前回は「技能系」の作業を取上げました。今回は「事務系」の作業について、マニュアルを作る場合のポイントを考えたいと思います。
既述しましたが、事務系の作業は技能系の作業と違い、手順通りに行うことで誰でもが一定レベルの品質を実現できる性質を持っています。
これはつまり、マニュアル化することで効果が得られやすいということです。
事務系の作業の特徴
ここで言う事務系の作業とは、 人やモノを相手にした仕事ではなく、数字や文書の情報を扱う仕事を指します。営業部門であれば顧客との対応の仕事ではなく、顧客と接した結果発生する事務で、営業の事務や営業からの情報にもとづいて行う仕事を想定しています。(顧客対応については稿を改めます)。
作業の特徴としては以下のようなことが挙げられます。
- 具体的なモノを扱うのではなく、目に見えない情報を扱う。
- システム操作とセットになっている。
- 複数部門に関係する情報をコントロールする。
事務系の仕事は、作業自体のプロセスにカン・コツが存在するわけではありません。もちろん作業スピードや手際には個人差がありますが、行った結果において個人差が出るわけではありません。
一定の知識と作業手順を習得すれば基本的な事務はこなせるようになるので、指導の工数が計りやすい分野でもあります。
ただし、それだけにマニュアルの作り方によって成果に大きな差が出ます。事務系のマニュアルを作る場合は、予め以下の要素について整理するとよいでしょう。
基礎情報の整理
情報を動かすためのしくみを整理
事務は情報を取扱う仕事ですから、その土台となるものを整理します。
- 情報システムのしくみ。(基幹業務系、顧客情報系、会計系、管理系など)
- 情報が記載されるものに何があるか。(例:帳票類、登録画面、出力紙など)
- 情報の受け渡しの方法に何があるか。(例:郵送・社内便・メール・FAX・ワークフローなど)
用語・基本概念を整理
- 名称の整理(例:作業名、システム名、機能名、略称など)
- 事務を行う上での基本概念の整理(例:時間の概念、取引形態、関係者など)
*事務系のマニュアルには必ず用語集をセットするようにします。
情報の発生とモノ・人の関係を整理
- モノやサービスの動きと連動してどのような情報が発生するのか。(受注時、発注時、納品時など)
- 担当者は、どのようなタイミングで何を行うのか。(登録・出力・回付など)
- システムは、どのようなタイミングでどのように作動するか。(データ確定・送受信・更新・削除など)
*モノが動くこと、人が行うこと、システムが作動することについて、タイミングや処理を混乱しないように整理しておくこと。
作業等の洗い出し
手順と結果を洗い出す
担当者が具体的に行うべき処理の手順、または行われた結果の状態(記入例など)を整理します。事務系では、主に以下のような作業が発生すると思われます。
- 帳票を起票する作業(記入例を提示)
- 登録する作業(画面展開、データ登録の手順・ポイントを提示)
- 確認・提出・承認する作業(誰が行うかを明記)
- 送付・回付(原紙か控えか、 受渡し先・手段を提示)
- 書類の保管・保存(原紙か控えか、方法・場所を提示)
作業を行うための判断基準を洗い出す
- 事務処理としては同じ処理でも、取扱う商品やサービスによって登録する内容が異なるような場合、その判断基準やルール、リストを整備します。
(例:商品リスト、原価計算表、問合せ先一覧表など)
イレギュラー処理を洗い出す
- 基本的な手順について整理した後で、例外処理としてどのようなものがあるかを洗い出します。
表現上の留意点
事務系の業務は目に見えない情報や概念を扱うので、誤解を招かないよう表記に気を配る必要があります。
- フロー図や図解の描き方を統一する。(→Tips19参照)
- 用語の使い方・記載方法を統一する。
- 表記のルールを統一する。(例えば以下のように)
*略語を使う場合は最初に「正式名称(略語)」と記載するなど。
- システム名、操作画面名は→ 【 】
- 登録項目、記入欄は→ [ ]
- 入力データは→ 《 》
- 出力紙、帳票類は→ 『 』
さて、事務系の仕事はマニュアル通りに行うことで一定品質が実現できると言いました。とはいえ仕事は変化するのが常です。取扱い商品が変わったり、取引形態が変わったり、システムが変わったり、法令が変わったり......。都度マニュアルを改定できたらいいのでしょうけれど、現実にはそうはいかない。そうした中でミスなく正確に、しかも速やかに処理を行わなくてはなりません。もしもマニュアルの手順を追うことしかできないでいると、イレギュラーが発生するたびに事務がストップしてしまうことになってしまいます。
そこで事務系のマニュアルを作る場合の到達目標としては、「その手順に従って作業すれば処理が行える」レベルではなく、「エラーやトラブルがあった場合でも適切に判断したり、追跡調査ができるようになる」レベルまでを目指すべきでしょう。それには、事務を行う意味やしくみをしっかりと理解させることが何より大事だと考えます。
手順を明らかにすることはもちろん大事なのですが、その部分は変化する可能性が高いという前提で作り方を工夫しておくとよいでしょう。
author:上村典子