人に担当を持たせるのは時期尚早」という判断が下され、再び私がK社を担当することになり、諸星は私を含む他営業のサポート的な役割を担うことになりました。
三浦さんはしばらくは私に「やっぱり頼りになるね」と言ってくれ、私も満足。
しかしこのことが原因となって私と諸星の関係はよりぎくしゃくし始め、もはや仕事で必要な用件以外は口を聞くことすらもなくなってしまいました。
その後も諸星はちょいちょい小さなミスを連発して、結局「自信をなくした」という理由で退職してしまいました。
街中で見かける営業の先輩は、後輩に何を伝えるのでしょうか。
新人を育てて、その場所を受け渡すこと。自分自身にとってのライバルを育てること。
この経験を経ても私にはまだまだその自信がないのが正直なところです。
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