業務の体系について目処がついたら、業務マニュアルの設計に取りかかります。
冊子の場合は分冊構成や章構成、Webマニュアルの場合はメニュー構成を考えるわけですが、合理的な構成を考えるためには、業務マニュアルに盛り込みたい情報の性質を分類してみるとよいと思います。
業務マニュアルの情報を切り分ける
「初心者が業務を担当できるようになること」を目的とした業務マニュアルを設計する場合、弊社では、概ね以下のように情報の性質を切り分けています。
*以下は主にWebマニュアルを作成する場合を想定していますが、冊子版を作る場合でも、考え方は参考にしていただけるかと思います。
基本概念
業務フロー
例外ケース
判断基準
作業標準(作業マニュアル)
基本概念
これは、業務を行う上で知っておくべき概念や知識です。
例えば、事業活動の概要、取り扱う商品、対象となるお客さま、自部門の役割、業務の全体像、業務を行う体制、業務の関係者、守るべきルール(コンプライアンスと関連諸規程、法令等)、関連システムとその構造......などがあげられます。
いわゆる"そもそも"の部分で、新人や異動者が部門に配属になったとき、初期段階で指導すべきことです。この部分がわかりやすく図解で整理されていると、個々の業務フローへの理解も促進されるはずです。
また、基本概念をひとまとまりにしておくことで、業務フローの解説をできるだけシンプルにする、というねらいもあります。
*なお、弊社で業務マニュアルを受託する場合は、基本概念を一から書き起こします。
業務フロー/手順解説
個々の業務についてのフロー図と手順解説です。
業務マニュアルの中でも中核をなすコンテンツといってよいでしょう。 業務フロー図は、初心者が業務の流れを視覚的に把握できることを第一の目的とします。そのため、詳細な情報はフロー図に盛り込まず、手順解説で補うようにします。
業務フロー図そのものに情報を盛り込みすぎると、フローが長く複雑になってしまい、図にするメリットが失われてしまいます。
そこで、業務フロー図では基本的な処理を中心に記載し、複雑な例外ケースについては別立てにすることがポイントとなります。
例外ケース(Q&A)
例外的な分岐処理の手順です。
ある程度基本をマスターした人にとっては、最も使用頻度の高いコンテンツとなることでしょう。基本概念や業務フローは、初期段階(例えばOJT期間中)の学習ツールとしての役割が大きいのですが、例外ケースは、ベテランの人も辞書的に参照したくなるだろうからです。
ついでながら、業務に詳しい人が業務マニュアルを作る場合、基本処理のフローを省略して、例外ケースを中心に解説したがる傾向があるようです。日常的にトラブルも多く気を使う部分だからでしょう。しかし、これが業務マニュアルをわかりにくくする一因にもなっています。初心者に対しては、まず基本をおさえた上で例外を説明してやる必要があります。
判断基準
業務を行う上での判断基準となるものです。
例えば、商品別の価格一覧表、ロット別仕入れ先一覧、賞味期限管理表などなど、早見表が適している情報です。このような情報は、例外ケースよりもさらに分岐が細かく、また一般に改定の頻度が高いため、解説手順の中には入れずに別途整理し、必要に応じて参照できるようにしておくとよいでしょう。
作業標準(作業マニュアル)
定型的な一連の単位作業に関する手順解説です。
例えばシステムの基本操作、梱包の仕方、品出し処理、棚入れ、清掃、フォークリフトの運転操作など、予め手順の決まっている要素作業については、業務マニュアルとは別に、作業標準または作業マニュアルとして、主要な作業別にまとめておくことをお勧めします。
弊社では、業務マニュアルと作業標準(作業マニュアル)の概念を区別してとらえています。そうしないと、業務マニュアルの解説に切りがなくなってしまうからです。ただし、作業上の重要な情報については、業務マニュアルにも重複して記載してもよいと考えます。
*業務マニュアルと作業標準書の違いについては、Tips38を参照。
実際に、企業内で作成されている業務マニュアルを見ると、業務手順の中に"そもそも"の解説が入っているために解説が冗長になっていたり、業務フロー図にあらゆる例外ケースを加えているために見づらくなっていたり、といった問題が多いように感じます。
また、業務マニュアルを作り始めてみると、情報の粒度をどの程度に揃えるかについて、多くの人が迷うのではないでしょうか。
以上のように情報を予め性質別に分類しておくことで、業務マニュアルの制作者にとっても作りやすくなると思いますし、利用者にとってもよりわかりやすくなると思います。
さらに、このように情報を分類しておくことで、利用者の習熟度に応じた使い勝手を工夫することも可能になるはずです。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子