前回に引き続き帳票の管理についてです。業務マニュアルを作成する場合、帳票の取り扱いは重要かつ厄介なため、注意したいポイントについて解説します。
1.紙とデータがある
前回も解説しましたが、ここでいう帳票とは情報を受け渡すものです。特に事務系の仕事では情報処理がメインになるため、帳票は欠かせないツールだと思います。この帳票が厄介だという理由の1つは、帳票には紙とデータがあるということです。
例えば同じ帳票を紙とデータの両方で受け取るような場合もあります(図の1と2)。また、受取った紙をスキャンしてデータ化する場合もあれば、受取ったデータを紙に出力する場合もあります。そうすると内容が同じで形式が異なるものが多数存在することになります。この図だけでも、同じ内容の4種類の帳票を管理することになり、業務マニュアルを作成する場合はそれぞれの行き先を辿る必要が生じます。またデータの場合はファイル名と帳票タイトルが異なる場合が多いので、その点にも注意が必要です。
2.複製される
さらに、紙であれデータであれ、帳票は必要に応じて複製されます。原本とコピーとが、それぞれにどうなるのかについても追跡する必要があります。仮に上記の4種類がそれぞれ複製されたとしたら、4種類×2の8種類の帳票が存在することになります。
また、データの複製の場合はファイル名がリネームされることが多く、同一の帳票なのに名称が異なるものが複数存在するという問題もあります。
3.異なる帳票なのに名称が同じ
一方で、異なる帳票なのに名称が同じという場合もあります。
前回の例でもあげましたが、顧客へ発行する「請求書」や「見積書」、仕入先から受取る「請求書」や「見積書」など、名称が同じ場合、それが発行するものか受領するものか、わかるように書いておかないと混乱することがあります(例えば「売上請求書」と「仕入請求書」など)。
4.同じ帳票なのに名称が変わる
これもよくあることですが、帳票の名称(呼び名や表記)が変わってしまうことがあります。
同じ帳票なのに、人によって呼び方が違っていたり、あるいは同じ人であっても日によって呼び方が変わることもあります。例えば「経費精算申請書」を「経費精算書」と言ったり、ときに「経費申請書」と言ったり……。このようなヒューマンエラー(あるいは造語)は、マニュアルを作成している最中でも起こり得ます。
本人は同じ帳票を指しているつもりでも、その業務を知らない第三者にとっては、名称が異なる帳票が同一のものかどうか、判断に迷うものです。
その他、帳票を発行するシステムの登録画面名と発行される帳票名とが異なるという場合も多く、これも混乱を招く要因の1つとなっています。
5.文書の中で行方不明になる
マニュアルや手順書の中で、帳票が行方不明になることもあります。例えば「原本をコピーし、原本を上長に提出する」という表記があったとします。原本が上長に渡ったことはわかるのですが、コピーがその後どうなったのかは書かれていない、というものです。 このように、文書の中で帳票が行方不明になったり、逆に唐突に出現するといった現象は、よく見受けられます。
書いた当人は実務をわかっているので、帳票が行方不明になっていることに気づかないのです。
あるいは気づいていても、面倒なのではしょるのです。自分は何も困らないので……。
6.帳票のリストアップを
以上のように、帳票は情報を運ぶ重要なツールですが、マニュアル化においては厄介な面があります。
そこで業務マニュアルを作成する場合は、できるだけ初期の段階で、主な帳票をリストアップしておくことをお勧めします。その場合は「正式名称」と「略称」、「セット名称(必要に応じて)」を一覧に書き出しておくとよいでしょう。主な帳票を予めリストアップし名称を決めておくだけでも、その後の作業効率があがります。
その上で業務の整理を進め、原本から派生する帳票を列挙して、どこで発生(受領・作成など)し、どこで名前が変わり、最終的にどうなるか(保存・破棄・送付など)、それぞれの帳票についてプロセスを検証すると、行方不明事件は防げます。
なお、マニュアル化とあわせてファイル管理のルールも決めておくとよいでしょう。
担当業務がワークフローシステムの中だけで完結する場合は、そんな必要はないかもしれません。
そうでない場合は、参考にしていただければと思います。
author:上村典子