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コースの設定

更新 2016.06.08(作成 20120.12.25)

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第6章 正気堂々 67.コースの設定

それでも女性の総合職にはまだ拘りがあった。そもそも彼女たちは総合職として採用していない。ペーパーテストにしても適性も就業条件も女性としてしか審査されておらず、彼女たちは総合職の採用のハードルをクリアしていない。それでもいきなり総合職として格付けするのか。力も意欲もないのに全員を総合職に編入し、コストばかりがかさむのは適わない。総合職として格付けするのなら最初からそのようにハードルを上げて採用したいではないか。そんな能力の持ち主なら人員配置も根本から見直していかなければならない。事務補助的活用の仕方ではもったいない。
だがそのとき、平田の意識の中には
『いざとなれば総合職への転換を希望する者には転換試験を設ければいい』との対応を考えていた。具体的にはペーパーテストによる学力と職務適性検査だ。そこまでのイメージが浮んでいた。

藤井との打ち合わせでもコースの設定についてはシビアな議論になる。その中で藤井は面白いことを言った。
「従来だって実質的にはコース別みたいなものですよ。例えば男女別(総合職、一般職)、営業職、製造職のようにね」
なるほどそうか。そう考えると今回の見直しは基準を新たにするだけのことかもしれない。平田は随分と気が楽になった。
藤井はさらに、
「コース別人事制度の必要性はすでに整理されております。社員のワークスタイルや価値感の多様化などです。後はどう整理するかでしょう」
と整理の仕方を丁寧にレクチャーした。
まず、
1.当社においてコース別に分けることが可能か
2.押えるべき基本ポリシー
 ・コース間に上下はあるかないか
 ・処遇についての“方針”の違いを設けるか
3.コースの基準は?
 ・勤務地   ――    地域、事業所、どこでも可
 ・広い意味での仕事 ―― 製造、営業、事務、なんでも可
4.人事制度の理念との関係
イメージ図1
 ・コース別が自立した人材を生むか
 ・選択と決断の機会があるか
 ・多様化の許容になっているか
 ・特異者の閉じ込めになっていないか
5.デメリットへのケア
 ・コース間に上下の身分意識が発生しやすい
 ・限定職は、自分の地位の保証と受け止められる可能性がある
 ・コース制は、1業に特化しているだけではそれほど意味がない
6.関連する政策
 ・個別キャリア開発
 ・権限委譲
 ・新卒中心主義との決別(中途採用)
 ・転勤促進策(昇格要件)

連日議論を積み重ね、こうした課題を平田らは必死にクリアした。
詰めが甘かったり決め打ち的結論には、藤井は容赦なく議論の甘さを追求してきた。
コース制全体の考え方がまとまっていくにつれ、それに連動して資格フレームや処遇のイメージも固まっていった。更には、役職制度の考え方もまとまっていった。これまでの地道な議論が肥やしとなり新人事制度の骨格は一気に固まった。
平田らがまとめたコースの設定はこうだ。

イメージ図2

資格の名称は、E1級、E2級などとそのまま使うことにした。
係長・主任制度の見直しのとき、役職制度を見直しますと宣言している。コース別社員制度は社員をどのように区分けし処遇していくかの問題である。役職制度の整備はその本丸だ。避けて通れない。
役職制度は組織運営の観点からも社員の動機付けの観点からも重要な制度で、人事制度改革の集約点だ。平田は万人が認める真の力のある人が役職に就くべきでポストが無節操に乱発されることを嫌った。価値のないポストはかえって社員の反感を買う。
役職制度が適正に運営されないと他の制度をいかに巧妙に作ったとしても社員に通じないと思っている。
平田はポストインフレと年功処遇を阻止することを自分の信念において役職制度を整理した。Tコースはそのために用意したものだ。これまでなら無理やり役職ポストをこさえて複雑な職位体系で処遇されていた名プレーヤーを、テクニカルエキスパート職として処遇するためだ。彼らはマネージャーではない。

