弊社では、毎期ごと個人目標を社員全員に設定しておりますが、抽象的な目標が多く結果が思うように出ません。
よって、来期から具体的な行動、結果が明確になるよう個人粗利設定を差別化し、目標の充実を図るようにと指示されています。
今期まで、部の差益目標に基いて、人数割りで個人粗利目標としておりました。
これでは、技量、経験、やる気等考慮するとあまり意味のない設定と感じてはおりました。どのように数値目標を立てたらよいか、お聞きしたい。
目標をどのように設定すべきかという問題は、その会社の目標管理制度の目的や他の諸制度との連動の仕方に影響される部分が少なくありません。そのた
め、ここでは原則的な考え方と多少の想定を交えながら記述してみたいと思います。
ご質問のポイントは3点あるかと思います。
1)目標設定において数値化を義務づけることの是非について
2)その数値化された目標として、個人粗利を用いることについて
3)部の利益目標を、人数割りで個人粗利目標とすることについて
まず目標の数値化の問題ですが、ここでは「可能な限り数値化することを推奨します」という程度に留めさせていただこうと思います。この問題はかなり複雑な
要素を含んでいて職場状況によっては一概に言えない部分もありますし、数値化のやり方によっては弊害が出てくることもありえます。
とりあえずここでは、問題をシンプルにするために、結果を明確にすることを目的に目標の数値化を指向し、その候補として個人粗利を検討しているとします。
さて、その個人粗利ですが、一般論としては比較的妥当性はあるだろうと予測できます。サービス部門ということですと、会社や部門への貢献度を少なからず表
しているだろうと思います。
問題は、ある期間中の個人粗利が、どのようにして積上げられるのかという点です。また個人の貢献や責任に帰属できる範囲がどこまでかも検討しておく必要が
あります。
話を具体的にするために、個人粗利を数式で捉えてみます(フィールドで機械のメンテナンス・サービスを行っているような形態の業務を想定しています)。
[個人粗利額]=[1件当りの平均粗利]×[サービス件数]
このうち[1件当りの平均粗利]について、まず細かく見てみます。
例えば、以下のような条件がそろうと全サービススタッフの実績は同じになってしまいます。
a)サービス品目が1つである。
b)料金表に準じた価格で値引きを一切していない。
c)「保守契約」のような期間契約がなく、全て件数単位の請求である。
ところが、上記のどれかの条件が変わると[平均粗利]が変動します。まずサービス品目が複数有る場合、どのサービスをいくつこなしたかが影響します(いわ
ゆる粗利ミックス)。その違いが個人の技能差によるものであれば、つまり技能レベルによって対応できるサービスとできないサービスがあるとすると、[平均
粗利]にも個人の貢献差が反映されていると考えられます。しかし、技能差の影響はなく、また本人の選択でなく指示に従ってサービスを行っているとすると
[平均粗利]の差を個人に帰属させることができません。
同様に、料金に交渉の余地があり値引きも対応しているとするとそれも[平均粗利]に影響します。ここでも、サービススタッフに提案の余地があるか、価格交
渉を行う権限があるかなどが問題になります。
「保守契約」が有る場合には1契約当りのサービス回数が増えるほど、[1件当りの平均粗利]を引き下げてしまいます。そうなると、傾向的には古い機械を担
当しているほど不利になります。しかし一方で、部品交換に頼らず最低コストのサービスを実施できるか、同一箇所の修理に何度も通うのでなく一発完治のよう
なことを実現できているか、などの技能差が重要だとすると[平均粗利]の差を個人に帰属させることができます。
もう一方の要素である、[サービス件数]についても同じような分析が可能です。
こちらは、おそらく顧客や案件の担当の仕方の条件とそこでの発生件数が、個人の実績に大きく影響すると思われます。ただ、それぞれの条件下で個人の技能、
工夫、努力、意欲などによって「たくさんこなす」ということは可能だと思いますが、発生件数自体を「たくさん増やす」ということはできないか、できたとし
てもサービス部門の使命からすると本末転倒だと思われます(積極的に引き受けることで件数が増えるという面はあると思いますが)。そのため、どこまでを個
人の責任範囲と捉え、目標設定すべきかは、かなり難しいところだと思います。
こうして検討してみると、「個人粗利」を目標にするのは、貢献度を表す指標として比較的妥当性が高いだろうとは思えるものの、職場状況によっては完全に公
平な指標とは言い切れないのがわかります。
