業務マニュアルの主要なパートは、業務フロー図と手順解説からなります。そこで今回は、業務フロー図(フローチャート)のかき方について解説したいと思います。
1.業務フロー図の目的
最初に業務フロー図をかく目的について確認しておこうと思いますが、ここでは、新人などの未経験者に対する教育・OJTで活用する業務マニュアルの作成を目的としています。これから解説するのは、そこに掲載するための業務フロー図です。システム開発や業務改善や内部統制監査などを目的とするものではありません。
目的によってフロー図が全く別物になるというわけでもありませんが、目的を明確にしておかないと、フロー図を作るという手段が目的化されてしまうことが多々あるので、あえて断りを入れておきます。
2.業務フロー図は2度作る
業務マニュアルに掲載する業務フロー図は、2段階で作ることをお勧めします。
最初は「作成者にとっての情報整理用」として作成し、最終的に「ユーザーへの情報提供用」に加工するという意味です。
情報整理用のフロー図とは、作成担当者あるいはプロジェクトメンバーが業務を現状分析し、理解し、共有するためのものです。これはinputのためのフロー図ともいえます。
情報提供用のフロー図とは、業務マニュアルのユーザーに提示して理解を促すためのものです。こちらはoutputのためのフロー図とも言えます。
システム開発や内部統制監査で使用するようなフローチャートを、業務マニュアルに掲載しているケースをよく見かけますが、普段なじみのないユーザーにとっては抵抗があるものです。そこで最終的には、初めて業務フロー図を見たという人でも直感的にわかるよう、表現を工夫をする必要があると思っています(→次回のTipsで扱います)。
3.情報整理のための業務フロー図
情報整理の段階では、ヒアリングで得た情報を元にフロー図を起こします。Tips47でご紹介した「業務分析フォーマット」を用いてヒアリングし、そこから業務フロー図を起こすとよいでしょう。この作業は分析と並行して進めることもあります。 情報整理用に業務フロー図を作成するのは、以下の目的があります。
1)業務のアウトラインの把握
まず、業務のプロセスを視覚化することで、工程全体のアウトラインを把握しやすくするためです。また図にすることで、文章だけでは気づかなかった矛盾点もあぶりだされることがあります。
2)プロジェクト内の情報共有
プロジェクト内で業務フロー図のかき方を統一して分担することで、互いの理解も深まり、情報共有もしやすくなります。仮に1人で作業をする場合であっても、フロー図を作っておけば時間経過とともに薄れる記憶を補完することができるでしょう。また、現場の人と確認作業をする際にも役立つはずです。
3)業務の単位(括り方)の検討
現実の業務は、切れ目なく流れていますが、業務マニュアルとして作成するには、見る人が理解しやすいように、適当な単位で業務を括らなくてはなりません。業務フロー図を起こすことで、どういう単位で業務を括って見せるのが適切か、検討を行うことができます。
4.業務フロー図のかき方
業務フロー図のかき方は、上記の目的を果たせるのならどのような表記法でもかまわないと思います。ただしできるだけシンプルであること。フロー図のかき方そのものの習得に時間がかかるものは避けましょう。参考までに、表記法には以下のようなものがあります。
1)表記法のいろいろ
日本工業規格(JIS)のフローチャート
情報処理を表わす流れ図で、JIS(X 0121)で定められたものがあります。業務フロー図として代用する場合、処理、判断(分岐)、定義済み処理の記号が役立つでしょう。ただ、もともと業務の流れではなく情報の流れを追うチャートですから限界はあります。
JISC 日本工業標準調査会のページ
C言語:3つの基本構造(フローチャート図)
UMLのアクティビティ図
業務システムの分析などで使用されます。アクティビティ図は処理の流れを表わし、また並行処理も表現できるので、業務フロー図として応用することもできるでしょう。ただ一般の人にはなじみが薄い表記法かもしれません。
IT専科のページ
事務工程分析図表
作業工程分析・工程改善などを目的に使用されるもので、日本能率協会式、産能大式があります。詳細な作業・動作レベルまでカバーしますが、記号を覚えて使えるようになるまでは時間がかかるでしょう。
内部統制入門Navi(NOMA方式)
内部統制入門Navi(産能大方式)
弊社の場合は、情報整理段階として業務フロー図をかく際は、主には以下の5つの要素を使用します。
- 処理:基本的な処理。「起票(する)」「入力(する)」「保管(する)」など。
- 判断:場合分け、例外処理が発生する場合に使用。
- 作業対象となる媒体(帳票、システム/画面名、物)
