タルヴィングの記憶理論
更新 2007.06.13(作成 2007.06.13)
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|意味記憶 |エピソード記憶 |命題記憶 |手続的記憶 |
- タルヴィングの記憶理論
- さまざまな性質をもつ「記憶」を体系立てて理解するために、現在、多くの研究者によって記憶の分類が試みられている。この中でもカナダの心理学者タルヴィングが提唱した記憶理論は、20世紀の記憶研究に大きな影響を与えた。彼は、記憶がどのように獲得され、どのような内容を持ち、どのように再現されるかという、記憶内容の側面から分析を行っている。
タルヴィングは、まず記憶を「命題記憶」と「手続的記憶」の2つに分け、さらに「命題記憶」を「意味記憶」と「エピソード記憶」の2つに分ける。
命題記憶と手続的記憶には、それぞれ以下の特徴がある。
|
命題記憶 |
手続的記憶 |
記憶の獲得方法 |
考えたり感じたりすることで獲得 |
繰り返し実演することで獲得 |
習得にかかる時間 |
1度で記憶することもある |
一定の練習ののち記憶される |
記憶の伝達方法 |
言葉で表す |
実演で示す |
例 |
知識、概念、思い出など |
熟練を必要とする作業、技術、技能など |
手続的記憶は、例えばピアノの弾き方である。言葉による説明だけではピアノは弾けるようにならず、実際の訓練を積む必要がある。一方、命題記憶は、幼少期の体験や学問的な知識だ。「こんなことがあった」「こんなことを知っている」と人に言葉で説明でき、1度きりの体験でも記憶に残ることがある。
命題記憶はさらに、意味記憶とエピソード記憶に分類され、それぞれ以下の特徴がある。
|
意味記憶 |
エピソード記憶 |
記憶の単位 |
事実、概念 |
事象、出来事 |
記憶を誘導する質問 |
「それは何?」「どんな意味?」 |
「いつ?」「どこで?」 |
感情の有無 |
感情はともなわない |
感情もセットで記憶される |
例 |
言葉や概念、客観的事実、数式など |
個人的な思い出 |
意味記憶を思い出すきっかけとなるのは、「〜は何か?」「〜の意味は?」という物事の定義を問う質問であり、エピソード記憶を思い出すきっかけとなるのは、主に「いつ〜を見たか?」「どこで〜を体験したか?」という経験の時点を問う質問である。例えば「みかん」という言葉をもとに定義を問えば「みかんとは何か?ーー柑橘類である」という意味記憶が想起され、経験した時と場所を問えば「みかんはいつどこで食べたか?ーー小さい頃のおばあちゃんの家」といったエピソード記憶が想起されることになる。
ただし、両者は相互に記憶の情報を提供するため必ずしも対立する概念ではない。なお、意味記憶も個人的な経験(エピソード)において習得されることから、エピソード記憶が反復されることによって、意味記憶が作られるとする説もある。
こうした記憶の分類を利用することで、例えば、適切な学習方法を選択できる。作業(手続的記憶)を習得するには、言葉による説明だけでは不十分で、実際に体を動かすことが大切だ。一方、理論や話の流れ(命題記憶)を理解するには、頭で考え心で感じることが重要だといえる。また、単語や年号などの概念的なもの(意味記憶)を覚えるときには、イメージや感情(エピソード記憶)を組み合わせることで、効果的に記憶を強化できると考えられる。
キーワード
☆→意味記憶、
エピソード記憶、
命題記憶、
手続的記憶
このほかに、記憶の持続時間の側面から分類を試みた記憶の体系もある。
参考
☆→感覚記憶、短期記憶、長期記憶
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