現在、社員向けのe-learningコンテンツを複数部署で作成しています。
何かコンテンツを作成する上での秘訣やポイントがありますか?
e-learning教材は「とてもわかりやすい」という高評価がたくさんあります。
ところが、教育機関がe-learning教材を販売し始めた当初、一番多かった問合せは「印刷機能はないのか」というものだったそうです。そのため、最
近では必ずPDF版をつけて販売しているそうです。
これには、仕事中に学習しづらいという企業の風土的な問題や、当初は制作技術が未熟だったという面もあると思いますが、e-learning教材の特徴も
表れていると思います。
例えば、以下のようなものです。
1)他の教材と同様に、e-learning教材にも向き不向きがある
2)学習場所や学習方法などの制約が多い
3)学習する際の集中力が持続しづらい
4)復習しようとすると非常に面倒 ......などなどです。
これらの問題は、多くの工数をかけて対策をしたり、技術を駆使したりすることで克服可能な面もありますが、企業内でe-learning教材
を開発するときにはそれほど労力を費やすわけにもいきませんし、また特定のオーサリングツールやLMSを使っていると思われますので、利用可能な機能や技
術にも制限があります。
そのため、上述したようなe-learning教材の特徴を踏まえていくことはやはり必要となります。もちろん、特徴には印刷教材などではできないプラス
の特徴もありますので、それらも多いに活かしていくことが必要です。
さて、今回のご質問の「コンテンツを作成する上での秘訣やポイント」という点に関しては、以下の2つのレベルがあるかと思います。
1.コース・タイトルの全体構造をどのように設計するとよいか。
2.各ページをどのように表現するとよいか。
1は、テーマ、学習目標、学習内容、学習順序、および評価と学習補完方法をいかに組み立てるかという問題です。
ここで留意すべきなのが、上述したe-learning教材の特徴の特に1)に関する部分です。e-learning教材は、文章や口頭だけだと解説する
のが難しい概念や動作などを、「見せる」あるいは「動かす」ことによって理解しやすくするという点では非常にすぐれています。
一方、詳細で膨大な情報を暗記するような学習では、例えば分厚い参考書に線を引きながら頭にたたき込んでいくような学習で、印刷教材より優れたものを作成
しようとすると膨大な工数がかかってしまいます。
しかしながら、そのような学習をある程度のレベルまでやってきた人に対してなら、テストだけを準備するという方法で非常に効率の良い教材を提供することが
できます。
つまり、e-learning教材が向いている部分だけに焦点を絞って開発することが、まず効果的な教材を作るポイントといえます。逆にe-
learning教材で向かない部分は他の教材やメディアに任せてしまいます。
例えば、あるテーマについて、基本部分や中心的な概念の解説部分は、図解やアニメーションなどを多用したe-learning教材として展開する。その周
辺の関連する知識で必ず覚えてほしい内容は、ステップアップ学習のとして文字情報を少し増やした学習ページとして準備する。さらに詳細の知識や必要となっ
たときにあたればすむものは参考文献として紹介したり、関連するwebページにリンクを貼るなどして、e-learning教材から外してしまう、といっ
た割り切りです。
この関連でいうと、e-learning教材の特徴の2)3)も考慮する必要があります。つまり、パソコンに向かって学習し、集中力を持続で
きる時間がそれほど長くないし、あるいは個人差が大きいという点です。
印刷教材であれば、疲れてくると寝転がって読んだり、しおりを挟んで休憩したりとできますし、時間がなければ移動中に細切れに学習することもできますが、
e-learning教材ではそうはいきません。動画やナレーションを多用した教材では、受動的になりがちですので退屈するのも早くなります。しかし、途
中で中断しづらい作りになっていると苦痛が伴いますので、いったん休憩を挟むと次の学習を開始するときの気分的なハードルが高くなってしまいます。
また、画面上にその場の学習内容と直接関係のないナビゲーションボタンや関連リンクがあると、すぐにクリックしてしまい、学習が途切れてしまいます。
そこで、コース・タイトルを設計する際には、トータルの学習時間や時間単位が長くなり過ぎないように、十分検討しておくことが必要となりま す。例えば、1つの学習単位が10分程度、長くても20分以内、動画やアニメーションは1つ当たり3分以内、などです。そう考えると、やはり学習目標や学 習内容は欲張り過ぎず、絞ったものにしておくことがやはり必要です。
次に、学習内容の組み立てについてです。
