弊社では、「業務」は複数の「作業」と「判断」が組み合わされたものととらえています。(これについては、Tips09を参照)。
さらに、「作業」は大きく技能系と事務系の2種類の性質に分かれると考えます。事務系の作業は、手順通りに行うことで誰もが一定レベルの品質を実現できる性質のものです。それに対して技能系の作業は、手順通りに行ったとしても同じ結果に至るとは限りません。手順だけでは表現しづらい勘所が存在するからです。
今回はそんな「技能系」の作業について、マニュアル類(標準作業書、作業手順書)を作成する場合のポイントを取上げたいと思います。
技能系の作業とは
ここで言う技能系の作業とは、「筋肉の運動を伴う仕事」として括ります。その特徴としては以下のようなことが挙げられます。
- 頭で理解するだけでなく、反復訓練によって習得される。
- 熟練度によって、スピードや結果の状態(できばえ)に差が生じる。
- 言葉では表現しづらい感覚のようなもの(カン・コツ)が存在する。
技能系の作業においては、熟練者の中に存在するノウハウ・暗黙知をいかに引出し、文書化できるかがポイントとなるため、現場での観察やヒアリングが大事です。
まず現場の人の協力を得るように働き掛けること。そして、ビデオや写真、ネットワークカメラなどを活用して作業を記録し、マニュアルのアウトラインを描き、その上でベテランの作業者にヒアリングを行います。
マニュアルのアウトライン
技能系の作業をマニュアルにまとめる場合は、以下を踏まえるようにします。
1.作業名、作業の概要(目的・定義・標準作業時間)を明記します。
2.作業条件、順守事項を明記します。
- 安全・衛生、ミスやトラブル防止などの観点から、その作業単位で必ず守るべきルールを明らかにします。(服装、事前準備、場所、点検事項など)
3.結果とプロセス(出来栄えとやり方)の両面から押さえます。
- 結果:完成品の規格、基準を明確にします。
- プロセス:手順の規格、基準を明確にします。
4.プロセスは、手順と手順以外のものを分けて記述します。
- 手順:対象と動作(行動)を押さえて箇条書きします。
- 手順ごとのポイント:コツ、急所、禁止事項など。
- 異常対応:どんな異常が発生する可能性があり、どう対処・修正するか。
5.ビジュアル(写真・イラスト・動画)を活用します。
技能系の作業は、写真やイラスト、動画などを適切に活用すると効果が期待できます。
- 写真:実物、実際の状態を示したい場合(設備、機材、実施前・実施後の状態など)
- イラスト:部分的に強調・あるいは省略して見せたい場合(写真だと情報量が多すぎて焦点がぼける場合や現実に写真撮影が難しい場合など)
- 動画:動きを伴う作業、精密な連続動作(部品の仕上げ加工、ショベルカーの操作、包丁さばきなど)
*必要以上に画像を多用するとかえってわずらわしくなる場合があるので注意します。また、画像と手順の文章は必ず対応させること。
現場での情報収集のために
さて、現場での情報収集は簡単ではありません。
熟練者にとって身体に染みついている感覚を言葉で伝えることは難しく、そもそも意識にすらのぼらないこともあるからです。漫然とインタビューしても期待するような回答は引き出せないでしょう。
ヒアリングを行うには、事前に作業工程を整理し、全体のアウトラインを描いておくことは不可欠です。さらに技能をとらえるための切り口( 立ち位置、姿勢、視線、手の動き、力を入れる方向、力加減、時間、タイミングなど)を想定しておくようにします。 ヒアリングの際、どうすればうまくいくか、何がコツなのかという直接的な質問には答えられなくても、何を見ているか、どこで動き出すか、どうなったらダメなのかなどという聞き方をすれば答えられることもあります。ヒアリングの切り口も複数の角度から準備しておくとよいでしょう。
そして引き出したカン・コツは具体的・定量的な表現に変換します。数量で示すことが難しいものはできるだけ一般的な例を用いて、感覚を共有できるよう工夫します。
例えば、「生卵の殻を割る程度の力加減で」「角のところで全体重を乗せて......」「刃の腹で弧を描くように引いて......」「両端からの延長線が交わる点を見ながら......」「表面が木綿豆腐程度のざらつきになったら......」のような感じです。
もっとも、人によってやり方や言うことが異なる場合もありますので、できれば複数の作業者にインタビューするとよいでしょう。その上で、安全性や能率の観点からどのやり方を標準とするのかを会社として決めなくてはなりません。
前述したように、技能系作業はマニュアルを作ったからといって必ずしも全員がその通りにできるとは限りません。しかし文書化しておくことで、安全や品質の基準を明らかにし、指導の方向性を示すことができます。さらに訓練を重ねて一定品質を実現していくために、マニュアルとあわせて指導要項を整備しておくとよいでしょう。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子