当社ではこれから10年で200名程度(全社員の約1/3)定年退職者が発生してまいります。このような事態に備え、中長期の人材マネジメントプランを策定する必要があります。要員の絶対数もさることながら組織、雇用形態や人材も含めて考えていく必要があると考えます。
そこで、このプラン策定を進めていく上でのステップ、留意すべき点について教えてください。
このご質問は、40年かそれ以上の歴史を持つメーカー系の企業に共通する問題だと思います。
同時に、まだどの企業も未体験の問題だと思いますので、こうすればうまく行くと言い切れる進め方は存在していない問題でもあります。
あるべき論的に言うなら、長期経営計画の組織・人材戦略そのものと位置づけてとらえるべきだろうと思います。
と言いますのも、10年というスパンですと、その間にいろいろな環境変化や技術革新が起きる可能性があります。そのため、現在の要員体制を前提に欠員補充
をどう進めていくかというレベルではなく、10年後の環境、事業の状況を想定するとどのような組織になっていないといけないか、あるいはしていきたいか、
という発想で検討を進めておく必要があるためです。
その前提に立って手順を考えるならば、次のようになります。
現実問題としては、採用というオペレーションを10年というスパンの計画でやろうとしても不確定要素が多すぎるだろうと思います。
そこで、一旦10年先を大ざっぱに見越しておいて、5年後くらいの組織にターゲットをしぼり、さらに3年程度の採用計画を策定するのがムダも少ないだろう
と思います。
環境分析では、事業に大きな影響を与える可能性が高い要因を中心に押さえます。
まずは需要状況と技術動向です。これは自社で生産する製品の量と質(品種や技術)がどう変化するかを想定するためです。また技術動向は、造り方がどのよう
に変化し、生産量に対する必要人員がどう変化するかという予測にも用います。
製造業では、製造拠点がどのように変化するかが必要な要員体制にも大きく影響します。そのため、国際経済、物流、情報技術の変化も押さえてお
く必要があります。
これからの10年間を考えると、少子化の問題を十分見通しておく必要があります。これは需要量の減少(変化)に伴う生産体制のあり方の問題と、採用ター
ゲットとしたい労働力の供給不足という問題をもたらすはずで、採用計画にも大きな影響をもたらすはずだと思われます。
例えば、需要予測に不透明感が強いとしたら派遣などを活用したコスト圧縮や柔軟な雇用体制にしておくべきですし、労働力の供給不足を考えると派遣によって
自社が求めるレベルの人材を十分確保できるのか、コストが高騰しないかなど計画通りにはいかない要因も想定しておかなければなりません。
上述したステップの3点目の「将来の組織や要員体制」については、大きな枠組みでとらえておくことがポイントかと思われます。
まず、組織の階層構造を前提に、マネジメント層(マネージャ)、監督指導層(コントローラ)、担当者層(オペレータ)と3つ程度に分けてそれぞれ必要人数
を洗い出しておくといいかと思います。
このうちポイントとなるのはコントローラだと思います。コントローラとして必要な経験とその年数がどれくらいか、オペレータからの内部昇格を前提とすべき
なのか、最初からコントローラとして採用することができるのか、それらによって採用方針を変える必要があります。
内部昇格が前提なら、その候補となる十分な人数をオペレータとして採用していく必要が出て来ますが、そうでなければコントローラとオペレータは異なる採用
ターゲットを選択することが可能となります。
また、事業や組織を運営していくには、上記の階層構造以外に押さえておくべき点があります。
1つは技術や技能面での特殊な人材と管理部門の人材です。これらの人材が、例えばコントローラと類似のタイプの人材であれば、コントローラとひとまとめに
して考えることが出来ます。しかし、全く別のタイプであれば分けて採用を考えていく必要があります。
あるいは特殊技能人材はコントローラと同じで、技術人材と管理部門の人材はマネージャと同じタイプと考えられるかもしれません。そうであれば、そういうく
くりで計画を立案していきます。
さて、組織を検討した結果、例えば次のようになったとします。
A)マネージャ +技術・管理スタッフ(一部はコントローラから昇格)
B)コントローラ +技能スタッフ+コントローラ予備軍としてのオペレータ
C)その他オペレータ
こうして分けてみると、それぞれ賃金水準(採用時、戦力化後)、育成方法・期間、採用ターゲットなどが異なると考えられますし、また分けたほう
が経済的で合理的だと思われます。
採用計画を考える立案する場合、上記の中で自社の固有技術を担い、育成に最も時間がかかる層を中心に立案します。
採用計画は、景気や業績状況の影響で大きな変更も起きてしまいますが、そういう場合にも中心に位置づけた層の計画だけはしっかり維持し、他は柔軟に変更さ
せていくという方法が現実的かと思われます。