現在、人事評価制度の構築を行なっておりますが、目標管理の件で社内で意見が割れてどうすべきか苦慮しております。目標管理は当然業績評価へと連動し、賞与における業績配分や昇給・昇格の判断材料とする予定です。その中で個別目標設定の段階で「難易度」を設定するにあたり、難易度を各職位等級に応じた難易度にするか、会社全体を考慮した難易度にするかで統一した見解を導くことができません。私自身は昇格・昇給においては前者、賞与の業績配分については後者で判断すべきかと思いますが、1つの目標に対して2つの難易度があるのは管理上問題はないでしょうか。オープンな人事評価を目指すにあたって社員にどう説明すべきかなど悩みは絶えません。なお、参考までに人事評価項目としては他に能力評価と勤務評価があります。
まず、貴社でご検討中の制度の状況を整理してみたいと思います。
1)資格制度として職位等級制度となっている。
2)人事評価には、業績評価、能力評価、勤務評価がある。
3)業績評価は、賞与の業績配分と直結し、昇級・昇格の判断材料として活用される。
4)業績評価は、目標管理制度と連動している。
5)業績評価(目標の達成度評価)において、難易度の設定を検討している。
6)難易度は、個々の目標ごとに設定するようになっている(これは文面全体からの想定です)。
7)オープンな人事評価を目指したい。
この状況下で難易度のつけ方を検討するにあたり、以下の3案がでています。
a)職位等級別の難易度とする。
b)会社全体を考慮した難易度とする(=全等級同一基準?)。
c)昇給・昇格は職位等級別の基準、賞与は全等級同一基準とする。
さらにご質問のポイントは次の2点かと思います。
ア)どの方法が適切か。
イ)上記c)場合、管理上の問題は起きないか。
さて、論点は非常に多岐にわたりますが、まず、イ)の管理上の問題から見解を記述させていただこうと思います。
目標管理において、2つの基準の難易度を同時に採用している例は他では知りませんが、人事部門における評価結果、評価履歴の管理という点に限れば、システ
ムさえ組んでしまえば問題は起きないと思います。
類似の例としては、賞与査定では相対区分後の考課ランクを用い、昇給昇格では100点満点の素点を用いるという制度作っていますが、何らトラブルは生じて
いません。
しかしながら運用面を考えますと、2つの基準の難易度をつけるというのは、かなり混乱が生じるのではないかと予測されます。
もし目標の達成度(業績)が完全に数値化でき、2つの難易度も機械的に判定できるのであれば管理者(評価者)の負担や混乱は軽減できますが、そうでない場
合、全ての管理者が2つの基準を完全に切り分けて正しく評価するのは、まず期待できません。
また、被評価者にとっても非常にわかりづらいものになるはずです。現在制度構築メンバーの間で意見が分かれているのと同様に、被評価者もいろんな感じ方を
する人が出てきますので、全ての被評価者が意図を正確に理解して、自分の評価結果に納得するということは無理だと思います。
2つの基準を併用する必要性としては、賞与の評価ランク(考課ランク、評語)を決定する際に全社員を母集団として相対区分をしていて、昇給・昇格は同一等
級内で判定しているなどの理由があるのかもしれませんが、管理上の問題より、運用面の問題を考えるとできるかぎりさけたいように感じます。
次に、ア)のどの方法が適切かについて考えてみたいと思います。
考慮すべき要素が非常に多いため、まずそれを列挙してみます。
1. 等級と職務の水準は一致しているか。
2. 目標設定の際に、等級ごとの目標の水準を考慮するようになっているか。
3. 目標ごとの評価基準は全等級一律か。
4. 難易度はどのように設定するのか。
5. 業績評価の中で、目標の達成度以外の情意的項目が含まれているか。
6. 評価ランクはどのようにつけるのか(母集団は、区分方法は)。
7. 業績評価と他の評価(ここでは能力評価と勤務評価)のウエイトはどの程度か。
8. またそのウエイトは、処遇項目ごと、等級ごとに差はあるのか。
9. あるいはウエイトではなく、評価ランクの組み合わせで総合評価を決定しているのか。
10. 評価による処遇格差はどの程度か。
また、4についてはさらに細かく分けてとらえる必要があります。
4-1. 難易度を設定する目的は何か(挑戦的目標の引出し、評価結果の適性化など)。
4-2. 難易度の基準は何か(在籍等級と目標の水準のズレ、状況変化など)。
4-3. 難易度はいつ確定するのか(期首、期末)。
4-4. 難易度による加減点の幅が処遇結果に与える影響はどの程度か。
4-5. 難易度は個々の目標ごとに付けるのか、目標全体に対して付けるのか。
こうして見ただけでも、すぐにどうあるべきと言い切るのは難しいと思います。
そこで、貴社の場合を想定しながら、条件設定をしてみたいと思います。
○職位等級制度とのことですので、等級と職務内容にズレはない。
○難易度は評価結果の適正化が目的で、期末時点で設定している。
○難易度による加減点は、最大でも評価ランクが1ランク変わる程度。
○昇給・昇格では業績評価が与える影響は小さくなるので、考慮の対象外に置いても構わない。
この前提でよければ、上記の2×3×(4-2)×6の組み合わせによる判断に絞込むことができます。
この場合、目標設定のときに職位等級を考慮して目標の水準を設定するようにするのが原則で、そうなっていれば難易度を等級別に設ける必要は少なくなるはず
です。しかし、等級ごとの目標の目安がなく、何等級であろうと同じような目標を作っているとしたら、評価基準や難易度を等級別に分ける必要が発生するかも
しれません。
しかし、評価方法を複雑にすると、評価制度が好ましい方向で機能しなくなってしまう傾向があります。そのため、各等級ごとに適切な目標を設定するところで
努力し、評価はシンプルに運用できるように考えていくべきかと思います。
ただ、等級ごとではありませんが、難易度設定の方法を管理職と一般職で分けている例はときどき見かけます。意図が明確であればそのような方法も考えられま
すし、この程度までは何とか運用上も耐えきれるようです(ただし、各社とも基準の違いを徹底できずに苦労はされています)。
さて、貴社におかれましてはオープンな人事評価を目指しているということですが、人事評価をオープンにする目的は、それによって仕事への意欲を 高めることにあります。制度設計担当者が、できるだけ正確で公正な評価結果が得られるようにとロジックを複雑にしすぎますと、評価者も被評価者も、評価結 果や評価のロジックにばかり意識が向かうようになります。その結果、評価者の苦労も増大しますし、本来なくてもよかった細部についての不満や議論を誘発し てしまうこともあるようです。 大切なのは、目標設定や評価を通じて、自分に何が期待されているのか、どのように努力すればいいのかなど、仕事そのものを深く考え、意識が向かうようして やることではないかと思えます。上司と部下が仕事に関して建設的な議論ができ、相互理解が深まれば、評価のロジックが多少アバウトでも不満はそれほど大き くなりません。 制度担当者は、そのような対話のツールを提供してあげることが一番重要なのではないかと思えます。