更新 2006.08.29(作成 2005.02.21)
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■この作品について
ナビゲート 伊藤弘二朗
物語は、昭和50年代後半から始まります。
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という書籍が発刊されたのが1979年(昭和54年)ですので、日本の企業が最も勢いがあり、称賛された時代かもしれません。その後、1985年のプラザ合意によって日本は円高不況を経験し、その後バブル経済へと進んでいきます。いつの間にか日本は、世界で最も賃金の高い国になっていました。
ところがバブル経済が崩壊すると、その賃金の高さが問題視されるようになります。ホワイトカラーの生産性の低さが攻撃の対象となり、多くの企業がリストラに踏み切りました。「管理職、出社に及ばず」という言葉が有名になったのもそのころです。
そして、リストラに踏み切らなかった企業でも、成果主義の名のもとに競うように人事改革に取り組んでいきます。
この物語は、そういう変化していく時代を背景にしながら描かれていきます。
物語の舞台として設定されているのは、地方都市に本社を置き地域で活動する食品会社です。輸出型の産業ではないので、国際経済やマクロ経済の影響を直接受ける企業ではありませんが、それでも世の中の気分や流行と無縁ではいられません。
人事制度を再構築するときには、必ず現状分析を行い、「現状の問題点」が洗い出されます。しかし、時代はどんどん変化しますし、組織も変化していきます。また、組織の中で働く人たちも年齢を重ね、世代が移っていきます。そのため、人事の問題点を分析しようとするなら時間軸の概念が不可欠で、ある一時期の組織の断面を切り取るだけでは適切な施策が打てるとは限りません。
この物語は、現在の人事を考えるにはちょっと古すぎると思われる時代からスタートしていますが、そのころからの時代の流れを振り返っていくことで、人事を考える上での何らかの示唆をきっと与えてくれるはずです。
90年代以降の日本の人事は、コストの側面ばかりに着目してきたように感じます。もちろん、人事制度の中でコストは非常に重要な要素であることは言うまでもありません。また、人件費が付加価値とのバランスを欠いて増大しがちだったそれ以前の制度を是正していくためには、コストの側面を強調せざるを得なかったと思います。
しかし、実際の組織の中には、数字だけでは語れない生き生きとした人間の営みがあるはずです。その営みにもっと目を向けていかないと、本当の人事の問題は見えてこないのではないかと感じます。
その点でも、この物語が1つの視点を提供できればと考えています。
さて、この作品の中では、平田という主人公が登場し、いろいろな問題に遭遇しながら物語が進んでいきます。そしてその過程で人事とは何かを考える視点が提供されていきます。同時に、物語の節目節目で作者の人事に対する見解や解説が挿入されていく、という構成をとっています。物語が所々で途切れるという欠点もありますが、少しでも人事について考察を深めることができればという意図を持っています。
もし作者の解説が煩わしいと感じるられるなら、作者の解説部分は段落を落として文字色も変えていますので、読み飛ばして物語だけを楽しんでいただければと思います。
また物語の部分では、「受付嬢」「営業マン」など、今日の人事担当者なら使用を避ける表現を用いています。均等法との兼ね合いはもちろん承知していますが、その時代の気分や雰囲気を伝えるために、物語の部分に限ってあえてこういった表現を残しました。違和感を感じる方もいるかと思いますが、ご理解をいただければと思います。
長い解説文になりましたが、この作品を1人でも多くの方に読んでいただいて、何かの参考にしていただければ幸いです。
また、作品を読んで、ご意見などをいただけましたらうれしく思います。