- 情報の伝達手段(電話、メール、送付、手渡し等)
- 定義された処理:当該の業務フロー図の中では展開せず、別途定義する一連の処理。
業務フローをどの程度の深さで表わすかにもよりますが、概ねこの5つの要素があれば、事足りると思いますし、フロー図をかくのも難しくありません。また要素が少ないので、現場の人とのすり合わせもしやすいかと思います。
要は、社内プロジェクト内で無理なくルールが共有でき現場の人にも伝わるかき方であれば、それでいいと思うのです。
2)業務のレベルを確認する
業務フロー図を作成するための大前提は、Tips43でも紹介したように、どの範囲を対象とするか、立ち位置を明確にしておくことです。業務は分解していくと切りがありません。すべてを一度に表現しようとせず、まず大枠から整理し、その後部分についてフロー図を作るようにします。
3)スイムレーンを設定する
いずれの方式で業務フロー図をかくとしても、必要になるのはスイムレーンです。
スイムレーンとは、その業務で登場する担当部署(あるいは役割、ロール)を並べてしきり線で区切ったものです。
スイムレーンを縦方向にするか横方向にするかは、マニュアルの媒体や使い勝手によって決めてよいと思いますが、ここでは縦方向のスイムレーンを紹介します。(最終的にA4縦にプリントしたい場合などは、縦方向のほうが向いているでしょう)
縦方向の場合は原則として、時間の経過は上から下へ流れ、工程は左から右へと流れるようにします。例えば販売管理業務のマニュアルなどでは、一番左から「顧客」→「営業部」→「業務部」などとします。システムフロー図では一番右に「システム」を置きますが、ここではプログラム開発が目的ではないので、なくても構いません。情報の流れを追うのではなく、人が行う処理を追うフローですから、それぞれの担当レーンの中でシステム名や画面名を記載するほうがわかりやすいかと思います。
4)処理と分岐を配置する
スイムレーン上の該当する担当欄に「処理」を記入します。これで誰が何をするかがわかります。
例外処理や場合分けの処理が発生する場合は分岐させます。
下図は、JISのフローチャートの最小限の記号を使って、大まかな業務の流れをかいた例です(実際にはもう少し細かい情報も必要になるとは思います)。
もしTips47でご紹介した「業務分析フォーマット」にもとづいてかくなら、フロー図に表わすのは担当・処理・情報媒体で、処理の詳細な内容や補足事項はフロー図には入れません。 業務の階層が深くなってしまう(処理が細かくなる)場合は、「定義された処理」として扱い、別途整理するようにします。
5.注意事項
業務フロー図があまり複雑にならないように、フロー図中に情報を盛り込みすぎないように注意してください。以下のことに留意します。
*以下については、以下も参照してください。
Tips46も参照してください。
1)処理の解説は手順書に書く
業務マニュアルでは、業務フロー図と手順書をセットで作成するようにします。フロー図中の文章はキーワード程度にとどめ、詳細な情報は手順書でカバーします。
例えばある工程で何種類もの帳票を起票する必要がある場合、フロー図中の処理に は「起票(する)」、帳票アイコンには「○○票ほか」「○○書類」などと記載し、具体的な帳票の種類・名称は手順に書きます。
また定型的な一連の単位作業やシステム操作などは、別途作業マニュアルとしてまとめて参照させます。業務フロー図には盛り込みません。
2)分岐処理は別途にまとめる
業務フロー図では、原則として基本となるフローのみ記載します。何を基本とし何を例外とするか判断が難しい場合は、処理手順の工程が長いほうを基本と考えてください。分岐後の工程が複雑になる例外処理は、同じフロー図内で展開せずに別途に定義しましょう。
ただし、工程の一部が異なる程度の分岐なら、同じフロー図内に並記したほうが業務の理解を促す場合もあります。その場合、フローが煩雑にならなければ載せても構いません。
3)関係図とフロー図を分ける
関係者の位置関係、業務構造などといった関係図と、時系列で流れる工程を同じ図で表わそうとしないこと。手順を追うのが難しくなってしまいます。
関係・構造を解説する必要がある場合は、原則として業務フロー図とは別に作成します。
ただし、これも程度問題で、弊社では、フロー図中で工程相互の関係がわかるように表現する場合も多々ありますが、慣れない内は切り分けたほうが無難だと思います。
以上、情報整理段階での業務フロー図についてご紹介しました。 次回は、最終的に業務マニュアルに掲載する、情報提供用としての業務フロー図について解説したいと思います。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子