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生産財メーカー 社員(男性) 2015-04-23
生産財メーカーの業務部にいた時の話です。当時私は、入社5年目で、業務部の資材管理チームのリーダーをしていました。
ある年の春、営業部にいたAさん(男性)が、私のチームに異動してきました。彼も私も中途採用で同期でしたが、Aさんのほうが私より4歳年上です。課長からAさんのOJTを命じられたときは、ちょっとやりづらいなぁとも思いましたが、立場上、仕方ありません。
不安は的中で、AさんのOJTには苦戦しました。正直、知識はなくてもいいから、新入社員のほうがどれだけましか、と思いました。
例えば何かを教えようとしても、「なんでそんなことしてるの?ムダじゃない?」とか、「営業がほしいのはこういう情報じゃないよ」とたてついてくる(しかもタメ口)ので、いちいち議論になってしまい、説得するのが大変なのです。
Aさんには、「業務の人間は現場を知らない。だからダメなんだ」という頭があるようで、逐一つっかかってきます。
確かに私は入社してからずっと業務ですし、前職も経理なので、営業という仕事を知りません。営業から見たら理不尽なことやムダと思えることもあるのかもしれません。しかし、今私にそれを言われても、システムや規程をすぐに変更できるような権限もないですし、そもそも無茶なことはわかっているはずです。
Aさんに仕事を教えようと思っても、議論の時間が増える一方で、仕事は進まないわ、時間は足りなくなるわ、そんなことを繰り返している内に、ほとほと面倒くさくなってきて、「Aさんに教えたってムダ。自分でやったほうがはやい」と居直り、最小限のことしか言わなくなりました。
そんなAさんは他のメンバーからも煙たがられ、明らかに孤立していきました。業務がわかっていないので、電話をとることもしません。決算期を迎える2月〜3月は超多忙になるのですが、Aさんだけ、定時にさっさと帰っていきます。これにはさすがに他のメンバーから苦情がきました。「リーダー、なんでAさんばっかり楽しているんですか?もっとガツンと言ってやってくださいよ。これじゃ3月を乗り切れないですよ」
その状況は痛いほどわかっているし、メンバーの不満もよくわかる。でも言ったところでなぁ......。
私自身もメンバー以上に仕事をかかえ、その上OJTもしないといけない。したところでかいがない。「一番不満を言いたいのは私だよ!」と叫びたい気持ちをかろうじておさえつつ、「わかった。話してみるから」としぶしぶ約束をしました。
「こういうのって本当は課長の役割じゃない?」とも思いましたが、課長は兼務のためほとんど席にいません。なんで自分が......という気持ちを押し殺し、深呼吸して気持ちを落ち着かせ、今日は観念してしっかり時間をかけよう、と覚悟しました。
「Aさん、ちょっと会議室に来てもらえますか?」
面倒くさそうに会議室に入ってきたAさんに、チームの今の状況、3月を乗り切るためにAさんにやってほしいコトを伝えました。そしてこう付け加えました
「営業サイドから見たら今の業務のしくみは確かに問題もあるかもしれません。変えるべきことは変えていくのがいいだろうと思ってますし、そのためのアイデアは歓迎します。ただ、今すぐに変えられるわけではないですよね。いろいろ納得いかないことはあると思うけど、まずは今のやり方に従ってくれませんか? Aさんが一通り習得したら、改めて改善案について話し合いましょう」
また反論される、そう思っていましたが、Aさんの態度は意外なほどにあっさりしたもので、一言「わかった」と言っただけでした。
私は拍子抜けしてしまい、次の句にとまどって、とっさに「もしかして、Aさんは業務に来たのが不満ですか?」などと余計なことを口走りました。
すると、これも意外なことに「業務部が不満ってわけじゃないけど......」と、堰を切ったように話し始めたのです。
それによると、Aさんは営業部から異動になる直前に、1年越しの提案でようやく大きなプロジェクトの受注を取り付けたそうです。やっと案件が内定し、いざこれから契約してキックオフという時に辞令を出され、手柄も仕事もはぎとられて、上司とも相当もめたということでした。
そんなことがあった末の異動だったとは、まったく知りませんでした。
もちろん、どんな理由があれ、Aさんの態度は社会人として許されるものではありません。しかし、最初にAさんの心情が理解できていたら、こんな遠回りをしなくてもよかったかもしれない、と思いました。
この日以降、Aさんの態度は少しずつ変わっていきました。
私の説得でAさんが変わった、とは思いません。Aさんは、きっと変わるきっかけを待っていたのだと思います。Aさんだってこんな状況で居心地がいいわけがないのです。プライドもあるし、これまで斜に構えていた態度を急に改めることは難しいけど、そろそろリセットしたかったのかもしれない。営業のときにそこまで情熱を傾けていたAさんですから、まともに仕事ができない状態はストレスでもあったはずです。
まず相手を理解すること、そして、言ってもムダと決めつけず、根気よく向き合うことが大事なんだということを学んだ出来事でした。
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