前回のTips21に引き続き、"あいまいに使われがちな言葉"の例をご紹介しましょう。
「削除処理」とは消すこと?
「取消」や「削除」というのも案外と誤解を招きやすい言葉です。
「契約取消しの申し出があった場合は、削除処理を行う」などという一文があったとします。
これだけを見ると以下のような処理が考えられます。
物理的な削除
- 顧客データを削除する
- 顧客データにリレーションしている契約データを削除する
- 『契約書』(帳票)を破棄する
取消・削除情報の記録
- 契約データに「削除」対象としての予約登録をする
- 契約取消しの申請があったことを登録する
- 『契約書』(帳票)に「取消し」のチェックをいれる
業務の裏側にあるシステムについて、必ずしも担当者が把握しておく必要はないのかもしれません。「削除処理」というボタンを押せば、あとは自動的に処理され、ミスの起こらないようなしくみになっていれば理想的です。
しかし、担当者が日常的に顧客データや契約データを取り扱う状況にあるのならば、ここでの「削除処理」とはどういうことなのかを明示して、間違いや勘違いのないようにしておく必要があるでしょう。
申請するのは誰?
もう1つ、よく見かける表記に「マネジャーを経由して人事部に○○申請する」などがあります。
この「申請」について見てみましょう。○○に入るのは「特別休暇願い」でも「施設の使用願い」でも「給付金の請求」でも何でも構いません。
「申請」という言葉はある行為を願い出る意味ですが、事務の側面から見ると、たいていは"申請書の起票"と"提出"がセットとして含まれています。ですから上記の例文を事務的にかみ砕くと、「申請者が○○申請書を起票し、マネジャーを経由して人事部に提出し、伺いを立てる」ということになるでしょう。
しかし、まだ釈然としないものが残ります。それは「経由」です。
例文の場合、「経由」がどういう意味で使われているかによって、事務手続きが変わってきますので注意が必要です。
この記述だけだと以下のいずれにも解釈でき、最終的に誰がどのように人事部に提出するのかわかりません。
どうやって提出?
実は「提出」という言葉もまたくせ者です。
同じ建物内であれば手渡すことも可能でしょう。しかし遠く離れた場所にあっては、どうやって提出すべきか迷うところです。基本的にどういう手段を用いるのかを明記しておくとよいでしょう。
また、何らかの提出を求める場合は、原本を送るのか、コピーを送るのか、控えを残しておくべきか、保管はどうするのか、なども迷わないようにしておきたいところです。申請書に添付書類がある場合は、その扱いについても説明が必要でしょう。
手段 | 送付物 | 保管 |
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細かすぎると思われるでしょうか。「そこまで厳密に決めなくていいよ、その辺は現場で臨機応変にやるだろうから」とか「そこまで言わなくてもわかるよ」という見方もあるかもしれません。確かに現場の状況によって臨機応変に処理した方が効率がよい場合もあります。
しかし、"臨機応変"と"適当"は違います。原則をわきまえたうえでの臨機応変であるべきでしょう。
現場の人はちょっとしたことで迷うものです。もし標準パターンが決まっていないと、それぞれに勝手な判断で"適当"に処理を進めます。これはミスのもとです。またそうした状態を長く続けていると、適当にいろいろな書類やルールがつくられ収拾がつかなくなってきます。
ミスなく効率的に事務が流れるためにどういう手続きを標準と考えるのか、マニュアルにはそこをきっちりと示しておきたいものです。
もし業務内容が変わったり手続きが追加されたりしたときでも、標準に照らして手続きを記述するようにしていけば、大きな混乱を招くことはないと思います。
author:上村典子