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苦悩の限界

更新 2012.04.25(作成 2012.04.25)

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第6章 正気堂々 43. 苦悩の限界

「それじゃこれで、環境面からの課題は絞り込めましたから、次はもう少し人事面の問題点を洗い出しましょう」
藤井は新たな分析手法とそのためのワークシートを提供し、人事の問題点を洗い出させた。各自思いつくままカードに書き出しジャンルごとにマトリックスでまとめさせた。

イメージ図1
そして、ここから第2の課題が絞り込まれた。
そこには、
『人事制度の理念を明確に打ち出すことや挑戦を重んじる社風の醸成、評価の明確化、コミュニケーションの充実、日常業務と人事制度の連動強化、人材の育成』など、中国食品全体に不足していた構造的課題が浮かび上がってきた。
オペレーション中心の事業構造の中で、人材育成や自らが考え動く主体的行動や課題形成力など、本来人間が持っている自主自立の精神を押し殺してしまう事業の性格的問題点がクローズアップしてきたのだ。
「マニュアル系、作業系の事業会社では、こういう特性を持つ会社はよく見受けられます。だからといって会社全体がそうなっていいというものではありません。そういう職種もあるでしょうが、やはり一人ひとりは問題意識をもって自立的行動体であるべきです」
藤井はそう解説した。
そのほかに経営から見た人事課題では、
『社員が果たすべき課題が鮮明になる、生き生きと活動し社会に貢献する、人間性が尊重される、チャレンジ精神旺盛な社員の育成、社員のやる気の醸成、人材育成の強化、公正評価、公正処遇の実現』などが抽出された。
これは、会社の経営理念や経営方針からブレークダウンして抽出した課題である。
他にも、事業面からの課題があったり、資格と職位の対応関係や人員の分布状況など現行制度の運用状況からの課題など、あらゆる角度から人事の解決すべき課題を検討した。
最後に藤井はこんな作業を課した。
「改革という名のもとに、わが社の歴史は全て捨て去っていいですか。何もかも変えたらいいってものじゃないように思います。過去の蓄積の中には遺産もあれば財産もあります。こうした分析だけから制度を絞り込みますともぐら叩き、つまり欠点管理の性格を帯びた制度になってしまいます。わが社の本当のいいとこ、悪いとこをもう一度確認しましょう。いいところは活かし悪いところは克服する仕組みを考える。そのステップを挟むことで制度が現実的で奥の深い制度になります」
今度はKJ法だ。藤井はやり方だけをリードする。あとはプロジェクトに任せた。
こうして再び新たな議論が進められ、そして導き出された結果がこれである。

イメージ図2

この作業一つを挟むだけで制度の方向性がぼんやりとではあるが何をしなければならないか、どこに力を入れなければならないか、制度の骨格らしきものが見えてくる。
この辺まで来ると平田にも藤井の意図がわかるようになってきた。
“なるほど、急いてはことを仕損じるの例えか。見切り発車しなくてよかった。しかもPTメンバーの力が確実に付いてきている”
平田が殊更ドラスティックに変動する賃金制度だけに焦点を当てていたことを思うと、制度のとらまえ方がまるきり違っている。もっと大きく人事全体の佇まいが見えてきた。これこそが平田の目指す人事のありようだ。
ただ藤井の凄いところは結論を押し付けないことだ。メンバーに考えさせ、とことん議論させ、悩み苦しませ、これしかないという言葉を搾り出させた。それが後に中国食品独自のいい制度に結びつくことになる。
メンバーが行き詰まったり悩んでいるときは解決の糸口やチョッとしたヒントを与えるだけで、けして口出しすることなくじっと待った。
平田たちはこうした議論を永遠と1年近くも続けただろうか。そしてやっと、このたびの人事制度改革の方向性が浮かび上がってきた。
そこには制度のみならず、人事全般の進むべき方向性がさらにくっきりと見えてきた。
プロジェクトチームが絞り込んだ人事課題のイメージ表だ。

イメージ図3

血反吐を吐くような議論を何カ月も繰り返し、やっとここまで来た。中には議論を諦めたり、何をやっているのか方向感を失ったり、付いてこれなくなったメンバーもいた。それでも平田と藤井は逃げるわけにはいかない。
この頃、平田はストレスと先の見えないフラストレーションで眠れない夜が続いていた。
「平田さん、私もいますし、丸山部長もおられるじゃないですか。もう少し頑張ってください。そうすれば少し楽になります」藤井は平田を励ました。
平田も丸山も、藤井が悪質タクシードライバーのようにわざと遠回りして工賃稼ぎしているのでないことは十分承知している。藤井がここまで無償でコーディネートしてくれているからである。有償ならば責任の半分を相手にお仕着せる気楽さをどこかに持つこともできるが、藤井の気持ちは純粋だ。それだけに平田には重圧がかかる。
そんなとき平田を救ってくれたのが丸山である。
「どうした。近ごろ元気がないやないか。一人で悩むことはないぞ。辛いときは相談せーよ。誰か助手をつけようか」
そんな一言で平田は救われる気になる。
丸山は部下全員の様子をよく見ており、平田の苦悩が限界に近いことも気付いていた。

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