今回は、フローチャートや業務フロー図を作成する目的について整理します。
その目的に照らして、最適な手段を検討するためのヒントにしていただければ幸いです。
フローチャートを作る目的
社内でフローチャートを作る目的にどのようなものがあるかについて、見ていきましょう。
なお「フローチャート」「業務フローチャート」「業務フロー図」は、それぞれ意味が異なりますが、それについては後ほど解説します。まずは「フローチャート」と呼ばれるものについて、主な目的を整理します。
フローチャートを作成する目的には、大前提として「情報の共有」があります。どんなフローチャートであれ、それを作るのは「誰かと情報を共有する必要があるから」といえるでしょう。その前提に立って、主な目的(あるいは用途)を5つ紹介します。
1つはプログラミングの前準備のためです。システムを構築する際、コンピューターが行う情報処理の手順を設計(プログラミング)するために、フローチャートが作られることがあります。
2つめは、業務担当者の教育のためです。業務の流れを理解するためにフローチャートが作られることがあります。用途としては、担当者本人が業務を学ぶときと、誰かに業務を教えるときの2つがあります。
3つめは、監査のためです。第三者が、業務担当者の仕事の手順やリスクをチェックするために作られることがあります。
4つめは、業務の設計や段取りの組立てです。これから新しい事業やサービスをはじめるときに業務の手順を設計したり、業務の段取りを組み立てる目的で作られることがあります。
5つめは、業務の改善や改革を目的とする場合です。現状の課題を洗い出すために、さまざまな業務フローチャートが作られます。
フローチャート・業務フローチャート・業務フロー図
プログラミングのためのフローチャートは、情報処理の手順についてコンピューターに指示を出すためのものです。システムフローチャートやプログラミングフローチャートが該当します。単に「フローチャート」という場合はこれをさす場合が多いでしょう。
これに対し、教育、監査、業務設計、改善などの目的で作られるフローチャートは、いずれも人間が行う業務の流れを、スイムレーン(担当)と時間軸で表すもので「業務フローチャート」や「業務フロー図」などと呼ばれます。
*なお「業務フロー図」とは、業務の流れを図にしたものという意味で、さまざまな形があります。その中で代表的なものに「業務フローチャート」があるととらえます。
以下ではこの業務フローチャートを含む概念として「業務フロー図」という言葉を使用します。
フローチャートと業務フロー図の大きな違いは、コンピューターが行う手順か人間が行う手順かという点です。
最終的に何を目的とするかによって、フローチャートあるいは業務フロー図の作り方も異なりますが、いずれの場合であってもそれによって情報が共有できないもの、ようは伝わらないものであれば、フローを図にする意味はないといっていいでしょう。
さて、以上の5つの目的の中で、最も対照的なのは1.プログラミングのためのフローチャートと2.教育のためのフローチャートです。この違いについて詳しく比較します。
プログラミングのためのフローチャート
1つめの目的、プログラミングのためのフローチャートは、コンピューターへの指示を正確に記述するための事前準備として、プログラマーが作ります。
最終的に指示を送る相手がコンピューターなので、頻度の低い例外処理も、細かい分岐処理でも、あらゆる分岐を記載しておかないとエラーになりかねません。
AIの進化によってフローチャートを描く人間の負荷は減るのかもしれませんが、基本的にこのようなフローチャートは長くて複雑になり、それを複数の人が分担して連結させる必要があります。
そのため、フローチャートの記号とルールはJISで規格が定められており、これを守ることで、他の人と情報共有したりコードを書いたりすることが可能になるわけです。
教育のための業務フロー図
一方で、教育目的の業務フロー図は、人間が行う業務を人間が理解するためのものです。
多くの人にとっては、業務フローが長いとそれだけわかりにくくなってしまいます。
もれなく正確に描けば、正確に理解できて正確に仕事ができるかというと、そうではないのが人間だからです。
コンピューターと違って、適度に情報を丸めるほうが、むしろイメージをつかむことができます。また、良いか悪いかは別として、フロー図にモレがあっても業務はそれなりに動きます。
なお、人が一度に理解できる情報量には限界があるため、情報は全体から詳細へと段階的に展開する必要があります。
そして業務フロー図では、業務の流れと役割分担、その中での自分の担当を、フロー図を見てイメージがつくようにします。
また、教育目的の業務フロー図は、人間が理解しやすい単位で、必ず手順解説とセットで作成し、業務マニュアルに記載します。
頻度の低い例外処理や細かい分岐、注意事項などといったものは業務フロー図の中には入れずに、手順書で解説することで業務フロー図をシンプルにします。フロー図にすべてを盛り込まない、ということがポイントです。
この教育目的の業務フロー図を、システムフローチャートのように漏らさず描こうとすると、目的にそぐわなくなってしまいます。
*なお、監査を目的とする業務フロー図は、使用するのが第三者のため、手順やリスクを漏らさないようにする必要はあるでしょう。ただしフロー図にするのが最適なのかは判断が必要です。
情報共有のために
さて、大前提の目的として情報の共有があるといいましたが、それには記号や描き方のルールを統一する必要があります。そのため、業務フロー図においてもシステムフローチャートのJIS規格が適用される傾向があるのだと思います。しかし人が理解するための業務フロー図を作るのであれば、最小限の記号、最小限のルールで、現場の人に負担がかからないことが大事だと思います。
もし、記号やルールを覚えなくても、図を描くスキルがなくても、業務フローと手順書を整理できれば、それが最も望ましいでしょう。
宣伝になってしまいますが、以下の講座で紹介する「業務分析フォーマット」を使用すれば、それは可能です。教育だけでなく、4.業務の設計・段取りや5.業務改善・改革などの目的においても有効だと考えます。これについて詳しくは以下のページを参照してください。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子