更新 2016.06.27(作成 2015.08.25)
| 正気堂々Top |
第7章 新生 70.合併
合併には、吸収合併と新設合併がある。
吸収合併は、1つの会社が存続会社となり他の一方の会社の権利義務を包括的に承継し、他の一方の会社は清算手続を経ずに解散する方法をいう。しかしそれはあくまでも法的手続き上のことであり、資本力にものを言わせて相手会社を支配下に置くいわゆる乗っ取りの吸収合併ではない。
新設合併は、全ての合併当事会社が消滅会社として清算手続きを経ずして解散し、同時に新会社を設立し、合併当事会社の権利義務等の法律関係を包括的に新設会社に承継させる合併形態をいう。
実際には、新設合併では許認可等が白紙に戻り営業に必要な許認可等は新たに取得する必要があったり、また上場会社の場合には新たな上場手続が必要になるなど手続が煩雑になることから圧倒的に吸収合併の形態をとることが多い。
合併する場合、全てにおいて100%対等ということはあり得ない。企業の事業規模や知名度の高低など力の差は必ずあるし、それに起因する株式交換比率の有利不利や存続会社の立地条件による利便性の有利不利などが起きる。社員にしてみれば社内ルールの違いによる有利不利なども大きな問題だ。しかし、そんな差異に諂っていては合併が成就しない。
そこで、合併のやりやすさなどから株式交換比率に工夫を凝らしたり、対等合併を演出したりして合併が成功する条件を整える。
そればかりではない、合併条件において一方が他方に優越した場合に、劣後扱いされた勢力に抵抗感が生じたり、感情的なもつれが生じ、合併のスキームに支障を来すのではという懸念も想定される。そのため殊更当事会社双方で「対等合併演出」のこだわりはさらに強まる。
それでもまだ不十分な場合は、「たすき掛け人事」をはじめとし、労働条件の擦り合わせなど「対等」な条件を実現するための膨大な時間と労力を費やすのである。
そんなコストを掛けてもトップたちが対等合併を目指すのには、双方のステークホールダー(特に株主)への配慮があるからだ。建前上旧会社間に優劣を持たない対等合併を目指し、それによって融和と尊重を演出し、合併計画に支障を来さないよう配慮をする。
合併による統合で難しいのは「文化・風土」の融合で、次いで「業務プロセス」「経営戦略」「人事制度」と言われている。
このような難しい制度の統合を待っていては合併が遅れてしまう。
トップたちは「それでは経営の意思決定のタイミングを逸してしまう」と考える。その挙句、本来潰しておかなければならないこうした面倒な統合を後回しにして、実質的な交渉がまとまらないままに基本合意書ないし覚書を締結したり、統合条件の中身がほとんど決まらないまま形だけの合併をなしとげてしまい、後は事務レベルに実質的な統合準備を任せるという、一見矛盾する状況に陥ることになるのだ。そのため、真の統合が遅々として進まなくなるということが往々にして起きる。むしろ統合したいと願う引力が引き合っているうちに妥協点を見つけるようにしたほうが統合は早く進む。
中国食品と近畿フーズの合併でもトップ同士の意思確認はいたってスムースに決まった。お互いの思惑さえ一致すれば後は実務レベルの仕事に落とし込んでしまい、それでトップの仕事は終わった。
「合併は対等合併を前提とする」
「存続会社は便宜上近畿フーズとする」
「双方、合併のための協議会を立ち上げ、誠意をもって臨む」
「合併協議を進める中でどうしても統合できない根本的不都合が生じた場合は、どちらかの申し出により本合併を解除することができる」
ということだけを決めて確認書を交わし、あとは合併協議会の力作業になった。
中国食品の合併協議会は、新田をリーダーに総合企画室と経理部の主だったメンバーで構成された。もちろん合併協議会の存在もメンバーも秘匿された。
まず話し合われたのは新会社の形態である。
名称は、「西日本フーズ株式会社」となった。近畿、中国地方にとどまらず、これからは西日本一円に活動を広げようとの意欲的ネーミングである。社員の士気高揚の狙いもあった。
合併協議会で決まったことはお互いのトップに答申し、了解が得られれば合意事項として蓄積され最後に合併合意書としてまとめられる。了解が得られなければ差し戻され再び合意点を模索することになる。
次に役員の構成である。現時点で中国食品には社長以下10人の取締役がおり、近畿フーズには14人がいる。他に監査役がそれぞれ2名ずついる。このまま合併したのではあまりに多すぎて役員会が機能しづらい。
そこで合併協議会は執行役員制を引くことにした。純粋な取締役はトップ2人と副社長2人に絞り、他は親会社から1名ずつ非常勤の取締役を招聘することとした。
執行役員となると処遇も軽やかに行うことができる。ただ、モラル低下を来さぬよう常務取締役は専務執行役員に、平の取締役は常務執行役員にというように肩書には気を配った。
対等合併の最も権利意識の働くところが役員構成と重要人事だ。その割に最もわかりやすく合意の得やすいところでもある。お互い自分のポジションを心得ているものだ。
取締役となった4名は対等合併の名のとおり、たすき掛け人事を具現化することにした。
近畿フーズの社長は新会社のCEO(会長)に、中国食品の社長は新会社のCOO(社長)に、そのかわり上席副社長には中国食品の専務だった新田がなり、もう一人の副社長には近畿フーズの専務がなった。まさにたすき掛けである。それぞれ代表権を持った。
執行役員のポストもジグザグにたすきを掛け、対等になるように配置されたが、もともと人数が少ない分中国食品に有利に働いた。中国食品側に新たに2名の執行役員が誕生し、近畿フーズの高齢役員2名が顧問にやられた。
本社の所在地は、大阪府千里の現近畿フーズの本社所在地そのままになった。中国食品の役員、本社社員は転勤が伴う。田舎育ちの中国食品社員たちはそれを大変嫌がった。慣れない社風、環境、単身赴任、大都会生活、それらが全て中国食品の社員たちの負担となった。その後の合併事務作業でも苦労するところである。
合併協議会で難航したのが株式の統合比率とその算定方法だった。