海外工場の監査を行ってきました。MBOとしての数値目標設定が、直行率100%でして月次でみますと、達成月はわずか1回でありISO的には、「不適合」かと思われます。
実績は98%や99%で、ほぼ達成している状況です。
逆に100%の目標を99.8%などとするのもどうかと思われ、事務局としても悩むところです。
以下の回答は、MBOの目標と人事評価の仕方という観点にて記述します。「海外工場の監査」と書かれている点がやや気になりますが、生産管理や品質管理の観点から考慮すべき問題は触れずに回答します。そのあとで、少し長くなりますが、いくつかの前提条件を置いたうえで、人事制度的な観点より、解説を加えておきます。
その前提で、まず一般論ではありますが、ご質問に対して考慮するポイントと対応策は以下のとおりあげてみました。
1.目標が妥当かどうかを検証する。
工場全体の目標だと思いますが、階層ごとの責任としてどうかという点や、階層によって数字の厳しさが変化しないかなども踏まえて妥当性を検討します。 妥当な目標であれば、評価は、評価制度のルールに従う方向となります。
2.100%以外の目標を設定することが可能かを確認する。
可能であれば、MBOの目標を達成可能性が五分五分程度の現実的なレベルを踏まえて設定するようにします。
ただしその場合でも、ISOで「適合」となるレベル以下の目標はないものとします。
3.目標と評価基準の関係を分離し、調整する。
目標では、100%と掲げてあるが、実際の評価では99%以上であれば目標達成とみなす、といった基準を個別に設けて評価の納得性を確保します。
4.目標のつくり方を工夫する。
たとえば、「100%達成月を半期で4回以上。ただしトータル98%以上」などとし、100%をめざす姿勢を維持しながら多少の猶予もある目標を工夫します。
5.目標のウェイトで調整する。
それによって、このも目標ではプラス評価もないかわりに、少しショートしてマイナス評価となってもその影響は小さくなります。
一方で、あたり前となってきた直行率以外の目標に注力するといった構図となります。
6.目標の指標を分解し、具体化された課題を目標に掲げる。
たとえば、チョコ停後のマシンの立ち上げのときに不良が発生する確率が高いのであれば、チョコ停の削減を目標に掲げます。(直行率も同時に掲げておいて構わない) それによって、直行率の維持(改善)に対する努力が評価に反映されるようにします。
今回のご質問では、MBOや評価のルールによっては、どう考え、対応すべきかが一概にいえない部分もありますし、そのルールによっては選択できないものがあるかもしれません。
ただし、考え方としては、どのように目標をつくれば意欲が高まってよりより結果が期待できるか、またどう評価すると納得感が増し、翌期の意欲的な目標設定を促すことができるかという方向で考えるべきかと思います。
このケースの場合、直行率100%という目標が十分達成可能な数字であれば、あまり問題ではありませんが、仮に現実的でない数字だとしたとき、100%ができなければ問答無用でマイナス評価だとしてしまうと、意欲が低下し、直行率も却って下がってしまうことがあります。これだと経営にとっても得策ではありませんので、多少は現実を加味してやるほうが好ましいといえます。
しかしながら、100%は最初から無理だと決めてしまって安易に低い目標を認めるような習慣がつくと、組織が成長しなくなってしまいます。
こう対比してしまうとベストな解決策は難しくなりますが、組織の成熟度を踏まえたり、1,2年というスパンでステップを考えたりしながら、少しでも多くの努力を引き出せる方策を柔軟にとっていくのがベターかと思います。
○人事評価制度も含めた追加の解説
以降では、人事制度上の細かい点も含めて解説を加えてみます。問題が複雑になり過ぎるのを避けるため、前提条件を以下のとおりとしておきます。
ご質問の状況は、弊社では「注意が必要な目標」の問題と位置づけています。これは、評価基準が目標の達成率のみ提示されている場合に、評価がしづらい目標が存在してしまうという問題です。
たとえば、評価基準が、目標の達成率をもとに次のように設定されていたとします。
5点:130%以上 大きくクリア
4点:115%以上 目標以上に達成
3点:100%以上 達成
2点: 85%以上 やや未達
1点: 85%未満 大きく未達
これらは、売上高のように、うまくいけば目標以上に達成する可能性がある「積上げ型の目標」が想定されています。そのため、件数を減らしたい「不具合件数目標」、単位が%で表現される「率目標」、あるいは「削減目標」「改善率目標」などの場合には、うまく当てはまらないものが出てきます。
なかでも矛盾がでやすいのは、「ゼロ目標」や「100%に近づいた率目標」です。
「ゼロ目標」とは、「労災事故ゼロ」「市場クレームゼロ」といった「0件」以外の目標が立てづらいスローガン的な目標をいいます。過去数年「ゼロ」に近い実績を残している場合は問題は少ないのですが、毎年数件は発生していて、どうしてもゼロとならない場合、目標を設定した時点からマイナス評価が決まっている目標となってしまいます。
「100%に近づいた率目標」も同様で、すでに実績として99.8%など、限界に近づいていてそれ以上の数字を出すのは困難な反面、何かの要因があると一気に落ちてしまう危険性もあるといった数字があります。
こういった数字が主要な目標となっている部署だと、上述したような「積上げ型の目標」を想定した基準に単純を当てはめてしまうと、非常に高い水準で頑張っていた部署ほど、低い評価になってしまうことがあります。
