業務の体系が整理されていると、業務マニュアルは作りやすくなりますし、散らかりにくくなります。
業務全体を俯瞰するために、当社が用いているフレームワークについてご紹介します。
*過去にもTipsでご紹介した方法ですが、あらためて再整理します。
増え続ける社内マニュアル
当社が業務マニュアルの作成を依頼されるとき、お客さまの状況は概ね以下のいずれかです。
- そもそも業務マニュアルがない
- マニュアルの内容が、現状とあわなくなった
- マニュアル類がありすぎて収拾がつかなくなった
意外と多いのが3番目です。業務マニュアル、作業マニュアル、作業標準書、社内の研修資料、個人的な引継ぎ資料や管理資料まで、社内には実にさまざまなマニュアル類が存在し、増え続けます。
マニュアルが散らかる理由については、Tips No.55でも紹介していますが、基本的には、体系、フォーマット、ルールがない状況下でマニュアルを作り続けると必ず散らかります。
体系がない
業務の体系とは、個々の業務(作業を含む)の関係が整理された情報です。業務を体系化することは、業務全体を俯瞰できる状態にすることといえます。いっぽう体系がない状態とは、秩序のない混とんとした状態といえます。
フォーマットがない
フォーマットとは、ひとまとまりのマニュアル(ドキュメント)の媒体や形式です。もし決まったフォーマットがなければ、マニュアルの作り手によって媒体や形式がバラバラに存在することになるため、管理が難しくなります。
ルールがない
ルールというのは、ここではマニュアル文書(コンテンツ)の表現に関するルールです。文体や用字用語、作図、色、レイアウトなどについて、表現のルールが統一されていないと、読み手の理解を妨げることになりかねません。マニュアルがわかりにくいと、他の人がまた似て非なるマニュアルを作るかもしれません。
さて、以上のうち、フォーマットやルールが揃っていると、マニュアルはそれなりに整って見えます。しかし体系が整理されていないと、管理のための基準が定まらないので、やはりいずれは散らかります。
例えばオンラインでマニュアルを共有できるプラットフォームを使えば、フォーマットは揃います。比較的手軽にマニュアルを作ることもできます。しかし便利な反面、それだけ散らかりやすいという面も否めません。
検索機能があるから問題ないのでは?という意見もあるかもしれませんが、検索結果が多すぎても不便なものです。検索条件を絞ってリンクをたどった揚げ句、必要な情報にあたれるとも限りません。
まずは今現在どんな業務があって、それらがどう関係しているのか、その体系が整理されていれば、社内のマニュアル類は散らかりにくくなります。
業務は変わるから体系化はムダ?
このように言うと「体系化したところで、どうせ業務は変化するから」とか「うちの業務は定型的ではないからマニュアルにならない」などと言われる方もいらっしゃいます。
もちろん、時代は変わりますし組織も業務も変わります。一度作った体系もマニュアルも、早晩古くなるでしょう。かといって、混とんとした状態のままコトを進めては、かえって非効率を招いてしまいます。
変化に対応していくためには、必ず試行錯誤が伴います。そうした時間をつくり出すためにも、まず現段階の業務がどういう状態になっているか、体系を整理する必要があります。その上で、標準化できる(する)部分をマニュアルに落とし込み、試行錯誤や創意工夫のための時間をつくり出す必要があります。
コア業務でもそうでなくても、大なり小なり必ず標準化できる部分はあります。企画営業なので標準化できない、ということはないのです。体系化作業は、この標準化を試みるためのベースとなります。
*ただし、ドキュメントとしてマニュアルにすべきか教材にすべきかについては、Tips56も参照してください。
業務は入り組んでいる
業務は複合的に入り組んでいます。
小さな業務はもっと大きな業務の一部を構成していて、このように、大小いくつもの業務が連なっているのが普通です。
もし、実務担当者がそれぞれの都合や解釈で業務や作業を切り取ってマニュアルにすると、マニュアルは複雑に散らかってしまいます。さらに、重要なことが実はどこにも書かれていない、などというモレも発生します。体系化とマニュアル化をセットで進めることで、こうした状況を防ぐことが可能になります。
