弊社でマニュアルを受託制作するとき、社内資料などから原稿を起こすことが多々あります。 この社内資料を読み解くことが、実は結構難しいのです。いろんな社内事情が絡んでいたり、社内独特の言葉や言い回しが存在するからです。
マニュアルを作るためには、これらをひも解いた上で、誰にでもわかるような平易な表現にしなければなりません。この"ひも解き"作業をとおして日々思うことを、今後何回かに分けてご紹介していきたいと思います。
"社内で通りのよい言葉"に潜む矛盾
会社の理念やビジョン、方針などを表すスローガン的な言葉は、どこの会社にも存在すると思います。そういった言葉を冠した文章、またはそういった言葉で締めくくられた文章は、社内的に通りやすいようです。
例えば「○○を行うことによって、△△というビジョンをめざす」という文章があるとします。ところが、この「○○を行う」ことと「△△をめざす」ことが、どう考えても繋がっていないと感じられることが多々あるのです。「△△をめざす」という大義名分を掲げることで「○○を行う」という1文が疑問視されることなく受け入れられてしまうようです。
実際、マニュアル作りうんぬんの前に、どうしてこんなことが社内でまかり通ってしまうのか、と目を疑いたくなるような記述によく出会います。
セールスマニュアルを例にあげるなら、CSを全社的な重点活動として掲げているのに、セールスのステップはどう見てもCS的に思えないどころか、押し込みセールスになってしまっている、といったケースです。それなのに「以下のステップによって、お客さま第一をめざします」のようなまとめ方をしてしまっているため、もっともらしく思えてしまうのでしょう。
社内で通りやすくするために担当者が意図的にごまかしている場合もあれば、担当者自身が矛盾に気づいていない場合もあるようです。
「本気ではない」ことだけが伝わる
業務のマニュアル化を担当する人にとっては、マニュアルを作った段階で目的が達成されたように感じられるかもしれません。しかし現場では、そのマニュアルに基づいて教育が行われ、そのマニュアルに従って仕事が進められるわけです。
もし、矛盾やごまかしのあるマニュアルを配布してしまったら、その時点で会社の方針はお題目に終わり、「会社はしょせん本気ではない」というメッセージだけが伝わることになるでしょう。
「なんだかんだ言ったって、どうせうちは売上第一だもんな」などの冷めた言葉が現場でささやかれることのないよう、作る側もそれを承認する側も、1つひとつの言葉をよくよく吟味していただきたいと思います。
author:上村典子