わかりやすい教材というときに、平易な文書や図解など、表現方法が強調されますが、もう1つ、展開の仕方が実は非常に大きなウエイトを占めています。つま
り、学習者の思考プロセスをコントロールし、常に脳が活性化された状態を維持していく、という点です。
例えば、e-learning教材の初期のころに非常に多かった展開は、「標題→解説→解説→解説→解説→まとめ→テスト」というパターンでした。これだ
とどうしても、受け身の状態が長くなり、集中力が低下しやすく学習度もあがりません。
そこで、学習者が受け身にならず、考えている状態となるよう展開を工夫していきます。例えば「標題→興味を引くちょっとした例え話→簡単な概念解説→具体
的事例→概念の再整理→まとめ→確認テスト」といった組み立てです。この工夫がされいるかどうかが、学習の継続率や学習度に大きく影響を与えます。
ここで1つ参考になる概念に「発問/発問法」というインストラクション上の手法があります。以下のページに解説を入れてますので、よろしけれ ば参考にしてください。
学習内容の組み立てとの関連で、できればやってほしいのは、復習方法の工夫です。印刷教材であればいったん読んだ内容を振り返るときには、流
し読みをしたり、マーカーを引いたところだけを拾い読みをしたりということが可能です。ところば、e-learning教材の場合、特に動画やナレーショ
ンを用いたものの場合、復習しようとすると、最初の学習と同じだけ時間がかかってしまうということが起こります。そのため、1回流して学習したら二度と見
ないという状態となりがちです。
そこで、復習のページを別途に準備されていると、利用度が高くなります。これには、学習した内容を一覧できるページを設けたり、解説で用いた図解だけを動
きも外してパラパラめくりができるコーナーを設けるなどの方法があります。
続いてテストについてですが、一般のe-learningのLMSの場合、正誤問題や選択問題など、客観式のテストが主流かと思います。その
場合、単純に知識を問う問題だけになりますと、知っていれば解答可能ですし、知らなければ解答できず、思考が活性化されません。
そこで同じ客観式のテストを作る場合でも、できるだけ概念の理解を問う問題、いわばクイズ型の問題にしてくように工夫します。それによって迷ったり、考え
たりする余地が拡大し、脳が活性化されて学習度が高くなります。
以下は、正誤問題におけるその対比です。
a)CSRとは企業の社会貢献活動のことを指している。
b)CSR活動によってコスト増を招かないようにするには、自社が対応する範囲を絞り込んで取り組むことが期 待される。
以上が、概ね「1.コース・タイトルの全体構造をどのように設計するとよいか」に対応する内容です。もう1つ「2.各ページをどのように表現
するとよいか」という問題があります。
こちらは、1ページの情報量、配置の仕方といったレイアウトに関する問題と、文章や図解などの表現方法に関するが問題が含まれます。さらに、動画やナレー
ションの活用の仕方もありますが、少し専門的になりますので、ここでは省略します。
レイアウトに関しては、使用しているオーサリングシステムによる部分が大きいとは思いますが、その場の学習に必要のない余分な情報はできるだ
け排除し、できるだけ学習に集中しやすくするのがポイントです。この点は、通常のwebページを作成する場合に、自由に各ページに飛べるようにとグローバ
ルナビゲーションを配置するのとは逆の発想です。
ただ、現在どの部分を学習しているのかという現在地に関する情報は、小さく配置されていたほうが混乱が少なくなる可能性があります。
また、できるだけスクロールが発生しないようにと言われ、オーサリングシステムもそういう画面設定になっていると思います。ただ、これも読ませる内容が多
い教材だと、クリック数が増えて煩わしく感じられる場合があります。
情報の配置に関しては、視線の流れを意識して、左上から右下の対角線上に配置していくのが基本とされています。また、用語の解説など吹き出し
や関連情報へのリンクを増やすと、学習が途切れ、学習の持続性が悪くなります。
用語は解説の必要のない展開を工夫することや関連情報は一連の学習が終わったところにまとめて入れるほうがベターな気がします。
ここでのポイントは、「あちこち飛ばさない」「思考を分散させない」というあたりです。
図解に関しては、マニュアルTipsのコーナーでまとめたものありますのでご参照ください。
なお、静止画ということでは、図解やアニメより、写真が目を引くようで、さらには人の写真は視線が集まるようです。学習内容とは関係なくて も、ところどころに配置するとあきずに学習が進められるかもしれません。
最後にもう1つ。スライド型のコンテンツで参考になるものというか、私の好きなものがありますので、ご紹介しておきます。
★→高橋 メソッド