これらの問題に対応するために、弊社では「評価尺度の設定」という方法を推奨しています。評価尺度とは評価点の物差しをつくることを意図した用語です。そして評価尺度の設定とは、ここまでやったら「3点」、さらにこれもできていたら「4点」といった具合に、評価点ごとの内容を具体的に決めることをさしています。そうなると、評価基準と同義ではありますが、「評価基準」という場合、もう少し幅広い内容を含み、制度の標準の物差しをさすことが多いため、それと区別するために別の言葉を当てました。
その評価尺度を、目標ごとに個別具体的につくっておき、評価における認識の違いが生じないようにしてしまいます。一見大変そうに感じますが、運用ルール次第でそれほどの負荷もなく取り入れることが可能なものです。
この評価尺度を設定するときに、個別事情を加味した尺度設定を容認してしまいます。たとえば、工場全体としては「市場クレームゼロ」を大方針としてうたっていたとしても、あるラインでは例年は5件程度のクレームが出ており、前期は品種が増加した影響でむしろクレームが増える傾向にあったとします。
そうした状況で目標「0件」としても意欲がわかないことも予想できますが、逆に「3件」といった目標とすると、最初から「クレームを3件出します」と言っていることになるので、とても認められません。
そこで、目標の表記は「0件」としたうえで、評価尺度ではいくぶん現実に近い設定を認めてしまいます。下記は設定の仕方を2例あげてみました。
5点: 0件 ー
4点: ー 0件
3点:2件以内 1件 ......標準の評価(目標達成相当)
2点:4件以内 3件以内
1点:5件以上 4件以上
この2つの例を見ると、次のようなポイントがあります。
これらは、機械的に基準を決めるのではなく、数字の価値や意味を考慮して評価尺度を設定したことを意味しています。
いずれにしても、目標と評価の分離を認めるのかが議論にはなりますが、評価制度の形式を重視するより「実利」をとろうとするのが、これを認める背景の考え方です。意欲が向上して少しでも市場クレームが減れば、損益的にもプラスだという発想です。
もちろん、毎年同じように設定するのではなく、2件程度まで減ってきたら、その翌期からは評価尺度でも「3点=0件」とし、段階を踏んであるべき姿に近づけていきます。
また、安易に使われ過ぎないようにするために、目標と評価の基準をずらす場合に2次評価者の承認などの手続きを入れている企業もあります。
さて、今回のご質問の「直行率100%」という目標は、「ゼロ目標」や「100%に近づいた率目標」に近い問題かと思います。
ポイントは、冒頭の回答の「1.目標が妥当かどうかを検証する」にあげましたとおり、直行率100%というのが「妥当な目標かどうか」という点になるかと思いますが、ここで解説した評価尺度は回答の「3.目標と評価基準の関係を分離し、調整する」に該当する方法となります。
また、業績責任は階層が上になるほど厳しくて当然と考えられます。たとえば、売上高のような積上げ型の目標と「ゼロ」や「100%」といった目標は、階層が上がるにつれて、つまり範囲が広がるについて違った動きをします。
たとえば、営業部の売上目標の場合、3つの課でショートしても、1つの課が目標を大きく上回れば営業部の目標は達成されるかもしれません。ところが、工場の「ゼロ」や「100%」といった目標の場合、4つのラインのうち、1ラインでも不具合を出すと、工場全体の目標は達成されなくなります。
冒頭の回答の「4.目標のつくり方を工夫する」は、こういう数字の性格を加味して目標を工夫する必要がないかという検討ポイントです。仮に4ライン、半期で各6カ月とすると24コマがあることになります。ラインごとにはラインの強弱も加味して6カ月中何カ月で100%を達成するかを目標とし、工場全体では4 ラインの合計か、できればプラスα程度を目標とするといった設定方法です。
このほか、詳細の解説は省略しますが「5.目標のウェイトで調整する」「6.目標の指標を分解し、具体化された課題を目標に掲げる」なども有効な対応策となると思われます。ただし、このあたりになると評価制度のルールも関係してきますし、評価制度自体が良く考えて設計されていないと選択できないかもしれません。
なお、評価制度との関連で選択肢が変わるという点にからめて、あと1つだけ補足しておきます。
上述した「評価尺度」のような方法は、会社の制度となっていなくても、目標面談の中の約束として普通に行われており、評価者にとってはあたり前のことだったりします。そのため、評価者の裁量範囲と考えて良ければ、現場で進めればよいかと思います。
しかしながら、これを人事評価の公式の制度として導入する場合には、評価制度全体の点検し、甘い方向に流れ過ぎないように整合性を検証しておく必要が出てきます。ポイントだけを例示しますと、以下のあたりとなります。
1.妥当な目標とは何か
・会社の方針か、前年実績か、部署の状況かなど
2.評価基準の刻み方はどうなっているか
・標準の3点は「100%以上115%未満」か「95%以上110%未満」かなど
3.評価後のランクづけの基準
・標準のBが評価合計点で「60点以上75点未満」か「55点以上70点未満」かなど
4.加点はあるか
・トータル何点くらいあり、加点がつきやすいか
以上のそれぞれによっては、かなり高いと感じる目標であっても、最終的に評価ランクが決まるまでの過程を検証すると、それほど厳しい結果にはならない制度もあります。そういう場合は、評価尺度のような煩雑なしくみをわざわざ持ち込む必要はないかと思います。あるいは、持ち込むにしても評価が高ブレしないように条件付けをしておく必要があるかもしれません。
評価に関する問題は、処遇が決定するまでにいろいろなロジックが関連していますので、場面場面だけで判断すると意図しない結果となることがあります。そのため、迷ったり何かの案がでてきたときには、人事部門の方にも相談しながら検討することをお勧めします。