平田らが整理した役職制度の概略を紹介しよう。
1)役職の設置
 役職者は、部下を持って組織を運営する「管理職」と経営から認定されたテーマを管理運営する「担当職」の管理職群と、税務や法務、技術的研究職などの「高度専門職」の専門職群の2体系とする。
役職者は原則としてEコース、Sコースより任用するものとし、それぞれの職責に対して職責手当を支給する。
2)担当職
 担当職は、経営上必用な機能、テーマに応じて設置し、テーマに最適の人材を任用する(テーマありき)
 担当職が名詞などで用いる呼称は、〜担当課長、〜担当次長、〜担当部長とする。
3)職位体系の整理
 従来の職位体系は、処遇目的で活用されることがあったために必ずしも組織にとって最適化されているとは言い切れない面があった。
 そのため(副〜)(〜代理)職、並びに専門役、調査役を廃止し担当職としてテーマを設定する。
 営業所のみ組織統治上副所長職を残す。
4)職責手当
 今後、経営の必要性により大規模な機構改革や組織変更もありうることを前提に、日常的に役割変更(部署や職位の変更)が発生しても対応できる処遇制度を模索する必要がある。
 そこで、賃金の安定性は資格給の範囲で保障し、職責手当はその時の(職責)に対する金銭的報酬としていく。従来の役職手当は廃止する。
 また、住宅手当や出張規定の職位連動部分は役割から分離し、資格に連動して決定されるものとする。
5)その他関連する以下の制度を検討する
 管理職ポストローテーション
 CDP(計画的選抜育成)の検討
 セカンドキャリア支援制度
 退職金制度の見直し

その他の関連制度は、人事制度全体の検討事項であるが役職制度の考え方の中にもあえて謳うことでより制度の運営をイメージしやすくした。
役職制度を整理すると資格と職位の対応もはっきりしてくる。資格の等級もスッキリした。

イメージ図3

ポイントは、「副」だの「代理」だの曖昧な職位を整理し、シンプルにしたことであろう。
部・室長、工場長、次長、課長・営業所長、副所長、これで組織は運営できるはずである。処遇目的で任用されていた副部長や代理職は廃止し、担当職としてあくまでもテーマありきを貫いた。人に付いていた肩書きを仕事(役割)にシフトした。
担当職は、経営の要請で一組織が扱うテーマとしては大きすぎたり、期間が長すぎたりする重要な経営課題を特任して担当する役職のことである。インフレを防ぐためには、まずテーマありきを明確に打ち出した。
平田は自分の「専門役」という処遇を強く意識した。
「人事制度担当」というのがあるが「専門役」という処遇ありきが優先している。
他に「調査役」という同じような位置付けの役職者もいる。
「専門役」「調査役」という大そうな名称を被せられると、処遇ありきが前面に出てどうも会社のおためごかしに聞こえてしょうがない。役割ありきを貫くのであれば、「〜担当課長」「〜担当部長」でいいではないか。
管理職(Eコース)はマネージャーであり、組織か仕事をマネジメントする者である。往々にして無理やり管理職に処遇されていた高業績達成者を、テクニカルエキスパート職として管理職と明確に分離し、賞与の成果反映部分の割合を大きくしてより刺激的処遇にした。
これも「高業績者には金銭で、徳のある人にはポストで」という信条を実践したものである。
そんな思いを形にしたのが上記図である。箱の位置は処遇の高さをイメージしている。担当職は部下がいない分マネジメント料としての職責手当の単価を若干低く設定することにした。
資格との対応は厳密1階級の差しかありえない。ただし、管理職と一般職の区分は明確に分離した。P資格の管理職、E資格の一般職は原則ありえない。役職群に任用されるときは資格も同時に昇格する旨を運用基準に明記した。

賃金の見直しは、家族手当や住宅手当など生活補完手当は据え置くとして、職務に直結しているものだけを見直した。
基本給は、年令給、資格給、期待給で構成し、職位に対しては職責手当を支給することにした。
そのイメージ図である。

イメージ図4

特筆すべきは「期待給」であろうか。一般職は自分が位置する資格給の範囲で毎年の評価で積み上げ方式だが、役職者(E、S)は資格給間のゾーンの中で毎年の評価で上下するキャンセル方式にしたことである。
キャンセル方式の欠点は賃金連動の退職金の算定が出来ないことだ。賃金が下がれば退職金も下がるような無茶はできない。一旦到達したレベルは保障するという手もあるが、なんだかスッキリしない。
そこで、いずれ退職金を賃金と切り離したポイント化することにし、それまでの間退職金算定のためだけに暫定的に旧賃金をシャドーで運用することとし、賃金の上下動を吸収することにした。
退職金がポイント化されるまで新人事制度は完結しない。そう長い猶予はない。

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