公開日:2012年06月06日
新入社員のOJTについて、もう少し触れておきたいと思います。
この数十年の間、企業内での業務は弛むことなく変化し続けてきました。1つの大きな流れは、標準化、単純化、自動化ですが、その結果として、1人の人が担当する仕事は「総合化」が進行してきました。
1980年代くらいまでは、1つの業務が複数の工程からなり、それぞれの工程に多くの人が関わって一連の業務を進めていました。新入社員が入社してくると、その1つの工程に担当者としてつかせます。その1つの工程は手順自体は比較的単純でしたが、十分な業務量があり、新人でもそれなりの貢献ができました。
1つひとつの作業の中にはそれなりの技能を含むものもありましたが、基本的な手順を教えること自体はそれほど大変ではなく、あとは本人が根気よく続けていれば、いずれ習熟し、熟練という域に達することもできました。
もちろん、その時代もできるだけ業務のムダを省き、品質も高めようと改善が試みられてきました。そして、各工程は標準化や単純化が進み、一部は機械に置き換わっていきます。
1990年代になると、もっと劇的に生産性を高める必要が出てきて、業務プロセス自体の見直しが始まります。それによって業務の工程は少なくなり、短くなったプロセス全体を1人か数名で担当するようになります。その結果、業務を担当するために必要な知識は飛躍的に増え、担当者として業務を任せるには複数の能力要素を身に付けることが必要となってきました。
一方、市場では企業に対する要求がどんどん高度化してきました。価格や品質に留まらず、安全・安心、顧客対応、環境、適正、社会貢献といった要求は、一昔前と比べるとはるかに高くなってしまいました。その結果、入社してきても一定の知識と基本行動が身に付くまでは、業務を担当させることすらできない仕事が増えてしまいました。
企業でも、そうした環境変化に対応できるように、煩雑な経営管理手法を次々に導入してきました。安全、品質管理、改善などの活動や手法はそれ以前からメーカーを中心に取り組んでいましたが、90年代以降は、CS、目標管理、ISO、企業価値向上の手法、コンプライアンス、リスクマネジメント、BCP、情報セキュリティ、KPI、内部統制等々と、新しい管理手法が次々に導入されてきました。
現在ベテランと言われる社員は、これらの変化の過程を20年近い時間をかけて経験し、習得してきました。また、以前の長い業務プロセスで存在していた各工程を1つひとつ経験しているので、そのプロセスが統合されてブラックボックス化していても、中身を理解しながら仕事をすることができます。あるいは各種の経営管理手法によって厳格化された業務規定や手順も、段階的に、何とか無理なく覚えて来ることができました。
ところが、新入社員にはこれらを短期間で理解し、習得することが求められます。先輩を見て覚えろといっても無理ですし、本人任せにしていたのではどのくらい期間がかかるかわかりません。そのため、新人を戦力にするためにはどうしても体系的な教育が必要となります。さらにそれらを業務の実状にあわせて実践的に教えるには、OJTに頼らざるを得ません。
もはや優秀な新人を採用しても、配属後のOJTなしでは仕事をやらせられない時代となってしまったわけです。