公開日:2015年11月10日
知識を得るためには知識が必要です。知識とは言葉による意味情報のことです。
何か新しいことを学ぼうとするとき、私たちはこれまでの知識や経験の記憶を総動員し、それに照らして理解しようとします。
記憶の中に似たようなパターンがあれば、そのパターンに当てはめて情報を整理します。これをスキーマと呼ぶことがあります。
もし、記憶の中に似たようなパターンがない場合でも、既存の知識やパターンに対比させながら、新しいパターンを形成しようとします。
いずれにしても、なにもとっかかりのない状態では、情報のとり込みようがありません。いくら理路整然とした話でも、知識がなければ、それは単に音の連なりにすぎません。
OJTの指導担当者のよくある悩みに、「(トレーニーが)わかっているかいないのかが、わからない。わかっていないなら、なぜ質問してこないのか?」というものが多いのですが、それは、相手が"質問ができるレベルにないほどわかっていない"ということなのだと思ったほうがいいでしょう。
つまりは指導担当者が、相手のわかる言葉や相手の持っているスキーマに照らして説明の方法を工夫する必要がある、ということです。
人は、すでに知識があるからこそ考えることもできるし、記憶することもできます。そのため、早い段階で知識の元となる"言葉"を蓄えること、そしてそれを正しく使うということはとても大切です。
一度間違った言葉や概念を記憶してしまうと、それを後から修正するのは容易ではありません。また、言葉の間違いや勘違いはコミュニケーション・エラーをもたらし、それが仕事のミスやトラブルにつながることも多いのです。
特にOJTの指導担当者は、正しい言葉を使って説明する、ということを意識してください。
当たり前のことのように見えますが、現実には以下のようなことがまま見受けられます。
指導する側は、そんなに正確でなくてもこのくらいはわかるだろう、などと思うかもしれません。しかし特に相手が新人の場合は、知識がまっさらな状態ですから、あいまいな言葉の使い方をされると、理解がゆがんでしまいます。
そこで、指導担当者は、OJTを行う前にリハーサルをして、自分の言葉の使い方を点検してみてください。言葉を点検するということは、自分の理解度を点検するということでもあります。
余談ではありますが、1つの傾向として、自信がないことを説明するときは、早口になったり、言葉に言葉を重ねて相手をけむに巻いたり......、ということをしがちです(身に覚えはないですか?)。
これは、自信のなさを隠そうとする防衛反応の1つです。そうすることで、相手は「こんなに説明してくれているのに、さっぱりわからない。それはきっと自分の頭が悪いからだ。下手に質問してまた話されてもきっと余計にわからないから、ここは黙ってやり過ごし、後でこっそり調べればいいか」などという気持ちになってしまうものです。いったんそういう指導関係ができてしまうと、OJTの効果はあがりません。
ものごとを理解するためには、第一に言葉の理解が必要です。
指導担当者としてOJTを行う人は、ぜひ以下の点に注意し、またトレーニーにも習慣づけるようにしてください。
『OJT新人ノート』には、新人が初めて聞いた言葉を書きとめておく「私の専門用語」というコーナーがあります。
これを新人とOJTリーダー(指導担当者)が共有することで、新人の理解度を把握したり、伝え漏れがないかを点検できます。
また、その言葉を使って対話をすることで、より理解を深めることにつながります。OJTの効果をあげるために、ぜひご活用ください。