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会社員(男性) 2015-07-22
前回担当した新人は新卒で、表情が乏しく無口なタイプで手を焼きましたが、今回はまったく正反対。明るいし自分から積極的になんでも聞いてきます。なのでかなり期待感が高かったのです。
当時私のいた部署は事業推進部といって、商品開発部門と営業部門の橋渡し役。販促ツールを作成したり、各拠点を回って商品の機能やセールスポイントを営業員にレクチャーする、というのが仕事です。
そこに入ってきたのは、中途採用の田村さん(男性)。前職ではホテルマンだったというだけあって、人当たりもよくマナーも申し分ない好青年です。現場の営業員はひとクセもふたクセもある猛者ぞろいなので、彼らに対応するには精神力と対人能力を要します。新卒新人だと軽くあしらわれがちなので、中途でいい人が入ったと皆喜んでいました。
私はOJTのトレーナーとして、事業活動や組織体制、商品のことなど、一通りを彼に教えました。
田村さんは話の聞き方もいいのです。新人とはいえ27歳。社会人としては5年のキャリアがあるのにとても謙虚で低姿勢。相手の目を見てうなずいて、「そーだったんですかー!」「なるほどー!」「勉強になります!」などと少々大げさなくらいのリアクションをとるので、話すほうがすっかり気分がよくなって、ついつい指導時間をオーバーしてしまうのです。そんな人柄ですから女性社員にも結構人気があり、頼まなくても皆率先して教えたがるので、トレーナーの私としては実にラクでした。
彼ならたたき上げの営業員達ともうまくやれるだろう、そう思っていました。
しかし、3カ月を過ぎたころから、なんとなく違和感を感じ始めたのです。
その1つが、やたら質問が多いということ。そのこと自体は別に悪いことではないのですが、「本当にそれを知りたくて質問してるのだろうか?」と疑問を感じるようになってきたのです。
例えば、各エリア別の統計資料を作るために、データベースを使った処理を行うわけですが、彼は「パソコンは不慣れなので」というので、まずは使い方を教え、見本を見せてやらせてみる......と、基本にのっとって丁寧に指導するわけです。
その後、「じゃあ一通りマスターしただろうから、実践よろしく」と言って資料を渡して席を立とうとすると、「あの、一つ質問していいでしょうか」と田村さん。座り直して「どうぞ」と言うと、「このエリア別の統計って、現場ではどんな風に使われるんでしょうか?」
ふむふむ、そもそもの目的を知ろうとすることはいいことです。確かにその点の説明が足りていなかったかな、と反省しつつ説明します。すると感心したようにメモをとり、今度は「エリア別の競合の状況は?」とか「注力商品の市場での位置づけは?」など、鋭いことを聞いてきます。生意気な新人なら「いいから、言われたことをやれ!」と言ったかもしれませんが、目をキラキラさせて感心しながら聞くものですから、こちらも「さすがに中途は聞くことが違うな」などと好意的に解釈して、ついつい長々とつきあってしまいます。そうこうしているうちに作業時間が足りなくなって、結局田村さん1人にやってもらうはずだった作業を、2人で分担してやる羽目に......。
また、彼にすでに教えていたはずの作業を、女性社員から教わっていたのを目撃したこともありました。例によって「なるほどー!」と感嘆の声を上げる横で、懇切丁寧に指導する女性社員。「あれ?田村さん、その処理はこの間教えたよね?」と言うと、「はい。すみません。やっているうちにわからなくなってきて、大久保さんが親切に教えてくださったんです」「ああ......、そう」
そのときは、「まぁ不慣れなことだし、そんなこともあるかな」と思っていたのですが、その後、同じような場面が何度かあり、揚げ句の果ては、田村さんに任せていたはずの作業を、他の女性社員が肩代わりしているようなことも......。それでも、彼は人気があるので、女性社員のほうが要らぬおせっかいを焼きたがるんだろう、と思ってました。そういう面も確かにあったと思います。そこで、私は少し厳しく接するようにしてみました。
田村さんが「あの、質問が......」と言ってきたときは、「まずこの作業をやってから聞くから」と言ったり。「明日の出張に持っていくので、今日中にやっておいて」と厳しめの納期を課したり。それでも目を離すとちゃっかり女性社員に手伝ってもらっていたりするので、「1人でやらないと力つかないから、他の人も手を出さないように!」とたしなめたり。
周りの女性社員からの「男の嫉妬って見苦しいわねえ」などというひんしゅくの言葉に耐えながら、彼を鍛えようとしました。
OJTが半年たったころ、彼がメインで営業員にプレゼンするという機会を設定しました。これまでも何度か出張に同行させたのですが、これまでは私がメインで彼は補助でした。「これからは田村さんがメインだから」そのように伝えました。
しかしあろうことか、出張当日、田村さんは体調不良で休んでしまったのです。「当日にドタキャンって、うっそだろ」私は苛立ちを隠せませんでした。
翌日、田村さんはげっそりした顔で出社してきて平身低頭に謝ります。そうなるとあまり強くは出づらいのですが、「社会人なんだから、当日ドタキャンはダメだ」と釘をさすと、近くにいた大久保さんが「でも具合が悪かったんだからしかたないじゃないですか。大丈夫?の一言もなく叱るなんて」と助け船を出し、人非人を見るような目で私を見るので、それ以上言えなくなってしまいました。(本当は、どんだけ迷惑かかったと思ってんだ!と、もう一言くらい文句を言いたかったのですけど......)
私が思うに、彼は1人で仕事を背負う気がなかったのではないか、そんなふうに思えるのです。
結局その後も、出張が近づくとなぜか"仕方のない理由"が発生して行けなくなったり、なんだかんだで他の人に肩代わりさせたり。そのくせ真面目で気配りもできて、特に女性陣からは好かれるという。なんとも腹立たしい男なのです。「ひょっとして、とんだ食わせ者か?」私はますます厳しくなり、女性陣からはますますひんしゅくを買うようになりました。
結局彼は、1年のOJT期間が終了し、いよいよ独り立ちという時期を待つように辞めてしまいました。
職場では、なんとなく自分が辞めさせたみたいな雰囲気になっているのですが、自分としては、OJTトレーナーとして当たり前の要求をしただけだと思っています。でも、どこか後味の悪さと徒労感が残るOJT経験でした。
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