公開日:2011年10月07日
前の記事では、「OJTが企業の競争力、成長力に差をもたらす」と書きました。
実際のところでいうと、企業が成長できるかどうかは、市場の成長率や会社の戦略にかかっているとみなすべきかとは思います。人材育成だけで直接的に企業を成長させることはできませんし、人材育成に熱心だった会社でも倒産してしまうところはたくさんあります。
しかし、成長市場で事業を行えたとしても、その市場をものにできるかどうかは人材力によるところが小さくありません。また、どのような戦略を掲げたとしても、その戦略を実行できたかどうかはやはり人材力が少なからず影響しています。そして、複数の教育手段の中でも、確実に企業の力となっていると思われるのは、やはりOJTだと感じます。いくつか、実際の企業事例をみてみたいと思います。
少し古い話になりますが、ある企業でベテランの営業担当者の研修をお引き受けしたことがあります。その会社は、正社員だけに限ると200名くらいの規模でしたが、あるニッチな市場を開拓し、トップクラスのポジションを維持していました。
ライバルは有名企業の子会社の1事業部門です。後発で参入してきた相手ですが、ここ数年で追い上げられ、自社も業績を伸ばしてはいましたが、トップの座を明け渡してしまいました。
研修の事前打ち合わせでその企業の営業本部長からヒアリングする機会があり、そこで伺った話が非常に印象的でした。
「うちは商品力やサービスではナンバーワンだし、この業界での知名度も決して負けてないんです。ところが相手は、つい数年前に新入社員ですといって挨拶を受けた営業が、数年経つといっぱしの営業になっている。うちだと5年、10年かかって育てている営業のレベルに、向こうは2、3年で育ってしまっているんです」
通常はいつも競合するライバル企業でしたが、大型案件では協業することも多いらしく、お互いの営業もよく知っているとのことでした。
「もともと、うちは営業の会社だと言ってきたんですが、今では営業で仕事を取られてしまっている。採用する人材に差があるのかなと思って出身大学を聞いてみたんですが、大した大学でもない。相手は大手といっても子会社なので、大学名だけ比べたらうちのほうがいいくらいなんです。
だったら、何か充実した研修でもやっているのかと聞いてみても、研修を受けたのは新入社員の時くらいだと言っている。そうなると、組織力の違いなのかな、と思えてしまいます」
営業本部長が使っているニュアンスだと、この『組織力』とは組織が人を育てる力という意味のようでした。
「向こうはやはり、親会社から引き継いだ営業を育てるノウハウを持っているか、育つ雰囲気があるんだとしか思えない。
うちも昔から育てろ、育てろと言ってきたので、わかっているとは思うんだが、見ていると厳しくしかりつけているだけで、育て方も、何をどう教えるかもわかってない。考えてみると、私も営業会議でしかりつけるだけで、そういったことは会社として何も教えてこなかった。
うらやましい限りですが、うちもこのままじゃいけないし、まずは自分たちの勉強からと思って研修をお願いしたんです」
実際にライバル企業の親会社は、メーカーではありましたが営業担当者のOJTではときどき話題に出てくる企業でした。
子会社のライバル企業がそのOJTのノウハウをどの程度引き継いでいるかはわかりませんが、この営業本部長が実感したことはあながち外れてはいないようでした。
だとすれば、業界地位が逆転してしまった要因の1つが現場の人材育成力の差だといえそうですが、それに気づいてもすぐには真似できないのがこの差だと思える事例でした。