業務のノウハウを伝えたい場合、業務内容によっては、業務マニュアルではなく「教材」として作成するほうがよいものがあります。今回は、どのような業務を業務マニュアルにすべきか、何を教材とすべきか、について解説します。
教材とは
まず教材とは、その名の通り教育の素材です。教育を目的として使用するものなら教材となりえるので、業務マニュアルも教材として活用できます。
よって、そもそも教材と業務マニュアルを二元論的に比較すべきではありませんが、ここでは「教材」をもう少し狭い意味でとらえようと思います。
ここで「教材」と呼ぶのは、純粋に教育訓練を目的として作られるものに限定しますのでご了承ください。その上で、当社では教材と業務マニュアルの位置づけを以下のようにとらえています。
教材を作るべき業務とは
例えばライン部門の業務を考えてみましょう。図では、特に対人折衝が生じる業務をとりあげてみました。
過去に書いたTips9業務には固有業務、支援業務、管理業務があると述べましたが、固有業務を平たく言うと「本来の仕事」といえます。営業であれば、顧客開拓や提案・交渉など、直接お客さまに働き掛ける活動が該当します。
システム開発であれば、設計やプログラム開発など、システム技術を使った業務になるでしょう。
エステのような技能職であれば、施術、肌診断、アドバイスなどが該当します。
これらはいずれも直接的に付加価値を生み出す活動ですが、特に対人業務は不確定要素が多く、創意工夫や試行錯誤、臨機応変な対応が求められる仕事といえます。
同じ工程を経たとしても、対人スキルや技能レベル、センス、経験といったものによって、アウトプットに個人差が生じる傾向があります。
この「本来の仕事」を教育するには、マニュアルよりも「教材」を用意すべきと考えます。
教材は、図のように、活動のベースを築くもので、以下のようなことを目的とします。
- 理念や行動指針、価値基準を共有する
- 知識を修得する
- 技術・技能の訓練・リハーサルを行う
もし営業であれば、営業ステップや標準話法(スクリプト)、ロールプレイング教材、想定問答集などの教材が考えられます。そして個人は教材で学んだことを応用しながら現場で活動します。
もちろん、ライン部門だけでなくスタッフ部門においても、不確定要素の多い非定型的な業務については、同様のことがいえます。
業務マニュアルを作るべき業務とは
これに対して業務マニュアルは、基本的には、日常的に繰り返し行われる“手続き”を対象とします。これはモノやサービスの動きとともに情報を受け渡す手続きのことで、支援業務や管理業務にあたる部分です。
例えば営業活動を行ううえでは、見積書を作成したり、受注報告したり、請書を発行したり、売上計上をしたり……などなど、所定の手続きを行う必要があります。
業務マニュアルが扱う「業務」とは、このような部分です。
業務の結果は、最終的に経営管理の基礎データ、主に会計データに紐付きますので、個人によってやり方が異なると、経営判断に影響を及ぼしてしまいます。またミスや手戻りが多いと、本来の仕事に割ける時間が少なくなります。そのため、手順や基準を明確にしマニュアル化したうえで、正しく行う必要があるのです。
なお、業務マニュアルの定義は、以下にも書いていますので、 Tips38も参考にしてください。
教材と業務マニュアルの開発工程の違い
最後に開発工程の違いについてです。
大きな違いは、図のように仕事の整理(業務分析・体系化・標準化)の工程があるかないかということです。
教材は、比較的水平展開しやすいものでもあります。
特に新入社員用の研修教材は汎用性が高く、職種によっては共通する部分もあります。
これに対して、業務マニュアルは1品づくりです。同じ業種・職種であっても、取り扱う製品やサービス内容、使用するシステム、社内体制などによって、業務は大きく異なります。
そのため、業務マニュアルを作るときは、必ず「仕事の整理」を行う必要があります。……と当社は考えています。
教材か業務マニュアルかで工数がかなり変わってきますので、特に外部委託を検討している場合は、成果物の想定と開発工程についてどうとらえているか、事前に委託先に確認するとよいでしょう。
教材と業務マニュアルについての当社の見解は以上ですが、最後にひとこと。
よく「企画業務だからマニュアルにできない」とか「マニュアルを作ると創意工夫しなくなる」などの否定的な言葉を聞きますが、これは、本来の仕事と手続きとを線引きできていない見方なのではないか、と思っています。
ベースを踏まえて柔軟に活動してほしいのか、手順・基準を守って確実にやってほしいのか、業務のどの部分に焦点をあてるかを明確にすれば、効果的な教材や業務マニュアルを作成できると思います。
author:上村典子