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制度完成

更新 2013.06.25(作成 2013.06.25)

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第6章 正気堂々 85.制度完成

1996年9月。ついに人事制度が完成した。
中間報告で使ったのと同じ「コース別社員制度」と銘打って提案し、承認が得られたのだ。
本格的に取り組んで丸3年が経過している。
もう一度制度構成を確認しておこう。中間報告として役員会に提出した全体構成である。これらの詳細設計と運用マニュアル(運用基準、人事部内規)が完成したのである。

イメージ図1

とりわけ、管理職制度は強く意識して構築していっただけにかなりドラスティックな制度となり、年功制度から抜け出せないような人から猛反発が来た。さらには、セカンドキャリア支援制度が「俺たち年寄りはもう要らんってか」と変な誤解を誘い、平田への風当たりをさらに強いものにした。
管理職とは、資格制度上のS、Eコースの資格要件を満たした者が選ばれ、ポストに空きがあれば任用され、なければ外れるという極めてドラスティックな考え方である。
しかもその資格制度は、人材開発制度で設定した必要研修や通信教育を履修しなければ昇格することができない。
やっと昇格してもポストに任用されるための任用要件は、成績、評価、性格、適性、経歴、職歴、学歴や病歴、血液型、社内外の賞罰歴まで管理されるようになっている人材プロファイルというデータシステムによって、一定の評価基準をクリアした者だけがノミネートされるようになっている。
導入時、「なんでお前が俺の性格まで管理するんや」と猛反発をされた適性検査なども、今は係長・主任や管理職候補者は全員対象者として受けており、会社の年間行事として定着している。
こうした検査結果は人材開発制度の社員研修に活かされているのである。
あれだけ議論してきたつもりだが、人事部内部でさえも敢えて瑕疵を探そうとする者もいた。
人材開発課の課長からで、
「1つの資格に数百人在籍しており、1、2年の間に全員必須研修を施すことは不可能だ。そうなると人事異動に不公平が生じ責任がもてない」
というものだ。
“少しは頭を働かせーよ”と平田は腹が立ったが、移行、運用のことを想定しながら組み立てていった自分とそうでない者の理解の差だろうと自分に言い聞かせた。
昇進するには、一定の評価基準があり、通信教育も数通り履修していなければならないとか、適性検査も一定基準をクリアしなければいけないなど、幾つかのハードルがあるわけで、それらをクリアしている上位の者から、あるいは今年度中にクリアしそうな可能性の順に絞り込んでいけば十分可能人数になるのである。
こうした情報は、コンピューターのデータベースで管理されているのであるが、段階的セキュリティがかかっており、全てを見られる人は極一部の人である。役員といえども人事に関わる者以外は必用項目以外見ることはできない。社員コードとパスワードでアクセス権を与えており、会長と社長以外では丸山と柴田と平田だけがフリーアクセス権を持っており、例え人事部メンバーでも全てを見ることはできず、人材開発課長でも研修履修歴や通信教育終了歴しか見ることはできない。
平田は2通りのアプローチでセキュリティを設定した。1つは職責や資格からのアクセス権と、もう1つは目的からのアクセス権である。
例えば、役員であれば一般的個人データや職歴、成績といったところはフリーとし、会長、社長は恐らく見ることはないであろうが一応建前上、全てにフリーアクセス権を与えた。
次に目的別では、例えば人材開発課では、次年度の研修予定者を絞り込むためのプログラムとして、例えばA評価を取ったと仮定して昇格できる人間をピックアップするシステムを導入したのである。
もちろん平田は、そうした考え方だけを提案するだけで電算にシステム化してもらうのである。
異動や昇進、昇格など必要な時は、人事が加工してペーパーで提出するようにしている。
こうして平田が長年念願してきた人事システムが稼動し始めた。あとは運用でこの理念が壊されないようにしっかり見張るだけである。
評価の柱である目標管理制度も、全階層に何度も研修を実施しエネルギーを注いできた甲斐あって定着してきた。ここは藤井に大いに助けてもらった。藤井の最も得意とする分野である。
そこで平田は、藤井のサゼッションもあって全管理職の目標設定シートを組織階層に沿って社内ウエブで公開することにし、目標の連鎖を誰もが一目で確認できるようにした。もちろん目標設定に自信のない管理職もいて抵抗も強かったが、かえって誰が目標設定が弱いかの炙り出しに繋がり重点指導をすることができた。
これには2つの狙いを込めた。
1つは各人が思いつきの目標を立てるのではなく、トップから末端まできちんとした目標の連鎖で繋がり、経営方針にブレが生じないようにし、会社の経営目標を達成するという目標管理の基本的目的を達成するためと、目標を達成したかどうかを誰もが確認できることで評価の正確さを担保するためである。もちろん、役員といえどもきちんと目標を設定してもらった。そのために役員にはとくに入念に研修をやっている。

平田を中心に人事部の主だったスタッフは、全社員分のパンフレットを手に制度説明に全社を飛び回った。詳細なスケジュールを組み、手分けして全事業所に繰り出した。移行は97年の1月1日であるから3カ月しかない。その間には次年度の運営方針や予算組み、異動などをこなさなくてはならない。全員が必死の形相で取り組んだ。特に平田は仮格付けをし、それに基づく移行原資を算出し、予算化と承認を得なければならない。ここが勝負と寝食を忘れて打ち込んだ。
現行制度からの移行は、4月の評価を基準に新制度に乗り換え、新制度としての異動、昇進は役員会マターとして別のものだとした。
平田が算出した仮移行原資は、月額2100万円(基準内賃金比4.6%)となった。これは前年度の賃金解定率が2.7%であったからおよそ2年分の昇給率に近いものである。
「通るかな」
丸山は心配した。
普通、制度移行は賃金改定と同時で、その必要原資はベ・アの範囲内が一般的考え方としてあった。賃金のことは賃金改定時にというのがオーソドックスな考え方だった。
今回、このように大幅な原資を必用としたのは制度移行で減額者を出したくなかったのと、樋口に「元気な制度にしなくてはありがたくない」と言われたことが頭に残っていたからで、本来下がるであろう人を最低減同レベルに処遇するためだった。
「部長にかかっています。頑張ってください」
「辛いのう」
丸山もまた、組織を預かるトップとしての苦悩を味わっていたが、その顔は不敵に笑っていた。

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