更新 2015.01.15(作成 2015.01.15)
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第7章 新生 48.正味の退職金
1998年6月、退職金・年金制度の全容がほぼ出来上がった。
その背景には藤井の献身的協力があった。退職金とは、整理すべき課題、問題点、目指すべき方向、それらをわかりやすく交通整理してくれたおかげで論点がぶれずに効率よく作業が進んだ。予定より4、5か月早くなった。
中身も随分思い切って踏み込むことが出来た。
平田は新田が小心者の保身家でなくて良かったとつくづく思った。それに新田が椿を間に挟まずに直接関わってくれたことも制度の完成を早めた大きな要因だ。もし、どちらかででもあったならば制度は小規模で歪んだものになっただろう。
恐らく今回の制度の本当のすごさを知っているのは新田と自分だけだろう。
そのあらましはこうだ。
[本体部分]
1.年齢と資格によるポイント制退職金とする。
2.適格年金を廃止し、退職年金基金に統合する。
3.基金の加算年金給付を17年保障の50%終身とする。
4.掛け金算定の予定利率、及び年金給付の据え置き乗率を4.5%にする。
[付帯制度]
1.セカンドライフ支援制度を拡充する。
[新制度の狙い]
1.基本給とのリンクを切り離し、個々の制度の政策が取りやすいようにする。
2.勤続年数比例を改め、貢献度(資格ポイント)を反映する。
3.ポイントの組み方で自由に設計できるようにする。
4.57才から60才で急激に積み上がる仕組みを前倒しし、50才前後で積み上がってしまう仕組みにすることで人生の選択機会を早める。
5.加えて、セカンドライフ支援制度を大きく加増し、人的ローテーションを加速する。但し、単年度限りとし、次年度以降は別途考える。
6.勤続年数比例の現行制度は、中途入社や高学歴者にとって勤続年数差が最後の数年間に圧倒的な不利となるため、これを年齢と資格に改めることで、ヘッドハンティングや中途入社の人にも不利にならないようにする。
7.適正なポイント設計で定年時の退職金水準を世間並みにする。
標準的部長クラスは3000ポイント、課長クラスで2700ポイント、係長クラスで2400ポイントとなるように設計する。
[マイナス要素]
1.予定利率を5.5%→4.5%に変更することで当面掛け金がUPする。
しかし、5.5%など非現実的な予定利率はどのみちごく近い将来、不足金として積み立てなければならないものである。
略図(純粋に新制度だけの正味のスタイル)
これに旧制度を重ねてみよう。
この図ではセカンドライフは左程高く見えないが、実際は3000万円なのでほぼ退職金と同等の高さがある。
旧制度が57才から、2割加給、5.5%の据え置き乗率と急激に積み上がるのに比して、新制度は50才前後で積み上がってしまい後は横ばいだ。セカンドライフは60才に向けて漸減する。制度の趣はこれほど違う。
平田の工夫はここからが真骨頂である。
まず、新制度への移行の仕方である。
45〜56才くらいまでの社員にしてみれば、定年まで勤めていればそれまで低く押さえられていても、57才になれば急激に加算されていくと信じて頑張ってきたのに、いきなりさあ、早いこと自立しましょう。退職金もこれからはそれほど上がりませんよと言われても納得のしようがないではないか。
そこで平田が採った処置は、移行措置として新制度の標準モデル退職金と旧制度の標準モデル退職金の差額をポイント化し、移行措置として全員にプラスすることだった(下図、斜線白地部分)。これは学歴ごとだ。モデル同士の差額であるから個々人の過去勤務の評価による標準モデルとの乖離はそのまま生かされる。移行ポイントをもらった後の積み上げは新制度の運用による。
しかし、それだけでは57才が目前に迫っている50代の社員は、もう退職金はこれ以上積み上げようがないではないかということになる。
そこで、50〜57才までの者に対し、特別移行措置として2割加給に相当する金額をモデルで算出し、それを特別移行措置としてポイント加算している。ただ、50才に近づくほど年数比例で減額している。
更に、57才以上ですでに退職金が確定している人はそのまま据え置き乗率を4.5%にして運営されるのだが、57才以下の特別移行措置をもらう人より低くなる部分がある。そこで今退職した場合その差額分を一時金として加算することにした。1年経過して退職する場合は1/3ずつ減額する。
年金は、適格年金を厚生年金基金に取り込み、15年保障を17年保障とし、終身を7割から5割とした。
新田は、この案を概ね了承したが、要求はそれだけに終わらなかった。