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コンサルの独立

更新 2015.03.25(作成 2015.03.25)

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第7章 新生 55.コンサルの独立

F信託銀行の年金信託部は今年の4月からかねてより検討されていたコンサル部隊が年金営業部隊から独立し、コンサルに特化して歩き出していた。
平田のところへやってきたのは独立したばかりの年金コンサル部隊の梶原だった。梶原は元々中国食品担当の年金営業だったが組織が変わったことに伴ってコンサル部隊に異動したものだ。
「この度、組織機構が変わりましてこのようになりましたのでよろしくお願いします」
梶原は簡単な組織図と名刺を差し出した。既に新田のところには挨拶を済ませてきたらしい。
「いよいよ独立ですか。そもそも、なんで変わったんですか。これまでとどう違うの」
以前からそのようなことになると聞いていた平田はさして驚かなかったが、背景は知っておきたかった。
「これから年金を取り巻く環境は大きく変わります」
「例えば?」
「はい。もうじき適格年金が廃止になります。これの受け皿を作らなければなりません。御社はこの度基金に糾合しますからいいのですが、他社さんはこれからです。それから確定拠出年金制度が発足します。このニーズも大きいようです。それからもう一つ、一番大事なのが新会計基準の導入です。これをそのままなんの準備もなしに移行しますと企業会計を大きく毀損します」
「それってどういうこと」
平田は薄々聞いてはいたが、まだ遠くの景色に見えていた。
「今、年金の不足金は年金会計の中で赤字ですと認識して、企業会計とは切り離してあります。ただ、これを埋めるために掛け金をUPしてくださいとお願いしているだけです」
「特別掛け金ですね」
「はい、そうです。それが新会計基準では、この不足金、厳密には未積立債務額と言って退職給付債務から年金資産を差し引いた不足額ですが、これを企業側の財務諸表に注記しなければならなくなります。その後数年間で償却して退職給付引当金として費用処理しなければならなくなります」
「なんだかややこしいですね」
「はい。つまり簡単に言いますと、この不足金というのは年金の借金じゃなくて企業の借金でしょ、ということなんですよ。ならば企業会計の中に組み入れなければ真の企業の実力がわからないじゃないかということです。この事は後日ちゃんとご説明しなければならないと思っていますが、そんな解決しなければならない事が山ほどあって、年金営業どころじゃないんですよ」
「なるほど。それで分けようと」
「そういうことです」
「それじゃ、あなた方はコンサルに専念するわけですね」
「まあ、そういうことではありますが二人三脚というか、お客様は同じですのでどうしても年金営業とタッグでの活動になります」
「ふーん、そう」
平田は彼らの仕事の性質をなんとなく理解した。
もともと、信託銀行の法人担当者の業務実態はコンサルタント業だ。退職金や年金の見直し、法改正への対応など、クライアント企業が内包する各種問題や課題を解決する方策と手順を提案し、年金業務をスムースに運用してきた。これまではその見返りとして巨額の年金ファンドの運用を任され、高額な手数料を得てきたのだ。
ところが近年は環境が大きく変わり、企業としての銀行の業務収益が上がらない。
そこで、そもそも年金手数料は管理運用手数料であり、コンサルは別業務だとの考えが台頭してきた。独立系コンサルタントはそれでメシを食っているではないか。ならば独立させようという動きになった。しかも相手は素人同然で俺たちを頼らなければ何も出来ないはずだ。ならば金が取れる。そう考えるのは自然な流れだった。
ただ、彼らのコンサルタントの業態は、藤井のように無からディベートを尽くし、フレキシブルにフリーハンドで人事制度や退職金制度をクリエイトするのとは趣を異にしている。
年金コンサルタントのスタイルは、旧来の年功的退職金の確定拠出型年金、または数年後に廃止が決まっている適格退職年金制度などを、近代的制度への衣替えを手ほどきすること。或いは次にやってくる新会計基準の導入を混乱なくエスコートすることなどである。
つまり行き着く先の選択肢は決まっており、いかにそこに誘導していくかが彼らのコンサル業務なのだ。
藤井らのように、企業のどこにどんな問題が内包するかを探り、いろいろな解決策を模索し、どのような制度にするかを探っていくのとは根本的に異なっている。
しかし、年金業務は法律の壁もあり一般的に馴染みがないため、制度の詳細レクチャーや、制度変更のための手続きなどコンサルニーズは大いにあった。狙いとしては正鵠を射ている。
彼らもコンサルとして立ち上がったからには自ら稼ぎ出さなければならない。幹事会社としての受託手数料だけでは先行き心もとない。コンサルを手掛かりに幹事会社以外のところにも食い込んでいきたいし、適年しかないところも取り込みたい。そんな思惑から彼らは独立した。
「今ちょうど退職金の見直しをしているところだけど、なにかしてくれるんですか」
平田は当てつけがましい言い方を敢えて投げてみた。
「いえ。平田さんのところはもうできているじゃないですか。これからのところがターゲットです」
「うん、なるほど。それじゃ、私のほうから……。これはコンサルじゃないけどね」
そんな経緯があっての再計算依頼だった。

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