弊社ではコンピテンシーの調査をお手伝いすることもあります。そこで今回は自分の足下を照らして、マニュアル作成者にとってのコンピテンシーを考えてみたいと思います。
*コンピテンシーの用語解説は以下を参照ください。(別ページが開きます)
一番大事な能力とは?
業務マニュアルの作成ステップは大きく、コンセプト設計の段階とコンテンツ制作の段階とに分けてとらえられます。
コンセプト設計の段階では主に、相手の話を正しく聴く力、情報を引き出す力、相手に伝え、受け入れられる力、目的に応じて適切な手段を選択する力、物事を構造的にとらえ、組み立てる力......、などが必要になると思われます。
コンテンツ制作の段階では主に、編集や図解の能力、ユーザビリティに関する知識、さまざまなアプリケーション操作のスキル、デザインセンスなどが要求されることになります。
また、複数の人で分担して制作する場合、全体をコーディネートする人には、関係者の協力を得ながら物事を実現していく能力も要求されます。
そうしたさまざまな能力やスキルの中で、これだけは絶対に必要だと思えるものを1つだけあげるとしたら......、私は「状況をイメージする能力」だと思っています。
ここでのイメージとは、それを使う人や場面、そこで発生するであろうトラブルなどをどれだけリアルに想定できるか、ということです。相手の立場に立って考える力と言ってもいいかもしれません。
全体をコーディネートする立場の人はもちろん、各パーツを分担する人にも総じて求められる能力だと思うのです。
もしイメージがなかったりピントはずれだと、まず良い仕事はできないと思いますし、そういう人と仕事を分担するのはかなり骨の折れることになるでしょう。
逆にスキル面で未熟なところがあったとしても「状況をイメージする能力」さえあればなんとかなる、そう思っています。
またイメージが持てないと、何か問題が起こったときに手が打てませんし、ましてや問題の先手を打つこともできないとも思うのです。
これは業務マニュアル作成に限ったことではなく、モノをつくりあげるという仕事においては、共通していえることなのかもしれません。
イメージを修正する能力
さらにもう1つ必要な能力を追加するならば、「イメージを修正する能力」をあげたいと思います。
いったん持ったイメージに対して自己修正していく柔軟性がないと、やはりよいものはできないと思います。イメージが持てても、それが単なる思い込みであっては仕方ないからです。
業務マニュアルを受託制作する場合、私たちのような外部の人間にとっては顧客企業の業務をイメージすることが一番難しいことです。すでにあるイメージに照らしてヒアリングをするわけですが、既存のイメージがじゃまをすることもあり、真実にたどり着くまでは何度かイメージの修正を必要とします。ここを根気強くやらなくてはなりません。
社内でマニュアルを作成される場合は、この努力は不要(なはず)です。
むしろ、すでに頭の中にたくさんあるものをどう整理して表現するか、ということの方に労を割くことになるでしょう。
それなのに、なぜわかりづらいマニュアルができてしまうのか......、それはやはり「イメージが足りない」ことが大きな要因だという気がしています。
業務についてのイメージはあっても、マニュアルを使う現場についてのイメージが持てていなかったら、「自分だけがわかっている」マニュアルになってしまうのです。
業務の煩雑さやボリュームにもよりますが、だいたい自分の持っている知識を整理してまとめる、ということだけで相当な労力を要するものです。その段階で力が尽きてしまうのかもしれません。
「状況をイメージする能力」を養う
「状況をイメージする能力」を養うには、経験を積むことが何より効果的だと思いますが、経験量には限界があります。さらに、経験が「イメージの修正」を妨げる場合もあります。ですから、ただただ経験を積めばよいというものでもなく、やはり常日ごろから意識的に鍛えることが必要だろうと思います。
ちなみに弊社では、制作スタッフにはイメージを持つことを第一に要求しているつもりです。ヒアリングするときも、文章を書くときも、デザインを施すときも、資料を相手に送るときも、いつでもです。
果たしてそのことがスタッフに伝わっているかどうかはわかりませんが......。
......おっと、またマニュアル作成の話から離れてしまいそうです。
この続きはいずれ 「教えること教わること身近なケース集」にでも書くことにしましょうか。
author:上村典子