もちろんこれは「個人粗利」に限らず、何を取り上げたとしても多かれ少なかれ発生することですので、あとは割り切りの問題かもしれません。
さて、ここでは一旦「個人粗利」を目標とすると割り切ったと仮定して、話を進めていきたいと思います。
「個人粗利」を目標に掲げると決めたとしたら、次はその目標値をどのように決めるかが問題となります。その方法として、これまで貴社では「部の利益目標を
人数割りで個人粗利目標とする」というやり方をされていたとのことでした。
すでにご質問文のなかでも「技量、経験、やる気等考慮するとあまり意味のない設定」とご指摘されていますし、上述してきた範囲でもかなり無理があることが
予測できるかと思います。
この方法が妥当性を持つのは、仕事の担当の仕方の条件が完全に公平である場合だけです。その場合でも、サービススタッフの等級格差(賃金格差)などが反映
されていない「人数割り」が本当に妥当なのかという疑問も残ります。
仕事の担当の仕方の条件に差があるとすると、解決の方向は2つあります。1つはその条件差を可能な範囲で目標設定に反映していくことで、もう1つは条件差
自体が生まれないように、担当の仕方を工夫するという方向です。
後者については、「人数割りで個人粗利目標とする」のでなく、部の前年実績を人数割りした平均値に近づくように、今年の担当エリアや担当顧客を割り振ると
いう方法が考えられます。これが可能であれば、「人数割り」で個人粗利を決めても公平性は確保できます。もちろん多少のデコボコは残ると思いますが、条件
の悪いところを上級者が担当し、条件のいいところを下級者が担当することでより納得性が高まるかもしれません。
しかしながらこの方法は、目標の公平性を重視した担当配置にはなりますが、部全体の成果や効率を重視したやり方とは言えません。金額の公平性を重視するあ
まり、1人のサービススタッフの担当顧客に飛び地が発生してしまうかもしれません。こうなると本末転倒です。
目標設定や評価のために担当の仕方を工夫するのでなく、あくまで部全体がもっとも効率良く動く仕事の担当の仕方を行い、それをどのように目標設定するかを
検討するほうが理にかなっていると思います。
これが前者の条件差を反映した目標設定という解決策です。この場合、担当の仕方の条件差を加味した基準値をどこに設けるかがポイントになります。例えば、
サービススタッフごとに担当エリアや担当顧客を決めている場合、今期担当するエリアや顧客の前年実績を基準に顧客数の増加率などを加味して目標を決定する
という方法などがあります。ただ、前年実績に対しどの程度上積みした目標にすべきかは議論を呼ぶところだと思います。
ここまでを要約しますと、個人粗利を目標とするのはある程度妥当性があるだろうと予想されますが、その目標値を部目標の人数割りとするのはやや乱暴と感じ
られる、というのが弊社なりの見解です。
もちろん、細かい状況はわかりませんので、仕事の担当の仕方の条件面での有利不利が無ければ、人数割りが妥当な場合もありうるとは思います。また実績値な
どで正確な数値がとれないときなどは、人数割り以外の方法が難しい場合もあるかもしれません。
個人粗利については、仕事が成果に結びつく過程をきめ細かく分析すると、もっと個人の責任や貢献が明確にできる部分に焦点を当てたほうが妥当かもしれませ
ん。1例ですが、ある機械のメンテナンスサービス企業では、修理の「完了率」を指標にしたケースもありました。
ただ、こういう指標の取り上げ方も、かなり仕事の分析やデータの蓄積がされてないとすぐには難しいだろうと思います。
ここから先は考えようですが、個人粗利を目標とすることが多少妥当性を欠いていると思える場合も、ある程度は個人別の成果が反映されると判断できるのであ
れば、目標の数値化の方法としてそこからスタートしてみてもいいのではないかと思います。そのうえで仕事の分析やデータの蓄積を行いながら、来期からもう
少しきめ細かい目標にしていくこともできます。また今期も、個人粗利は個人の実績を表す総合的な指標と位置づけ、その他にそれを補完する指標を目標に加え
たり、従来から行ってきた数値化されていない目標も設定したりというやり方も可能です。
大切なのは、1年で完全な目標設定をやることより、今やれるところで目標設定し試行錯誤を繰り返すことだと思います。そうすることで仕事に対する捉え方が
深くなり、分析力やデータ管理のレベルもあがっていきます。そのことこそ、目標管理を行っていく最大のメリットではないかと思えます。
以上、詳細の状況がわからぬまま書き進めてきましたので焦点がぼけた回答になってしまいましたが、またご不明な点がありましたらお気軽にご質問ください。