体系化する目的は、現業務の進め方をただ固めることではありません。今の状態を可視化して、標準化できることを見つけてマニュアルに落とし、次へ進むためにあります。
業務の体系化は2階建てで
さて、それではこのように大小連なる業務の体系を押さえるにはどうするか、当社の場合は大中小・大中小の2階建てでとらえます。
例えば1つの事業部門であれば、一番大きな業務は事業になります。事業はいくつかの大きな業務からなりますが、それが事業区分です。そこから業務区分、業務項目と、大・中・小の3段階で階層にします。
そしてさらに業務項目を大分類として、そこから工程区分、基本処理と、また3階層を掘り下げます。
(Tips No.54を参照)
そして、業務項目までを業務ととらえ、それより小さいものを作業と呼んでいます。
どこまでの範囲を業務と呼ぶかは、結局はその組織の決めごとになりますが、概念としては、このようにとらえることができます。
一般的には、一番上から大中小と順に掘り下げますが、その発想ではどうしても業務の粒度が揃わなくなります。
そこで、業務項目の粒度を揃えながら、業務項目を柱として2階建てでとらえるようにします。この業務項目を明らかにすることに、体系化を行う大きな意味があります。業務マニュアルも、基本的にはこの業務項目の単位で作ります。
俯瞰図と業務フロー図でとらえる
全体を立体的に表すと、図のようになります。
川上、つまり事業区分、業務区分、業務項目のところは、業務の縮尺の度合いに応じて俯瞰図にして、業務相互の位置づけを図解します。当社ではこれをマップと呼んでいます。
このようにして、業務項目を洗い出し、1つひとつの業務項目について、その工程を工程区分、基本処理と階層を掘り下げながら、流れを整理していきます。この工程を業務フロー図で表します。
なお、この業務項目というのは、複数の担当者がモノや情報をやりとりしながら仕事を進める単位です。その工程においては、必ず何らかの事務(情報を取り扱う作業)が発生します。
当社では、この業務項目の工程を整理するために、「業務分析フォーマット」というスプレッドシートを使用しています。これについては、「業務の整理と可視化」実践講座も参照してください。
*なお、一般に業務プロセスという場合、ここでいう業務項目までのいずれかのマップを表す場合もあれば、業務項目の工程を含む場合もあるようです。当社が業務プロセスという場合は、主に業務項目の工程をさします。
体系の柱は業務項目
以上のように、業務と作業の体系は、業務項目を柱として2階建てで整理すると考えやすくなります。
そして業務項目の単位で、業務フローを整理して、基本的には、それをもとに業務マニュアルを作ります。
さて、大中小も階層ですから、実際には2階建てではなく5階建てでは?と思われるかもしれません。
そうではあるのですが、実際には必ずしも5階層になるとは限らないのです。
業務の体系は業務項目を柱として考えるため、 対象とする業務の範囲などによって、出発点をどこにするかは変わる場合があります。
業務項目によっては、業務区分を飛ばす(使用しない)場合もありますし、粒度を揃えるために、補助的な区分を追加することもあります。
粒度については長くなるのでまた回を改めたいと思いますが、階層が5つにならないこともありますので、ご了承ください。
2階建てと表現したのは、体系には、業務項目までの「業務の体系」と、1つの業務項目の中の「作業の体系」があり、これらを区別して考えましょうという意味があります。
なお、業務の体系は業務相互の位置づけを中心に「マップ」で整理しますし、業務項目以下は、作業の流れを中心に「業務フロー図」で整理します。
以上のように、基本は大中小、大中小と3階層ずつ掘り下げながらも、業務項目を柱として調整すると、全体の整合性をとりやすくなりますし、そのほうが仕事の実態にも近くなると思います。
業務は将来に向けて変化していきます。それでもいったん体系が整理された状態からであれば、見直しもしやすくなると思います。また、このような体系のフレームワークに照らして考えることで、業務マニュアルを作るにあたっても、その位置づけを明確にできますので、散らかりにくくなるはずです。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子